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三十一話:未来へ向かって

 もう、残りの学園生活は悲惨と言ってもいいものだった。何故か俺のオッドアイとレズリーが関連付けられていた。


 あいつのオッドアイで品行方正だったレズリーはおかしくなった、とか言ってる。何を証拠に、とは思ったが、オッドアイだと言うだけで証拠なんか意味をなさなくなる。誰も信じてくれないからな。


 日常生活にも支障が出た。襲撃の日が完全にトラウマとなり、赤いもの、氷や冷気、尖ったもの、肉、切るという行為そのものを受け入れられなくなった。


 だから、もう俺は剣を抜けないのだ。


 それに、俺の右目が何故か日増しに赤くなっている。理由はわからない。でも、自分の顔を見るのが怖くて布団から出られない日々を送った。


 魔法の鍛錬は部屋でひっそりとやるしかなくなった。最近、アズサと月が見える丘で話もしていない。そんな俺を、皆は部屋に来て支えてくれた。


 アレクからは、親と決別した話を聞いたりした。先祖に顔向けできるようになれ、レズリーの代わりにお前がこの家を継げ、とか散々言われたらしい。


 アレクは、


「俺は俺なんだよ。いい加減好きにさせろ!俺は先祖でも兄貴でもない!」


 と返したらしい。爽快だね。アレクらしい答えだと思った。


 アズサも、代わりに俺の部屋で話してくれるようになった。この先の将来どうしたいのか、そんな話だ。


 そのうちに赤いものは克服できた。自分がどうやって生きていきたいか考えた時に、自分の目を自分が受け入れなくてどうする、という結論に至った。


 目を許容しようとしていく中で、赤いものは自然と克服していた。しかし、それは比較的軽かったからということでもある。他のものは一切克服できていない。


 自分の顔を見てもなんとも思わなくなったので、外に出られるようになった。そのまま月日は流れていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……そうか、もう卒業に近いのか。ならば自分の行く末を王様に話す時が来る。俺はもう決めている。結構不安だが。


 未来に対する漠然とした不安を拭うべく、いつもの場所で魔法を鍛えつつ話に興じる。ここの月明かりを見てると大体のことがどうでもよくなる。


「大分不安なんだよね、俺。アルライムに就くか、他のことするか。それを話すの、なんか怖いんだよね。王様が怖い人じゃないのわかってるんだけどさ」


「まあ、未来に不安なのはみんなそうだよね。進路さ……なんでもない」


 なんか聞き捨てならないことを言いかけた気がする……まあいい。ん?アズサの体に蝶?か蛾?みたいな虫がとまってるけど……


「アズサ、虫とまってるけど、生き物大丈夫だっけ?」


 それを聞いた瞬間、アズサがめちゃくちゃ焦りだした。虫が駄目なのだろうか。


「嫌……駄目……待って……」


 虫を払うのも忘れてしまうほど気が動転しているようだ。いくらなんでもそこまで、と思ってしまった。でも、アズサが焦っている理由は全然違うものだった。


 虫がとまっていたアズサの腕に、亀裂が入ったのだ。


「え……?」


 よく状況を飲み込めなかった。虫がとまって腕が?どういうことだ……これは、聞かないと駄目だ。


「アズサ、今の、詳しく聞かせてくれ」


 いつの日か、俺はアズサを支えると言った。アズサは俺を支えてくれた。だから、アズサのことを知りたかった。


「ご、ごめん。こんなの見せちゃって」


 そう言ってそそくさと逃げようとするアズサを、ちょっと雷を纏わせて引きつけ、動きを止めた。


「アズサ、俺はお前を支えてやりたいと思ってるし、俺の友達になってくれた恩返しもしたい。だから、話してくれ。多分、俺にしかできない」


 俺にしかできない、そんな確証はなかった。でも、なんでかアズサのことを助けるのは、俺がいいと思ってしまう。


「でも……」


「押し付けみたいで悪い。でも、俺はお前を信じてる。だから、俺を信じてほしい」


 少しアズサは黙った。それはそうだろう。嫌なことを口に出すのは辛い。思い出してしまうから。それでも、アズサは顔を上げてくれた。


「君には、勝てないな。わかった、話すよ」


 まだ怖いという顔をしている。それでも、アズサには乗り越えるだけの勇気があった。


「あのね、私は露骨に生き物に触るの嫌がるでしょ?私……生き物に触ると体が崩れちゃうんだ」


 生き物で……体が?一体どういうことだ?この世界特有の病気だったりするのか?とてもにわかには信じがたい話だが……


「手袋とか付けたらいいんじゃ……」


 いや待て、アズサは素手で魔法を撃つから手袋のようなものを装着すると魔法を阻害するかも……外す一瞬が命取りになるかもだし……やめとこ。


 あれ?なんで誰かと戦う前提で考えている?でも魔法ってそのためにあるんじゃ……まあいい。


「なんか、そういう病気みたいのがあるの?」


「病気じゃない。生き物って、魔力とは別に、生きている時に無造作に発せられるエネルギーがあって、私はそれに耐えられないんだ」


 何度も触れ続けると、死んでしまうらしい。耐えられない……なんだかよくわからない話だが……なんでそんなことになってしまったのだろう。


「なんでそんなことになったんだ?」


「なんか、小さい時に呪いみたいなのを受けて。それの効果はよくわからなくて」


 ふと思った。アズサが心から笑えないのも、悲しい顔をするのも、この呪いのせいなのではないか。人と触れ合えないから、理解し合えないのだと。そんなの悲劇だ。


 人と関われない苦しみを俺はよく知っている。放っておけなかった。旅をしたい、そんな俺の思いは塗り替えられた。


「アズサ、俺は旅がした言っていったよな。気が変わった。俺は、お前と旅がしたい」


 あまりにも突拍子のない発言に困惑するアズサ、そりゃそうだ。あまりにも予想外過ぎただろう。


「えっ?私と?なんでなんで?」


「俺は言った、お前の拠り所になるって。だから、これが一番、お前が心から笑うことにつながるって思った」


 一緒に見つけ出していけばいい、呪いを解く方法を。俺の治癒を進化させたら呪いを解けるかもしれないという根も葉もない自信もあった。


 一度支えると決めた以上、投げ出したくはない。悲しい思いをする人を放ってもおけない。


 それに、俺は明るいアズサの笑顔が好きである。どうせなら間近でいい笑顔を見たいのだ。笑顔は人を幸せにするのだ。


「まあ、お前がよければなんだが、どう?お前身寄りの話しないから、もしかしたら親とかいないのかなって」


 ちょっと考えた後に、アズサは答えを出した。


「……うん。いいよ。私でいいなら一緒に行こう」


 ……マジか。旅に仲間を連れていけるの?そんなこと考えてもいなかった。仲間がいるなら、不安なこの先も乗り越えていける気がする。


「ありがとう!じゃあ、いざ旅を始めるその時は、楽しくやろうぜ!」


「うん!」


 一瞬ノリで握手しかけたが、さっきまでの大前提を思い出したので引っ込めた。その辺りで、俺は寮に戻った。


 途中、何かアズサが呟いていたが、よく聞こえなかった。


「ごめんなさい……許して。こんな嘘つきでもいいなら……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日を以て、諸君らは卒業とする!諸君らは今まで様々な技術を身に着け、立派な存在へとなった。誇りに思うぞ!」


 今日、卒業式があった。俺達の代の卒業である。思えばあっという間だった。今、俺は17か。この三年、様々なものを得て、失った。


 しかし、俺の理想へと近づけはしなかった。強大な敵から人を守れるほど圧倒的な実力はない。人格がいい人間なのか自分ではわからない。


 こんなことでは駄目なのだ。俺が世界に認められることはない。だから、俺は早く旅に出なければならない。


 卒業式が終わり、少しだけ他の奴らと話した。主に1-Eの奴らとか、アレクとかだ。


「ついに終わりか……この三年、色々なことしかなかったな」


「テンリ、色々あったけどよ、お前は目のせいでこの先色々あると思うけどよ、精一杯生きてくれよ」


 クラスの奴らに色々と励まされる。皆辛かったのに、いい奴らばっかだな。


「お前、急いでいかないと行けない場所あるんだろ?さっさと行っちまえ。その代わり……」


 ぶっきらぼうに俺にアレクが言う。なんか照れを隠してるんだろうなとすぐにわかった。


「次に会った時は、決着だ。ぜってえ勝つ!」


 なんだ、そんなことか。当たり前じゃないか。ただし、


「いや、勝つのは俺だね」


 そう言って、互いにグータッチをする。それが別れの合図だった。


「テンリ君!そろそろ行こう!」 


 おっと、自分から早く行きたいって言ったのに待たせちまったよ。


「はーい、今行くよ!」


 アズサを背負って、正確には岩を背負ってそこにアズサを掴まらせ、間接的にアズサを背負って、学園を後にしていく。


 さらば、俺の青春。俺はこれまでの日常をバネに、更に大きな存在を目指したいと思う。そういう思いをくれて、ありがとう。


 急がねば。俺は、もう次の段階へ進まねばならないのだ。この目を持って生まれた以上、止まることも、戻ることも許されないのだ。 

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