表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/72

二十五話:不可逆デッドエンド

 まずは全員俺を集中狙いだ。オッドアイだから顔が知れてヘイトが溜まっているのだろう。やはり目がチカチカするが、前の俺とは違う。俺には今、反発による高速移動がある。


 降ってくる魔法を躱しながら、地面にトラップを仕掛け続けていく。剣が使えないのは痛いが、なくともある程度はやれる。


 痛っ!ちょっと食らってしまった。だがこの程度治癒でなんとかなる。魔力がもったいないからまだ使わないが。


 俺を捉えきれなくなって、集中狙いが終わった。じゃあ次は俺の番だ。トラップを設置した場所を逆行して、電撃を浴びせまくる。


 ほらほら、ドカンドカンドカン……楽しい。地面にいた参加者は大体ノックダウン。ついでにもう一周設置。さあ、次は空中の奴ら。


 まず反発して……空中に舞ってる地面の破片を利用する。一つ一つに雷が染み付いている。一つ一つと反発して空中を進む。


 しかし、これ難しいな……ちょっとコントロールを失いそうになる……。耐えろ。そのまま浮いている奴らに電撃を浴びせ、あとは地面とくっつけさせる。


 これで終わり……あ、待って、調子に乗って制御ミスった……待って待って……


「あああああ!!!」


 今俺、すごい速度で落下している。まずい、反発反発反発!勢いを緩めろ!……あぶねえ……もう少しで激突するところだった。


 落とされた人たちはどうなってるかって?引っ張られるスピードを怪我をしない程度に調整してある。俺はただミスって下に向かって反発したから高速落下したわけで。


 思えば初めて反発して動いたときもひどかった。全く制御できなくて木に激突しまくった。小刻みにステップするような感じで進んだらうまくいった。


 このステップはおそらくバスケで培われたものであるので、心の底からバスケしておいてよかったと思う。


 さて、皆落っこちたところで……発動。


 会場全体が光に包まれた。そこで立っていたのは……相殺した俺と、一人の女子。上級生かな?話したことないな。


 さて、これで終わっちまったんではないかな。


「そこまで!残った者はこちらへ!さあ、倒れている者の移動を急げ!」


 予選突破。意外と楽な気がしたが、多分本当に辛いのはここから。本戦には大分ヤバい奴らが集ってるはずだ。


 考えるだけでゾクゾクしてきた。力を試してみたくなる。あれだけ頑張ったのだから、そう思っても罰は当たるまい。


 だが、そんな気持ちは轟音と共にかき消された。何か、破壊されたような音がする。この音がするときはろくなことがない……。


「何だ……誰だろう……誰かいる?……っ!?」


 それを見て言葉を失った。そこには、目が濁りきった人々が多数。数百人はいる。全員が剣を持ち、杖を持ち、こちらを睨んでいる……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうやら、ほとんどのグループが予選を終えたみたいだね」


 レズリーはそう呟いた。予選はほとんどのグループで、圧倒的な者が一方的に大人数を倒して決まる、という流れであった。


 もちろんレズリーは倒す側の人間である。でもまだそれをしなかった。だからレズリーのグループだけはまだダラダラと戦いが続いていた。


 何故手を出さないのか。それは待っていたからである。大多数が消耗するこの瞬間を。


「始めよう……闘技会なんか比にならないほど楽しい、大狂乱を」


 恍惚とした、それでいて恐ろしい顔を浮かべて、彼は宣言した。これから始まる惨劇を。彼は地面に手を当ててその言葉をつぶやいた。


バインド!」


 彼の掌から放出された冷気が地面を伝い、その場にいた者の足を凍らせていく。全員動けなくなった。縛は氷属性のかなり初歩的な技だが、レズリーはこの魔法がたまらなく好きだった。何故なら……


「やっぱり、レズリーさんには敵わないか……」


 そう言って悔しがる一人の頭に手を近づけた。彼はニマっと笑い、開いた手を握った。彼の首はその時風に侵食されてなくなってしまった。


 その瞬間、場の雰囲気もそこら中も、全てが凍りついた。全員信じられないような顔をしている。いきなり人の首が飛んだのだから当然だ。


「さて……もう一人……」


 近くにいたもう一人の首も同様に消し飛ばしていく。全員が理解した。これは、現実なのだと。それを理解した瞬間に命乞いが飛び交い出した。


「やめて、お願いだ!俺の命は奪わないで!」


「そういう人ほど殺し甲斐がある」


 その男は氷の刃で無造作に切り捨てられた。もう彼に興味はない。次だ。


「レズリー様……嘘ですよね……優しいあなたがこんなこと……」


「君は僕を信じてくれているのか。じゃあ散り際が一番好きな僕のことも信じてくれよ」


 極限まで絶望した顔が美しかったので、顔だけ残してそれ以外をなくしてみた。おお、なんたる芸術。


「あはははは!!やっぱりいいね!絶望に歪んだ顔!それを浮かべたまま飛び散る鮮血!やっぱり……人は散り際が一番美しいね……」


 たっぷり堪能したし、片付けるか。レズリーは目的を思い出し、全員を一気に殺した。冷気は空中にまで行き渡っており、レズリーはその冷気をいつでも結晶にできる。


 いきなり現れた氷柱に全員が体を貫かれ、墜落する者、地に貼り付けになる者、様々だが全員が動けなくなった。


 レズリーはさらにそこに追い打ちをかけるように、槍の雨を降らせた。避けられる者などその場にはいなかった。


 ーもはや全員が原型を留めていない。彼が縛を放った時点で参加者の運命は決まっていた。最初の犠牲者は、249人。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 理解が追いつかない。いきなりたくさんの人が来たと思ったら、いきなりこんなことを宣言してきた。


「この学園を潰せ!脅威の芽を摘み取るのだ!」


 そう言って、濁りきった目を血走らせてこちらに向かってくる。絶対ヤバい。とりあえず、ここは逃げるべき……だよな。


「私達が食い止める!残った二人は逃げろ!」


「他の参加者の運搬急げ!絶対手を出させるな!」


 二人の教師が立ち向かった。やはり、避難優先で良さそうだ。その指示に従って逃げることにした。だが、もう一人が一向に動く気配がない。


「おい、お前!早く……ぐあっ……!」


 その人は、気がついたら教師の後ろに回って、教師の一人をナイフで刺していた。もう一人も反応できず、そのまま刺された。


「下準備完了です。それでは次は中央で」


 彼女はそう言って何処かに行ってしまった。まずい、教師達が襲われる!すぐさま反発で加速して、二人を連れて逃げる。


 二人の体重は支えきるのは難しいが、そこも少し反発させて軽くしたので逃げ切ることが出来た。


 だが、これはまずい。おそらく中央に追い込まれている気がする。そこまでして中央に……何故?もしかしたら、全てのグループの周りで似たことが起こっている?


 教師二人を木陰に隠し、治癒して回復に当たる。傷は深い。だが、部位欠損とかでもない限り治すことは可能だ。ただちょっと、必要な魔力が多いだけ。


「す、すまない。私達があの生徒に気づかなかったばかりに……」


 いや、あまりの速さで動くので、あれは無理だと思う。

そんなに気にしないで欲しい。


「直してもらってすまない。後は私達でなんとかするから君は……」


「いえ、援護します。俺は近距離型なので、色々悪さしている間に先生達が魔法でケリを付けてください」


 教師が顔をしかめる。生徒を危険に晒すことが嫌なのだろう。


「本当に大丈夫なのか?私達には、生徒を守る義務が……」


 それはよく理解している。だが、こっちにも義務はあるんだ。


「俺達にだって、今まで学んできたこの学校を守る義務があります!」


 俺が真剣に言ったので、しぶしぶではあるが教師達も認めてくれた。こんな大人数が8グループあるのはまずいので、少しでも数を減らしておこうと思った。


 学校を壊される訳にはいかない。強くしてくれた恩があるからだ。だから守れるやつは守り抜かねば。何があったかはわからないが。


 突っ込んでくる大軍の前に俺と教師は立ち、二人が一撃で全員を倒すために魔法を用意し、俺は前線で突っ張る。


 しれっと大軍の前に戻る途中で剣を取り戻していたので、それを振るって注意を引き付ける。軽く、硬く、鋭い。とても良い剣に仕上げてもらった。


 それは大人数を相手するのにも使えて、 一振りで何人もノックアウトしていく。もしかしたら殺してしまうかもしれないが、なりふり構っていられない。


 しかし、限界というものはある。いくらトラップを仕掛けても、移動速度が速くても、剣が強くても、何百人もいたら一度は捕まる。


「死ねえ!」


 何人も何人も俺を攻撃してきて、剣撃は防げているのだが、魔法は無理だった。剣撃を防ぎながら魔本を浴び、俺はどんどんボロボロになっている。


「先生!早く!」


 少しずつ魔法の数が増えてきて治癒が追いつかなくなってきた。注意を引き付けるのも厳しくなってきた。


「いくぞ!早く離れろ!」


 魔法が完成したらしい。なんとか反発でその場を離れ、俺がいた場所に魔法が撃ち込まれた。


 それは、大きな球体をしており、地面にくっついた時に爆発し、大軍の襲撃者達を吹っ飛ばした。


「撤退!死んではならないぞ!そういう命令だからな!」


「はっ!」


 一人が声を上げ、大軍達は撤退していった。とりあえず、数を減らすことに成功した。おそらく、他の会場にも襲撃者達がいるかもしれない。急ぐべきか……。


「援護が遅くなってすまない。そして、ありがとう」


「他の所にもこいつらみたいなのがいるかもしれない。早く行きましょう」


 教師二人は頷いた。あまり接したことがないのでわからなかったが、それぞれロイ・サヘルとハラト・レンガスというらしい。


 二人と共に隣の会場へと向かおうとしたのだが……


「おい……あれはなんだ……?」


 東の空で、大量の氷の柱が空中で発生していた。そこには赤い何かが混じって見える。


「あ……あ……うわぁぁぁぁぁ!!!」


 それがなにかは知りたくなかったが、人が落ちるのが見えた。あの赤いのは間違いなく……トラウマを呼び覚ましてしばらく動けなくなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ