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三十二話:無駄に生きる

 かつて俺が歩いてきた森の中を、高速でどんどん進んでいく。今ではここまで速く走れるのか……成長を感じる。


「テンリ君!速い!怖い!少しだけ遅く……てっ、テンリ君!下、下!」


 え?下?あ、ここ岩の上じゃん。地面がない……ジャンプするか。


「アズサ、歯を食いしばってくれ」


「え?まさかだけど……待って待って!!」


 いけるだろ、こんなのジェットコースターに乗るようなもんだろ!乗ったことないけど!


 岩を飛び降り、そのまま落下する。両手が塞がってて電撃が飛ばせないから反発ができない。足が少し痛いな……。


「こ、怖かった……」


「あと少しだ!飛ばしていくぞ!」


 全速力で森を駆け抜け、ついに見えてきた。俺を送り出した、大きな塀に囲まれた国が。三年ぶりか、王様に会うのも。


 今思えば、あの人に会わなかったら俺はどうなっていただろう。考えるだけで恐ろしくなってくる。それだけ、俺の中であの人の存在は大きい。


 久しぶりに会えるのが楽しみだ。国境近くまで来たので、岩とアズサを降ろし、歩いて国境へと向かった。


「入国は許可できません。もし入るとしても、罪人として入国することになりますが」


 ……だよな。そう来ると思った。しかし、これは王様が対策を立ててくれている。王様は三年前、俺に特例での入国許可のカードみたいなのをもらっている。


「これは、どうせ偽物……え?本物?」


 本物のカードには、魔力を通すと模様が浮き出る仕様があった。精巧すぎてほぼ再現不可能な上に、大体の人が模様の仕様を知らないため、こうなったら本物と認めるしかない。


「何故あなたがこれを持っているかわかりませんが……仕方ない。入国を許可します」


 許可が降りました。マジで断られたらどうしようもなかった。なんでここに来た時大丈夫だった?ああ、出てきた場所がアルライムの中だったからか。


「テンリ君、話には聞いていたけど、なかなか整った国だね……」


 そういや王様言ってたな、インフラに力入れてるって。それは三年たった今でも変わってなくて、綺麗で、穏やかな町並みだった。


 道行く人が恐ろしいものを見る目で俺を見ている。久々だな、この感覚。思い出したくなかった。一部の人はパニックまで起こしていた。


 直接手を出してくることはないけど、なかなかオーバーな反応するんだよな、ここの人達。


「なんか、いたたまれないというか、どこに行っても同じような目に遭うんだね、オッドアイって。よくわからないや」


「まあ、学校で受けた仕打ちよりは遥かにマシでしょ。あ、少し寄りたい所あるから行っていい?」


 一つ、やっておきたいことがあった。剣の手入れ、前の戦いでダメージがたまっているのに、自分では剣が抜けないため、鍛冶屋に頼る必要があった。


 鍛冶屋は鍛刀以外に、剣の補修もしてくれるので行かなくてはいけなかった。ただ鍛冶屋に向かって歩いていただけなのに、めっちゃビビられてる。


「ひぃっ!こっちに来るな!」


「お前、店の前に立って何する気だ!」


 ……気にしない、気にしない。レッツオープンザドア。扉を開けた先には熱気が立ち込めていて、蒸し暑い。屈強な男達が鎚をひたすらに振っていた。


「テンリ君……私、ここ……」


 ……駄目なのか?まあ確かに、女子にここは厳しいかもしれない。女子からしてみれば、むさ苦しいものって結構……


「すごい好きかもしれない」


 ……ん?予想外すぎて鼻水出そうになった。でも、隣に立つアズサは目を輝かせていて、マジで気に入ってるようだ。


「なんかこう、ひたむきに頑張るところとか、カンカンって鳴る音とか、この暑さとか、同じ世界に入れる没入感みたいなのとか、いい!」


 なかなか特殊な感性をお持ちのようで。それに鍛冶師の一人が反応する。


「なかなか尖ってるな、嬢ちゃん。あんた、客かい?」


 筋骨隆々で、白いヒゲがよく目立つ大柄のおじさんがそう話しかけてきた。威圧感が漂っていて、他の鍛冶師は彼より若いことから、彼がリーダーなのだろう。


「あ、違いますよ。お客は、この隣の」


 そう言って俺を指さしたのだが、屈強な男達の顔が、一瞬で情けないものになる。


「いらっしゃ……お、オッドアイ……」


「何しに来やがった!まさか……強盗じゃねぇだろうな!」


 アズサ、俺のこと客って言ったよね、話が聞こえてないのか?いや、忘れるほどオッドアイの悪名は轟いているのだろう。


 実際、過去のオッドアイがやらかした出来事を調べて、俺もドン引きしたレベルだ。最初の奴は240年前に現れ、世界を半分ぶっ壊したらしい。そこから復興までは102年かかったらしい。


 それからというもの、赤子の時に国に大打撃を与えた者だったり、世界中を股にかけて主要人物を殺し回ったり。アルライムはギリギリ回避したらしい。


 ……そりゃビビるわ。


「待て、せっかく来てくれたんだ。もし本当に客だったら

ら、悪人は俺達になるじゃないか。おい坊っちゃん、何しにここに来た?まずそれを教えてもらおう」


 肝がすわっている、だがその目は猜疑心が残っており、心からは信用してもらえていないようだ。だったら、俺が普通の客であることを証明しよう。


「これ、剣の補修をお願いしたくて。結構傷んでる気がして、専門の人にお願いしようと思いまして」


 背中につけていた剣を鞘ごと、そこにあった机の上に置いた。その次に、今までの代行者依頼で手に入れた素材と、お金も置いた。


「……本当に客みてえだな。この剣は……お前なんで後ろ向いてるんだ?」


 お構いなく。ただ先端が怖いだけなので。


「……いい剣だな。だが大分傷んでる。早めに持って来といて正解だったな。よしわかった。しっかり元通りにしてやる。おあつらえ向きに素材まで用意してくれたからな」


 安心だ。ちゃんと客として認めてもらえた。剣の補修は一日かかるそうなので、一日滞在ということになる。


 剣についてはなんとかなりそうだったので、気負いなく王宮へ向かった。懐かしいな、ここ。ヤバい、前に立つだけで緊張してきた。


 自分の補修の意見を言うって、何でこんなに緊張するんだよ。


「大丈夫?」


「ん?ああ、悪い。大丈夫だ、行くぞ」


 私も?という声が聞こえた。まあ、せっかく仲間なんだし紹介しておきたい。カードを王宮を守っていた騎士に見せ、通ることが出来た。


 長い螺旋階段を登り、王様の部屋を目指す。木が多くて、自然と落ち着く事ができた。アズサも、


「なんか、王宮っていっても思ってたのと違う」


 といっていた。趣深いというか。そんな事を考えていたら、いつの間にか大きな部屋の前にたどり着いていた。ここか。


 えーっとこういう時は……


「ねえ、部屋に入るときのマナーってどんな感じだっけ?」


「三回くらいノックしてから、返事を待って入る、かな?」


 オッケー。三回ノック。さあ王様はどう出るか、なんて、普通に返してくれればいいんだが。


「入れ」


 たった一言、厳かなその声からは圧が感じられる。カリスマ、その一言が似合う。ちくしょう、せっかく落ち着いてたのにまた緊張しちゃったよ。


「し、失礼しましゅ!」


 あ、ヤベ、噛んだ。


「クッ、ハハハハハ!緊張しおって!」


 やめてくれ恥ずかしい。それ以上笑わないで。


「久方ぶりだなテンリ。大きくなったな。しかし、貴様大丈夫だったか?何やら色々あったようだが。というか、なんで前髪切ってるんだ」


 ……大丈夫じゃないです。しっかりトラウマになりました、なんて言えなかった。


「意地の悪いやつにしてやられましてね。でも魔法はこれでもかというほど学んできましたよ。ご心配なく」


「端から心配なんぞしておらぬ。女まで連れ帰ってきて、予想以上だったな」


 アズサのことか。いや、そんな関係じゃないって。普通の仲間だって。


「それで、この先はどうするつもりだ?何か見つけたのだろう?前に見た貴様とは顔つきが違う」


 早速本題、か。この人は早いうちに単刀直入でザックリいく人だからな。


「俺は……この国にはいられません。旅に出ようと思うんです」


「ふむ、旅か。それまたどうしてだ」


「学んだからです。俺がいるってだけでそこに迷惑がかかるってことを」


 寮で襲われたときみたいになるかもしれない。世界には俺の存在が広まっているだろう。この国に俺がとどまったら、それを知り怖がった他の国からの侵攻を受けるかもしれない。 


 というか、この国の人に認められてない時点でこの国にとどまる気にならない。


 王様には恩がある。だから、この国に迷惑をかけたくない。俺がこの国にいるためには、世界に認めなれなければならない。


 そのためにはどうするか?俺には王様のようなカリスマはない。だからこそ、ちょっとずつ善行を積み重ねるくらいしか思いつくことがない。


 あらゆる場所で、あらゆることをして、ちょっとずつ信頼を勝ち取って、いつか普通に生きたいと思うのだ。


 王様には言わないけど、アズサの呪いもなんとかしなくちゃいけないしな。


「なるほどな。考えすぎな気もするが、貴様がそうしたいならそうするがいい。貴様の人生だからな」


 そう俺の意見を認めつつ、王様は雰囲気を変え、最後の問いかけをする。


「だが、それは貴様にとって茨の道になる。本当に、貴様にはそれを乗り越える覚悟があるか」


 それは、よくわかってる。人と関わらずにひっそりと生きる道もあるかもしれない。傷付くことも、失うこともない。


 だが、何かを得ることもない。何もない手に入らない人生など、俺にとって死んでるのと同じだ。


 不安はある。どれだけやっても認められないかもしれない。それでも、俺は未来に賭けたい。


「何も得られないくらいなら、無駄に苦しんで、無駄に悲しんでやりますよ」


「言うな……ならば、もう言うことはない」


 この対話を経て、俺の行く末は決まった。俺はここから、本来経験しなくてもよかった悲しみや苦しみを無駄に味わうこととなった。


 別にいい。それが幸せにつながるのなら。こうして俺は、無駄に生きることとなったのだ。

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