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追憶:道に迷った日

 タイトルに"追憶"とつくものは大体何かしらのキャラの過去や番外編です

 私、集夜梓しゅうやあずさの人生はひたすらに迷い続けるものだ。今も迷い続けている。そのろくでもない人生を振り返る。


 私は変な事を考える人間だった。あらゆるものに意味をもたせようとしていた。自分で色々な事を考えて、他人に認められることが意味なのだと気づいた。


 意味があるからこそものはそこにあるのだと。本当に変なことばかり考えていた。だから間違えたんだろうな。


 あとは、自分に語りかけるようなことをするのが多かった。そうやって情報を整理したり、とにかく色々なタイミングで自問自答していた。


 それ以外は、自分の中では普通の女の子だったつもりだ。特に何不自由もなく、普通の日常を送っていた。


 特に小学生の頃、仲の良い友達がいた。その友達には好きな人がいたようで、それについて話したりしていた。


「やっぱりさ、なんでもクールにこなしちゃう人はかっこいいよね!」


 サッカーチームに入っているその人を眺める友達が、なんとなく隣にいる私にそう話した。


「うーん、私はたくさん努力する人好きだけどね。それを見るもの好き。あの人だってクールにこなすまでに色々努力してるかもしれないよ?」


「言われてみればそうだね……私はまだあの人のことを何も知らない……精進せねば」


 何気ないこの会話がずっと続くものだと思っていた。本を読むことも好きだったから、彼女と日の下で本を読むことも続くと思っていた。


 でも、小学生を卒業すると同時に友達はどこかに引っ越してしまった。連絡先は交換したけど、遠くてなかなか会うことはなかった。


 それは悲しかったけど、月日は待ってくれない。私は中学生になっていた。そこからだった。本当の地獄は。


 二人の女子が私に話しかけてきて、そこからある程度交流を持っていた。クラスの中心となっていて、お金もあるようなので影響力が強いのが気がかりだったけど。


 そこから部活が始まった頃、二人が一人の先輩がかっこいいと話していた。それは転校した友達が好きだった人だ。


「なんでもそつなくこなす人って憧れるよね。なんでこんなにかっこいいんだろ。梓もそう思うよね」


 転校した友達との会話を思い出していた。もしかしたら似たような人かもしれない。そう思って躍らせた心はすぐに裏切られた。


 以前と同じように、やんわりと意見を話そうとしたら、私が話すより先にもう一人が話した。


「本当にそう。がむしゃらに努力してるやついるけど、必死な感じとかキモくて生理的に無理」


 発されたその言葉を前に言葉を詰まらせてしまった。ここまで簡単に人を否定できるものなのだろうか。とにかく頭が混乱していて、うん、と答えるしかできなかった。


 しばらくして、私は見てしまった。二人が教室の端で静かにしていた子を執拗に言葉責めにしているところを。


 こんなこと初めてで、本来やってはいけないことのはずなのに、訳がわからなくなってそこから逃げてしまった。自分は、弱いと思った。


「あんたこんなもん見てんの? キモい」


 そんな声が聞こえて、怖かったから学校に本を持っていくことをやめた。自分の趣味を否定されるのが怖かったのだ。


 ほんの少し一緒にいるだけなのに、すごく息苦しかった。人間関係とはこんなものだっただろうか。自分を隠すってこんなに辛いことなのか。


 それが嫌だったから、色々なことを試した。私が好きになれそうなものを、二人にも共有しようとした。そうしないと私が認められない。私の意味がなくなってしまう。


 でも、駄目だった。全部駄目だった。食べ物も曲も有名人もスポーツも動画も場所も、全部駄目だった。勧めても取り合ってもらえず、ずっとあちらの話だけされる。


 ある日公園で本を読んでいて、二人に出くわしたことがあった。その時も、彼女達の口から出たのは否定。いつもそうだ。いつもいつも。


「本読んでるなんて梓らしくないよ。似合わない」


「もっとキラキラしたことしなよ。ほら、こういうの」


 私はあなた達じゃない。私は私だ。なのに、私が私である意味を全く認めてもらえない。本当に、何なんだろう。


 そのうちに気づいた。あの人は自分達の価値観以外見ようともしないのだと。その価値観の数が非常に少ないのだと。


 彼女達に進められたことをやろうとしてみた。動画サイトでのネット配信、あまり好きになれなくて、その旨を伝えた。


「もういいや、あんたつまんない。もう話しかけないで」


「こんなやつだと思わなかった。早く消えて」


 そう言って突き放されてしまった。でも、彼女以外にも話せる人はいた。そう思ってそう深くは考えなかった。その時には、もう手遅れだったのだ。


 しばらくして、誰も話しかけてくれなくなった。学校で全ての人から無視される。


 いつしか私は、これが好きだ、と言う本質どころか、私という存在すら否定されるようになったのだ。心がどんどん苦しくなっていった。


 それでも、ただ一つの希望にすがった。一年生さえ終われば、と。無視が始まったのが九月なので、六ヶ月耐えればいい。


 だから、どれだけ悲しくても、苦しくても、いくら家で枕を濡らすことになろうとも、耐えてみせた。いつか戻ってくるであろう普通の日常のために。


 耐えて耐えて耐えて、その先にあったものは、変わらない生活。誰からも話しかけられず、私という人間の意味が薄れていく気がした。


 どうしても、それが認められなくて、これ以上耐えられる気がしなくて、なんとか状況を打破しようと自問自答を開始した。


 この時にはもうかなり心にダメージを負っていて、心が麻痺して自分で自分を否定していることを認識できなかった。


 結局、あの二人に私が認められるしかない。だから、認められる、かつ私が好きになれるものを探す必要があった。結局これしかなかった。


 本好きの私は、私らしくないと言われた。だから認められない。意味はない。努力をする人が好きな私もそうだ。これも駄目だ。


 食べ物も曲も有名人もスポーツも動画も場所も、全部意味はない。あれ? 他に好きなものって何だろう。もうわかんないや。


 そして、一度思考が止まったタイミングで気づいてしまった。私自身が私を否定してしまっている。それに気づいた時、震え上がった。


 私が否定している私って何? 本が好きで努力家が好きであれが好きでこれが好きで……これが私だけど、否定されてるから意味がないな。


 じゃあ、息苦しいのを耐えて本質を隠して、外装だけでも取り繕えば……駄目だ、今私は本質どころか存在そのものが認められてないんだ。そこにいるだけで駄目なんだ。


 ーー私に意味はないの? そんなはずはない。見落としてるだけかもしれない。考え直そう。


 本好き……意味無し……努力家……意味無し……あれもこれも意味はないし意味はないし……駄目だ。どれだけ考えても変わらない。


 あれも私でこれも私で……意味はなくて……私に意味はなくて……こうやって断捨離してる時点で私が私を認めてないな。最期まで認めてあげないといけない私自身が。


 ーー誰も認めてないなら、私っていらなくない?


 だったらどうしたらいいんだろう。他人にすり寄ればいいのかな。他人に流されて私が他人になって私が消えればいいのかな。


 駄目だ。体が私である時点でそれはみんなにとって私なんだ。


 あれもこれも意味はなくて、それは私で、私に意味はなくて……他人になってしまえば私はいなくなるから意味ができる?


 でも姿は私のまま。結局私で意味はない。私はあれで……これで……それじゃ駄目で……他人でも駄目で……。


 私は駄目で、他人の私も駄目で、私は他人で他人は私で?


 あれ、私ってなんだっけ? 私って存在していいんだっけ? もう全部わかんないや。何で私泣いてるんだろう。


 そんなことをずっと考えていたら、自分がわからなくなって心が壊れてしまった。


 痛くて、だるくて、やる気はなくなり、イライラして、動悸はするし、眠れないし、笑えないし、食欲は出ない。


 それでいて泣けもしない。表情がないのだ。そんな状態がずっと続いて、ついに親に気づかれた。そこから治療を受けて、回復したのは中学三年生の四月だった。


 回復したと言っても、表情だけはまだ戻ってこない。急いで無理やり作ったぎこちない笑いと、思い詰めた歪んだ顔しかできない。


 そんな時に、転校した友達から遊びの誘いがでた。医師からは許可が出たから、遊ぶことになった。また楽しく遊べれば、なくした表情が戻ってくるかもしれない。


 ハチ公前に集合することにして、その時を楽しみに待っていた。そんな矢先に、暴走トラックが突っ込んできた。

誰かに庇われたから激突で死ぬのは回避した。


 でも、ふっ飛んだ先が電柱で、そこに頭をぶつけて結局死んでしまった。


 そこからは、少しのお金と一つ何か能力をもたせたと言われ、意味の分からない世界に飛ばされ、今に至る。


 そこまでの過程もまた生き地獄のようなものなのだが。 


 とにかく、テンリ君の話を聞いて、私を庇った人が間違いなくテンリ君だとわかった。それがバレるのは嫌だ。


 自分が命をかけて救おうとした人が結局死んだと知ったら、すごく悲しむだろうから。


 上手く笑えないといけない。心を壊した女なんか、気持ち悪いに決まってる。隣にいさせてもらえなくなる。どうやったら、もっと上手く笑えるのかな……。

 

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