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二十七話:天上我下

 隣のCグループの会場のスタジアムまで、俺は走った。セリアを担いだマインとスクリムも後からやってきた。


「レズリィィ!!そこにいるのかぁぁぁ!!!」


 勢いよく開けた扉の先を見て、俺は言葉を詰まらせた。体から氷の柱が生えて、それに貫かれて動けずに地に伏す者が、何百人も。


 真ん中でただ一人だけが立っていた。


「ようやく来たの?遅かったね。お前が遅かったから、また249人討伐さ!」


 また空から氷がいくつも降ってくる。完全に終わったと思ったその時、


「もうやらせはせんぞ」


 大きな氷の壁ができて、全ての凶弾を防いだ。その魔法の持ち主は、学園長であった。


「校長、どいてよ。僕は早くこいつらを殺してやらないといけないことがあるんだ。そこを通してよ」


「ならぬ。この学園でこのような狼藉を働くようなものをこれ以上は野放しにできぬ。貴様はここで倒さなければならない」


 互いに睨み合った末、数刻経って魔法合戦が始まった。


「穿て」


 レズリーのその一言から始まった。ものすごい速度で発せられた氷の槍を避け、炎の弾を放つ。それは地面から生えた柱に防がれ、その隙間から風が放たれる。


「ほらっ!当たったら痛いよ!」


 刃のようになっていて、当たったらひとたまりもない。学園長は魔法を唱えている。


「凍結せよ!」


 飛んできた風を凍らせ、それを逆に投げ返す。そして炎魔法を放った。凍っていた風は溶け、そのまま撃った炎と一緒にレズリーへ飛んでいく。


「この程度……ん?まずいな、防壁展開」


 学園長の魔法は飛んでいく程に威力が上がっていて、レズリーは焦ったような顔で氷の柱を出した。しかし、その氷は削れ、少しずつ炎がめり込んでいく。


「その程度の薄い氷で、防げると思うな!豪炎ブレイズ!」


 普通の炎より、数段威力が上の炎を放出し、氷は完全に壊れ、そこで燃え出した。氷が最大限抵抗していたので、レズリー本人は恐らく巻き込まれたと思う。


「遅くなって……すまぬ。少しばかり仕事が入って席を外したうちに、こんなことになっているとは……そのせいで大事な……生徒達が……」


 申し訳なさそうな顔で学園長は俺達に謝ってきた。しかし、俺達にとっては来てくれただけでありがてえ。それに、そんだけ生徒のことを思ってくれて悪く思うやつなんかいねえ。


「学園長、顔を上げてください。来てくれただけで十分です」


「十分なわけないね、だって……」


 上空から声がした。おい、ちょっと待て、お前は氷にこ巻き込まれたはずじゃ……


「校長、弱すぎるもん」


 そう言って、杖を持っていた学園長の右腕を切り落とした。


「ぐっ……燃えよ!」


 傷口を即座に焼き、止血する。多分想像を絶する痛みなのだろう。学園長の顔から凄まじい量の汗が滴っている。


「うーん、校長、炎得意そうだし体から氷生やすのは無理そうだな。切り替えよっと」


 そう言って、レズリーは手を上に上げた。その手には大量の水が溜まっている。


「じゃあ、氷じゃなくて、水の雨でも……これが普通か」  

 溜まった水はいくつもの小さな水玉に変わった。その上に風も集める。それで水玉を弾き、撃ってきた。


「弾幕の雨、存分に味わってくれよ」


「味わう前からわかる!不味い!水壁!」


 撃ち出された水玉を、同じ水で相殺しようと学園長が水で壁を作る。その時、俺達は目配せされた。すぐにわかった。攻撃しろと言っている。


 何故そんなことをと思ったが、水玉が簡単に防壁を貫いているのを見てわかった。消耗し続けていつか終わるより、今のチャンスをものにしたほうがいいと。それは俺たちしかできない。


 軌道を変えてなんとか耐えているものの、限界寸前のように見える。このままだとこっちがやられる。


「マイン、スクリム、行くぞ」


 吸啜掌を発動させ、音を立てることもなくレズリーに向かって走る。マインとスクリムには後ろで魔法の用意をさせている。


 吸収されながら魔力を溜めるのはかなり負担なはずだ。そういうことが起こるのが吸啜掌の弱点だ。でも、耐えてくれ。俺が終わらせる。


 レズリーは学園長を見ている。俺達は見ていない。というか、学園長が防壁を工夫して人影の見え方をいじっているため、アイツは気付けない。


「軌道変更……うざったらしいな……ほら、もう一波!」


 隙が出来た。運動エネルギーを吸収しているため、俺はものすごい速度で動いている。音はしない。その状況で、マインとスクリムに魔法を溜めさせる。範囲外だから音もする。だから目立つ。


 だから、俺の存在が消える。


「これは……面倒だな……」


 水と炎、それは俺の背中を追い越してレズリーへと向かっていく。これは、俺の吸啜掌の吸収時間が切れたからだ。


 レズリーはそれに水をぶつけ炎を消し、氷の柱で水蒸気爆発を軽減しようとする。しかし、どちらも途中で軌道を曲げた。


「何?まさか……アレク!」


 俺はもうレズリーの横にいた。吸啜掌二重発動だ。右腕に凄まじいエネルギーが溜まっていて、もう限界寸前だ。怒りも、恨みも、悲しみも、全部右腕に込める。


「お前が弾幕の味を俺らに味あわせるというなら、俺は死んでいったヤツらの痛みを少しでもお前に味あわせる!!!」


 もう右腕はレズリーの右頬を捉えていた。即座に氷と水の壁を貼るが、そんなものはすぐに蒸発してなくなった。右腕がレズリーの顔を貫通したのを確かに見た。


「はあ……はあ……」


 もう息も絶え絶えだ。少し休みてえ。その前に、このエネルギーを……


「なかなかやるじゃん」


 凄まじい悪寒がした。何故だ?お前は……確かに倒しきって……


「ちょっと勝負しようよ。久々に楽しめそうだ。もうお前は出枯らしじゃない、認めよう」


 そう言って氷を纏わせ、俺に殴りかかる。いつもそうだ。コイツは同じ土俵に立った上でボコボコにしようとしてくる。


 でも、俺は格闘を学んだ。スミスがいろいろ教えてくれたからな。全然避けられる。この土俵においてだけは、負けたくねえ。


 だが、こちらの攻撃も全然当たらねえ。見切っているが、見切られている。いつまで経っても進展はねえ。ただ永続的な頬を通り過ぎる感触があるだけだ。


 どちらかがアクションを起こさねば永遠に決着がつかねえ気がする。……やられてばっかりはゴメンだ。たまには、俺がやってやる!


 強硬手段に出た。右腕を無理やり使う。レズリーはもちろんそれに反応している。大振りでないと右腕が使えない。対応されるだろうな。


 だからこそだ。そこでコイツは本気の拳を出すだろう。その拳を、俺は左腕で受け止める。だが、硬い。左腕は一撃で使い物にならなくなった。


「何で左腕を出し……右腕!?」


 俺は殴らずに右腕を引っ込めていた。何度も酷使してえげつない痛みを放っている。だが、それを上回る、直接攻撃の威力だ。


「今度こそ、貫く!」


 突き出した拳がものすごく遅え。いや、そう感じるってだけの話だが、痛みが引き伸ばされて、本当に当たるかどうかわからない。


 その遅え時をゆっくり進んで、拳はレズリーの顔を捉えた。だが、その拳はレズリーを貫くことはなかった。


「な……なんでエネルギーの塊みたいなこの拳が……止められるんだよ……」


 あり得ない……生身の体で耐えられるわけ……何だこれは、コイツの肌……なんで顔が、灰色に……?


「隠してたけどさ、僕は異能持ちなんだ。増強フォースって言ってね、体の器官の強さを上げるの。肌は……単純な強度増加だね」 


 異能って……また俺は……才能に……?ふざけんな!そんな一言で色んなヤツが殺されたって現実を見過ごせるかよ!


「うおあぁぁぁぁぁ!!!」


 ヤケクソだった。もうこれしかなかった。何もしなければやられる。だけど……そうしたところで……


「もう、絶望的なまでに痛めつけてやろう。全身強化だ。そうだな……このくらいでいこうか」


 魔力がレズリーの体からにじみ出て、繊維のようにまとわりついていく。それは、骨となり、肉となり、全身を覆った。もう原型などない。


 ただ、大型の魔獣がいるのみ。俺の拳をたやすく弾き、俺は地を転がった。右腕が……痛え……!


「俺達を忘れんな……!」


「神よ……天罰を……この愚か者を絶望に落としたまえ……」


 まだ魔力が残っていた二人は魔法をレズリーに放った。鋭く、力強く進んでいる。


「血気盛んな若者共よ!私も力を貸そう!」 


 学園長がその魔法に向かって炎と風の複合魔法を放った。三つの魔法は重なり、とてつもない大きさの、もはやここら一帯を焦土に化す勢いの魔法となった。だが……


「フッ」


 それは、ただ息を吹きかけられただけで消えてしまった。


「そんな……バカな……あの威力の魔法を?」


「なかなかいい線いってたけど、僕の息は高い密度の冷気だからね、相殺しちゃうんだ」


 そう言って余裕振るレズリー。気に食わねえ。そのツラをやめろよ。


「俺を……忘れんなぁぁぁぁぁ!!」


 吸啜掌三重発動。もう無事じゃすまない。でもこうするしかない。コイツの魔力は多いから……


「ぐっ……ゲホッ、ゲホッ……」


 これは……血?魔力が……飽和を起こしてやがる……


「この状態になるとね、魔力減らないんだ。だからすぐ許容いっぱいになるでしょ。吸収が仇になったね」


 何だよ、このクソガキが考えた最強状態みたいな代物は……チクショウ、俺は……俺は……


「勝たないといけないんだよぉぉぉ!!チクショー!!!」


 飽和だといっても、お前のエネルギーを散々吸い込んでやったんだ。やってやるんだ、絶対に!


「無駄って言葉を、知ってるかい?」


 そう言って俺が突き出した右手に、レズリーは左手を合わせてきた。エネルギーは全てかき消され、右腕は縦に潰され、掌が肘のあたりに来るまで縮んでしまった。


「ガッ……」


「アレク!アレクゥゥゥゥゥ!!!」


 勢いで空中に飛ばされた。後ろには、木の枝……俺は何も……できなかった……嫌だ、そのまま死ぬなんて……


「お前はまだ、死なないでくれ。お前にまで死なれたら、誰と競えばいい」


 俺は受け止められた。何に?上を見上げた先にあったのはテンリの顔。その目は静かな怒りと一筋の涙を浮かべた目で、レズリーを見つめていた。

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