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三十話:覚えてしまったもの

 風の流れと反発を駆使して上へと登っていく。しばらく登っているうちにレズリーが見えてきた。


「よう、何もできずに上へ参る気分はどうだ?」


 そう煽ってみても、不遜な態度は変わらない。笑いながらレズリーは言葉を返す。


「なかなかいい魔法だ。だけど!ここからどうするつもりだい?僕に決定打を与える何かが君にはあるというのかい?」


 ……あるさ。考えつく限り一番凶悪な一手が。お前ですら恐怖するような一撃が。


「そのうち僕はここを抜け出す。早く何か行動を起こさないと全て無駄になるよ?」


 そっか。じゃあもう始めるとしよう。逆さまになったレズリーの足に俺の足を合わせ、くっつける。準備完了。


「ありがたい!これならお前腕がとど……なっ……腕が動かない……」


 動くわけないだろ、ずっと引っ張られてるんだから。何もできないだろ。そのまま見てやがれ。剣を下に向ける。そして一つの小石を上に投げる。もちろん俺の雷が染み付いている。


 この辺りで、レズリーが、俺が何をしようとしているか気付いたらしい。


「お前……そうか……アハハハハ!考えたものだ!」


 この状況でもまだ笑ってやがる。それが遺言か。一度、吠え面をかかせておきたかった。


「レズリー、お前が自分を天の上の存在だと思っているなら……」


 決して忘れぬよう、心に刻まれるように洒落もかけて言った。


「天の裏まで落ちきってしまえ!」


 小さい声で、その技の名を言った。


落雷突メテオ


 投げた小石に手をかざし、思いっきり反発した。嵐の極も変えて、落ちるスピードを最大限まで上げる。


 もう周りがよく見えない。凄まじい重力が襲ってきて、意識が絶え絶えになった。


 そこから一秒もかからないうちに、レズリーは俺ごと地面に激突した。俺の体重が重力によってとんでもない圧力へと変わり、全身を砕く。


 その直後、地面は大きく陥没し、瓦礫は舞い、辺りに凄まじい風が巻き起こった。この時二次災害で校舎に瓦礫が飛んでいったそうだ。幸い、この時怪我人がこっそり裏から逃げたそうなので、被害者はいなかった。


 レズリーは、体が縦に裂け、首と四肢が壊れるという、悲惨な状況になっていた。だが、あくまでも外部の話だ。内部からレズリー本体は出てこなかった。


 俺はゆっくりと倒れ、そばにアズサが駆け寄る。


「信じてた……必ず勝つって信じてた……。でも、いくらなんでも無茶だよ。心配……した……んだよ……」


 大量の涙を流して、アズサが駆け寄ってきた。最後まで信じ切ってくれたこと、責任を果たせたこと、勝利したことに安心して、俺は気を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 校舎内はひたすらに防衛戦、その一言である。遠くから光線は撃たれ、近距離は素早いナイフでの攻撃。


 怪我人を運び終わった直後にいきなり襲撃され、生徒が19人、油断していた教師が5人、一撃で貫かれて即死した。


 一人の白髪の少女によるものだった。機敏な動きで圧倒され、また犠牲者が出そうだったところに学園長が帰ってきて、窮地を救った。


「帰ってきたか……めんどくさい……」


「私にとっては憎い!防壁展開!」


 少女を押し戻し、防壁によって侵入不可能にする。


「今のうちに人を運ぶのだ!」


 少女一人では流石に非力であった。防壁を突破するだけの力はなかった。続々と人が校舎の外へ出ていく。


 大体の人が避難完了した時、少女とは別の低い声がした。


「やっと来た……遅いよ」


「すまぬ。意外と厳重で手に入りづらかったのだ。お主にはきつそうだな。どれ。我がやってやろう」


「シンラ……お願い」


「名前を呼ぶでない、こいつらにバレるのは少しまずい」


 そんな声がした直後、何やら光線が防壁を貫いた。それに巻き込まれた二人が、突っ込んだ少女の突撃により即死。


 この時にはもう怪我人も自分で動けるため、全員の避難が完了していた。二度の避難により、皆消耗していた。


 それを防衛する教師。ほとんどの教師が大軍を抑えに出払っているため、少数で二人を抑えなければならない。


 学園長が実力者であると言っても、流石に厳しい。レズリーほど圧倒的ではないが、手数と的確な援護、特に後衛はどのような実力者かと思ったが、納得だ。


 人間ではなかった。龍と人間が融合したような魔物、龍人ドラゴだったのだ。口から光線を何度も吐き出しており、種族の暴力だった。


 学園長は老年である。先程の戦闘と合わせてその体力が尽きかけていた時、爆発音が起こった。次の瞬間、校舎に瓦礫が振ってきた。


「うおぉ!?何事だ!全員で撃ち返せ!」


 いきなり飛んできた瓦礫に焦り、急いで迎撃する教師たち。だが、更に焦ったような顔で話す襲撃者二人。


「まずい、あそこはレズリーが好き放題やってたところ……待って……まずいまずいまずい……」


「おおおお落ち着くのだ。主様はきっとあそこにいるはずだ、そろそろ撤退としよう」


 そう言って二人は急いで飛び去ってしまった。シンラとやらの手に、黒い紙切れが一枚握られていた。学園長はそれを見て青ざめる。


「待て!何故それを持ち出すのだ!それを持ち出されたら、大変なことに……」


 それも聞かず、二人は飛び去った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ああ……体痛い。全身ボロボロだ。久しぶりだね、こんなに怪我したの。頭以来じゃない?這って進むしかできない。


 左腕なくなったし……まあ増強でなんとかなるからいいけどさ、テンリ、マジで怖かった。あれだけやっても立ち上がってくるの狂気の沙汰でしょ。


 それだけじゃない。死の恐怖まで感じさせられた。外皮でダメージ軽減してなかったら間違いなく死んでた……。


「フフフ……アハハハハ!」


 面白くてしょうがなかった。覚悟があそこまでの力を持つのも、一発逆転が存在するってことも。もう一回戦いたいな……任務だったからとは言え、本気でやれたら……。


 もっと成長してよ。それでこっちが全力出して、どうしょうもなくなって、絶望して……この先が楽しみだなぁ……負けても楽しいとか初めてだよ。


「主様!大丈夫ですか?」


 シンラ……お前いつも来るの遅いよ。


「大丈夫じゃないよー、秘伝書は持ってきた?」


 そうだ思い出した。いちばん大事なの秘伝書じゃん。別に芽を摘むとか嘘だし、ただ気分でやっただけだし、それさえあれば全部よしなんだけど。


「もちろん。ここに」


 有能。やっぱりお前はいい部下だな。絶望より幸せにさせたい第一号なだけはある。


「レズリー……そろそろ帰ろう。動きすぎてお腹が減った」


「んー?そうしようか。今日は何食べる?任務達成記念に焼き肉でいい?」


 甘え上手だな、フィオは。いや、信頼できる人というのはいいものだ。幸せだ。


 最高のアンチテーゼだろう?人を不幸にした後に感じる幸せって最高だな!本当に!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺が起きたのは1ヶ月後のこと。治癒が切れた状態で体に衝撃を受けたせいでずっと目覚めなかったらしい。


 布団をかけられ、寝ていた俺の足元にアズサが顔をうつむけて寝ている。布団、かけてくれたのか。ありがたい。


 気付いたら頭を撫でそうになっていたけど、勝手にやるのもあれだし、触られるの嫌ってたからやめておいた。


 代わりに、アズサに布団をかけようと思ったが、全然体が治ってない。自然治癒じゃ無理か。久々に治癒魔法を使い、体を治す。


 今思うけど、大分ぶっ飛んでるな、これ。これでむちゃができるようになったせいで俺の頭もぶっ飛んできた気がする。


 でも、部位欠損と死者蘇生は……無理だ。いくらなんでも、でも異世界ならあってもいいじゃないか。……残酷だ。


 嫌なことを思い出すのはやめにしよう。アズサに布団をかけ、外へ出る。今は練習の時間帯だった。しかし、前と違って外にいたのはたった二人。


 アレクが足を引っ掛けて木の上にぶら下がり、スミスさんがそれを手伝う。そんなことをしていた。


「テンリ……!?お前起きたのか!スミスちょっと降ろして」


「あ、ああ……」


 いきなり現れた俺に驚き、木から降りようとするアレク。自分で降りろ、とか思ったが、まだ腕が完治していないようだ。


「アレクちょっと腕出して」


 治癒をかけ、腕を治していく。縮んでた腕がもとに戻るのを見て、やっぱりこれおかしいなと思った。


「人、少なくない?」


「ああ、まあ、あの騒ぎから1-Eは傷心して来なくなって、デリオラとカルメリオは親に連れ戻されたな。危ないからって」


 そうか。寝てる間に色々と変わってたんだな。待って、ミゼルドは……あ……嫌だ、思い出したくない。


「おい、どうしたテンリ、そんな怖がるような顔して」


「いや……なんでもない」


 前を向かないと。終わったことだろ。そうだ、練習!腕も訛ってるだろうし、久々に剣でも振るか。


 部屋から剣を持ってきて、異変に気付いた。剣を鞘から抜くことができない。どうしても腕が動かなくて。


「あ……あぁ……嫌、嫌、いやいやいや……」 


「おい!マジで大丈夫か!ヤバい、スミス!メルティスさん呼んできて!」


 力を入れるほどに嫌な記憶が蘇ってきて、ついにそれははっきりと映し出されてしまった。飛び散って転がるそれと、辺りに染み付いた何か。


「うあぁぁぁぁぁ!!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!あぁぁぁぁ!!!」


 俺は一体どうしてしまったのだろうか。何故か、ひたすらに怖くて仕方なかった。

 

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