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三十八話:一歩

 おそらくロードは腕が硬いとかではないと思う。剣がめり込んでいる感触はあるが、血が出ていない。となると、毛皮が硬い可能性が高い。


 だとしたらなんで肘曲がるんだよ、構造おかしいだろ。とにかく、毛皮がないところを徹底的に叩くしかない。狙えるのは指先と顔。


 倒すには顔を貫くしかない。だが、ロードの間合いが長すぎてうまく近づけない。さっき近づいたのを警戒されて間合いの取り方が厳しくなっている。


 だが、飛び道具が使えるほど距離が離れているわけではない。大体2、3m程なので使えるわけがない。


 だからやってくるのは薙ぎ払いだけだ。その予備動作に合わせて動く。一番隙が大きいのが薙ぎ払いだ。


 しかし、なかなか薙ぎ払いをしない。振ってきた腕を剣で防ぐ、それがしばらく続く。いつまで経っても終わらない、よし、勝負に出よう。


「キイィィィィ!!!!」


 打ち合いで体制を崩した、ふりをする。こいつは賢いから、明らかな隙に大技をぶち込んでくるはずだと思った。狙い通り。


 こっちは反発ができるから無理な体制からでも飛び上がれる。そのままロードの顔に向かって剣を向ける。


 後は気合勝負。ロードの額に剣を突き刺し、思いきり力を入れる。毛皮だけじゃなく、皮膚も結構硬い。なかなか剣が奥に進まない。


「う、あぁぁぁぁ!!」


 掛け声とともに更に力を入れる。少しずつ、少しずつ剣が刺さっていく。だが、ロードも譲らない。剣を刺そうとしたタイミングで俺の足と脇腹を思いきり掴まれている。


 足が折れ、腹は抉れてきているので上手く力が入らなくなってきた。それでも、気合だけは負ける訳にはいかない。


「負けるかよ、うらぁぁぁ!!!!」


 ちょっとずつ、少しずつ剣は刺さる。そして、そのうち俺の足ではない場所から何かが砕ける音がした。俺の剣はロードの頭を貫通していた。


 これで、一体目……二体目は……アズサ達の方に行ってるかもしれない。早く向かわなくては。自分の体に治癒をかけ、アズサ達がいる家へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アズサとヤエルはテンリにもらった図を駆使して、ホワイパーを倒していた。弾幕の数自体はどんどん減ってきている。だが、一つだけ厄介なことがあった。


 何度も攻撃を受け、隠れていた家がもう限界寸前だった。いくら大きいとはいえ、支柱を壊されれば倒れる。ついに耐えきれず、家は倒壊した。


「まずい、崩れる! アズサ、こっちに来い!」


 近くに偶然空いていた大きな穴から脱出し、攻撃の数が減っていたのでまずは辺りの状況を確認しようとした。何の心配もなく、前を見た時、目の前に剣があった。


「何!?」


 一本ではない、いくつも同時にだ。水で受け止めたが、一本だけ間に合わず、頬をかすった。一筋の血が流れたが、大したダメージではない。


「しかし、出てきた瞬間を狙うとは、どれだけ狡猾なんだ」


 目の前に、機嫌の悪そうな顔をしたサルがいた。ロードだ。剣がいまいち効果をなさなかったことに不満気である。


 ロードは後ろを振り返り、その直後に距離を詰めてきた。ロードの対処はヤエルがしていた。その時、アズサは違和感を感じた。


「向かい風……風向きが変わった?まさか!」


 即座に行動に移す。かなりの威力の風魔法が飛んでくる気がしたからだ。ホワイパーがまとまっていて、倒しやすかった。だが、まとまりの数が多かった。


 ロードが笑みを浮かべている。ヤエルはロードに夢中で気づけていない。一気に巻き起こった風の流れでヤエルは宙に浮いた。


 ロードが予備動作をとった。潜り込まれすぎたため、アズサはロードに魔法を当てられない。


「ウッキィアァァァ!!」


「やらせない!」


 薙ぎ払われかけたその時、テンリはロードの頭に剣を突き刺した。しかし、すぐに引き剥がされてしまった。力がさっきのロードより強い。


 アズサはテンリが剣を抜いているのを見てなんとかしてくれると思ったが、引き剥がされたのを見て、少し脳裏をよぎったことがある。


「テンリ君、剣を抜いたってことはトラウマを乗り越えたってことか……」


 テンリが勇気を出したのだ。剣を抜くことをためらいもしただろう。でも今、テンリは剣を使って戦っている。ならば自分も勇気を出さなければ。


 その行為は自分にとって寿命を縮めるのに等しい。だが、テンリに勇気付けられた自分がいる。大丈夫。


「テンリ君、離れて」


「離れてって……いや、わかった」


 アズサがこれまでにないほど真剣な顔をしていた。テンリはそれを信じて、ロードと反発して距離を取った。それを見て、アズサはロードに近づいていく。


 テンリは目を疑った。それはアズサにとっては自殺行為なのだ。距離を詰められたらいけないのに、自ら距離を詰めたのだ。何をするつもりなのかわからなかった。


「ロードはヤエルさんとテンリ君がなんとかして、私は何もできないなんて、嫌。それに、あれを相手していたらみんな死ぬかも。少し減っちゃうけどいいよね」


 そう呟き、ロードに掌を向けた。右腕を伸ばし、左手でそれを支える。動きを止めたアズサを見て、ロードは腕を振り下ろそうとした。


 アズサは唱えた。諸刃の剣でもある、自分の最強の技を。


「ファイア」


 風が吹き荒れ、上へとものすごい威力の魔法が巻き起こった。これは一応魔法である。属性はない。だから属性魔法に耐性があるロードでも防ぎようがなかった。


 そもそも威力だけで言えばアルファベットなどでは測定不可能である。属性があったとしても防ぎようがない。使うのにはそれ相応の条件が必要なのだが。


 兎にも角にも、ロードは跡形もなく消し飛んだ。これを以て、ホワイパー討伐作戦は完全に完了した。


 ーー依頼完了。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ホワイパー襲撃二日後、依頼を終えて体をしっかり癒やし、もうここにいる理由がなくなったので帰ることにした。


「この度は、我々の依頼を完遂していただき、ありがとうございました。王も喜ばれております」


 そう言えば一応ここ王国だったんだっけ。なんでこっちの王様がどんな人なのか気になる。アルライムの王様と比べてみたい。


「王は今床に伏せられている故、お会いさせられないのが残念です」


 そうか、ならば会えないな。仕方ない。


「テンリ殿、あなたにはオッドアイということであらぬ偏見の目を向けましたが、あなたはこの国を救った恩人です。申し訳ない、そして、ありがとうございました」


 ……やった!俺、こんなに多くの人に初めて認めてもらえた!これを続けてればいつか……もっと依頼頑張ろう。


「では、こちらが報酬の5000万テルでございます。それと、こちらをどうぞ、我が国の誇る農作物です」


 これは嬉しい! 滞在中にごちそうさせてもらったけど、ここの野菜本当に美味しいんだよな。アズサと声を揃えて感謝を述べた。


「美味しいお野菜ありがとうございます!」


「へえー、私達には出し渋るのに、農作物をあげてしまうんですか……不公平ですね……私達にも恵んでくださいよ」


 木陰から一人の男が現れた。スーツとシルクハットに身を包み、無精髭を生やした胡散臭い男だ。


「何を言っているのですか。もう今月のノルマは達成したではないですか……」


「ノルマなんて関係ないです。今なんとなく欲しいから取り立てる、それだけです。私達がそのような団体だということをあなた達はよく知っているでしょう?」


 これが、資金を提供した団体ってやつなのか? 暴論すぎる……なんだよ欲しくなったからノルマ増大って。そんなことまかり通っていいわけない。


「そんな殺生な……それでは一方的にそちらが有利ではないか……この前」


「対等な関係など築くはずないでしょう。もう私達はこの国の利権を買っているのです。ああ、文字が違うので契約書が読めないなんて言い訳は許しませんよ」


 おいちょっと待て、この国は確か文字だけが他の国と違っていたはず……騙して無理やりこの国を買ったってことか?


「そんなのひどすぎる……」


「魔物に襲われたこの国が悪いんですよ」


 この男、いちいちムカつく。なんかねっとりしてて、じわじわ追い詰めてくる。もうオッサンって呼んでいいよね?


「それでは来週までに300kgの農作物、よろしくお願いしますね」


 そう言ってオッサンは去っていった。でも、村人達の目は燃えていた。


「ホワイパー達はもういない。これから農作物をバンバン作って儲けて、利権を買い戻してみせます。諦めません。だから、テンリ殿も偏見に負けないでください」


「……はい!」


 俺達もカームを後にして、次の旅を始めたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヤエルさんとの別れだ。しばらく一緒に戦っていたからか、名残惜しい。


「取り分の話するけど、野菜と1000万テルちょうだい。いい仲間だったよ。ありがとう」


 え? ちょっと少ない、何で?


「こっち装備多いし、どうせ補修とパイくらいにしかお金使わないからね。君達前途有望だし、いい装備作ったりしなよ」


 Aランクから前途有望のお墨付きを頂いた。俺たちのために……本当にありがたい。


「あと、頼みたいんだ。あれだけ凶暴化にいい戦いできる人いない。だから他の凶暴化も倒してほしいんだ」


「いいよ、そうしたら他の人に認めてもらえる。人の役に立てるからね」


 俺の返答を聞いて、呆れた顔でヤエルさんが俺に言う。


「軽いな……でもやろうとしてることは重いよ。それ世界を変えるのと同じようなことだよ」


「じゃあ変える。傷付く覚悟はもうできてる。だからいくらでも頑張れるよ」


「全く……でもできる気がするよ。最初、僕も嫌悪感あって、オッドアイの力だけに期待してたんだけど、頑張る君見てたら吹っ飛んだ。君は人を変えられるさ。頑張れ」


 ヤエルさんは手を出してきた。その手を取り、固い握手を交わした。そのまま、別れは言わずに、俺達とヤエルさんは別々に歩き出した。

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