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四十話:必然が必要に

 一つのささやかな願い、それをアズサに話す。


「アズサ、俺に普通に生きるってことを教えてくれないか?」


 長い間アズサが隣にいたせいか、少しずつ目的が変わってる気がする。元の目的は手段へ、新しい目的はよりささやかに。


 アズサと何気ない日常を過ごしたい、何でこんなことを思うのか自分でもわからない。友達になってもらって、助けれて。そんなアズサは特別な存在のうちの一人なのかも。


 そんなささやかな願いを叶えるために皆に認められなければならない。皆に認められる、それは変わらない。


 でも、そばにアズサがいてほしい。仲間として。ただ楽しくて、アズサと過ごす方が認められることより大切になってきてる。


 理由はわからない。この気持ちを言い表す言葉もない。人に聞きたいけど、アズサには聞かれたくない。


 だから、すごく卑怯なやり方をした。俺が知らないことが多いってことを利用して、教えてもらうっていう名目でそばにいてもらおうとしている。


 素直に言えない俺が恨めしい。でも、どうしても言えない。どうしてだ? わかんないな……。


 一人の人間に依存を始めた俺の精神は弱くなっている気がした。


「もちろんいいよ。君は私を助けてくれるし、お願いは聞くよ」


 そんな大したことしてないんだけどな。今のところただ口だけだぞ。それでも嬉しくて、照れてしまって本を読む振り。


「うん、ありがと」


「テンリ君、本逆さだよ」


 やべ、しくった。しかし、本当にアズサに頼んでよかったのだろうか、これ。普通に人と触れ合えないことに悩むアズサに頼んでよかったのだろうか、これ。


「それ古代語? 私まあまあ読めるんだよ」


「え、マジで? それじゃこれがよくわかんないんだけど」


 ある程度読んで、確認問題的なページを試してみたのだがわからなくて止まってしまっていた。アズサはそのページを覗き、答えを出した。


「それ"寄り添う"っていう意味だよ。ロマンチックだね」


「ぎっ……!?」


 何でこのタイミングでその言葉を? 偶然がすぎる。他にも色々と教えてもらって分わかる単語がかなり増えた。


 それで秘伝書が少し読めるようになった。体に……浸透……体が……動きがよくなる……ここまでわかる。うん、わからん。


 虫食いってレベルじゃない位飛び飛びだ。しかし大分多く単語を学んだ。ただ秘伝書に関係ない単語だっただけだ。


 しかし、たくさん単語を覚えて少し疲れた……。何か息抜き……そうだ。


「アズサ、恋愛モノ一つ借りていい?」


「いいよ。それ面白かったんだよ、感想聞かせてね」


 え? すごい分厚いんだけど、もう読み終わったの? すごい読むのが速いんだな……本好きの貫禄出てるって。


 読み進めてみたのだが、何だこれ、凄まじく世界観が壮大だ。そんな中で儚い二人の愛……やっべえ……引き込まれる。


 えっちょ……そんなのないって……待って救いの手……え? 死んじゃった……。


「お前本当はいい奴だったんだな……」


 お前ら認めてやれよ! よく言った主人公! うわうわうわ……場面変わってきた……待ってこれ伏線だ。


「お……あ、おぉ……」


 やった……ハッピーエンドだ。よかったね……。何だこの神のようなお話は。力強くて儚くて……俺が前世で知ってる恋愛モノとはまだ違う……いい作品だな……。


 隣のアズサは面白そうにニコニコ笑っている。視線の先は俺の顔。


「もう感想が表情から見て取れるよ。嬉しいな、そんなに本に感情移入して読める人久しぶり」


 喜んでもらえてる……のか? 感想を言う必要なくなったじゃないか。


 他愛もない会話をしながら本を読んだ。本をこんな恋愛モノを読むことはなかったから楽しめた。古代語も治癒についても見聞を深められたので、有意義な時間となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 午後四時、服のお披露目である。図書館を出て、さっきの服屋へと向かう。さて、一体どんな服が出来上がっているだろうか。


 店へ入り、店員に招かれる。連れられた先にあったのは、ハンガーにかけてあった俺たちの服。それだけじゃない。マントまで付いていた。


 俺の服は黒基調、アズサの服は白基調になっていて、俺のは比較的軽く、剣士としての動きを阻害しないものになっていた。


 アズサのは、いかにも魔法使いっぽいローブのようになっていた。あまり動きに富んでいないが、防御力が高そうだ。


「こちら、どちらも物理耐性と魔法耐性が格段に上がっております。あとは、気温をあまり気にしなくてよくなります」


 防御面の能力が全部上がってる……ロードの毛皮が素材として完璧すぎるな……。


「ところで、このマントは?」


「そちらは、ある程度毛皮が余ったので、それを混ぜ込んで作りました。気温を気にしなくてはいいと言いましたが、あまりにも寒すぎると耐えきれなくなるのでマントがいいと思いました」


 細かな気遣い、店員の鑑だと思った。店員に促され、俺と作られたその服を試着した。


 着やすく、もはや普段着として使っても違和感ないレベル。上から何か着れるっていうのもポイント高い。元からのデザインはかなり良く、自由度も高い。


 試着室から出ると、くるりと一回転してマントをなびかせているアズサがいた。アズサは羽織るだけだから試着室に入る必要がなかった。


 そう、その姿はさながら魔法使いそのものであった。帽子があったら完璧だ。まあ、アズサは杖使わないからどっちでもいいんだけど。


「見て見て、マントだよ! すごいね、かっこいい……」


 アズサが子供のようにはしゃぐ、そんなことが最近増えてきている。少しずつ作り笑いが消えている気がする。それは俺のおかげ……だったらいい。


 アズサのマントは緑色で、俺のマントは紺色。暗色はいいかもしれない。暗いところで溶け込みやすい。夜に依頼をこなす時に役に立つかも。


 さて、肝心のお会計は……1200万テル!?高っか……でもしょうがない。性能が高いものはそれだけお金がかかる。魔法にも物理にも耐性があったらそりゃもう……。


 こういうところでお金がかかりまくるからあんなぶっ飛んだお金が入るんだろうな、代行者って。ランクが上がる毎に報酬が増えて、気づいたら500万だからな……。


 ランクが高いほど良い素材手に入って、いい装備を作るからお金がかかる……よく出来てるよこの世界。高ランクの依頼は受けてからしばらく受けられなくなるし。


 昔荒稼ぎした人がいたんだろうな……。


「それじゃ、ありがとうございました」


 店を後にし、また図書館へと戻る。まだ晩飯の時間までしばらくあるし。まだ覚えないといけない単語はたくさんある。


 しかし、問題なのは覚えた単語を忘れること。一番もったいないやつ。何かに書き留めておきたいところだ。


 紙とペン、ちょっと前に買ってたはずだ。それに単語を書いていく。数が多く、なかなか進まない。


「私も手伝おうか?」


「そう? それならお願い」


 アズサにも付き合ってもらって大分多くの単語を書き留めておくことができた。そして疲れたのでまた恋愛モノを借りる。


 そしてまた身悶えする。俺そこら辺の女子よりよっぽどどぎまぎしてないか? 時々アズサも顔を覗かせては一緒に悶える。


 治癒について調べ、古代語を学び、恋愛モノで身悶えする。そんなループを繰り返していたらいつの間にか晩飯の時間だ。


 普通の食堂で、普通に会話して普通に飯食って。どれだけ怖がられても、もうどうにも思わなくなった。俺にとって、忌避されることが普通になってきているのか?


 何なんだろう。じゃあ普通の日常は俺にとって普通じゃないものだから欲しがるのだろうか。よくわかんないな。


 最近、自分の中で普通の定義がごっちゃになってる。……こんな事考えてたら飯も美味しく食べられない。今はそんな事考えなくていいや。


 アズサと普通に生きてる間は、目を背けてもいいかな。でもアズサと普通に過ごすことが目的なのに、アズサと普通に過ごして目を背けるってなんなんだ?


 もうアズサといれたらそれでいいんだな、俺は。わからない感情だらけだ。仲間と過ごすって、こんなことなのだろうか。

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