二十四話:狂騒の始まり
生徒全員がスタジアムに集められた。来てしばらくは、話の内容はなんだろうと思っていたが、去年似たようなことがあった。だから今日何の話をするのかわかってきた。
それは恐らく、この学校で一番盛り上がる催し物についての話だ。スタジアムの真ん中に校長先生が現れた。
「諸君、よく集まってくれた。この季節にこのような大きな集会、わかっている者もいると思うが……」
少し校長先生が話をためた。会場は一瞬の静寂に包まれた。そして校長先生が声を上げた。
「まもなく、ファルシェール闘技会を開催することをここに宣言する!」
やっぱりか。皆期待していたのか、一斉に声を上げる。この催し物は毎年一回、夏と秋の間に行われる。去年も似たような集会から始まったので、記憶に残っている。
ーファルシェール闘技会、年に一回行われる、ランク3以上の者が参加できる魔法の大会。予選は入学当初の大狂乱、本戦はトーナメント式で1対1で行う。
本戦は魔法以外の物理も使用できるので、俺が今までの成果を発揮するためには本線まで残らなければならない。
参加するかしないかは自由だが、俺は参加する。というか大半が参加する。総合人数で言ったら大体2000人は集まる。そこから16人に絞るって言うから恐ろしいよ。
「エントリーするものは、この後配布する参加用紙を担任に提出するように。予選会開催は一週間後とする!以上!」
これは盛り上がるな。なんて言ったって、優秀な成績を残した人はランクアップ、アイテム贈与だからな。まあ、人によってはその後すぐに昇格試験があるのが辛いが。
……一週間後か……ギリギリ剣が戻ってくるな。全力で参加できそうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
参加用紙を提出し、寮に戻った。帰るやいなやいつものメンバーがやってきていて、みんな入り混じって練習していた。闘技会開催ということで皆意気込んでいた。
そう、打倒レズリーである。この目標で皆頑張っているのである。あと優秀者に贈られる商品。
皆がワイワイやる中、俺は少し離れて、アズサといつもの場所で魔力の調整をしていた。しばらく右手で魔力を扱っていなかったので、リハビリが必要だったのである。
「でも、最初この学校に入った時から大分変わったよね、テンリ君」
アズサがそう言うが、特段変わっただろうか?自分のことだと途端に気づけなくなるからな、俺。
「なんか、よりまっすぐになったっていうか。それに私は救われてるんだよね。でも、不器用になった」
不器用に?どういうことだろう?
「俺が不器用ってどういうことだ?」
「よりまっすぐになったせいで、一度決めたことをやり遂げようと、無理しすぎてしまう、のかな。どれだけ自分を犠牲にしても」
……言われてみたら、そうかもな。今考えたら、ボロボロの体で練習に行こうとしたのだって、選択肢を得るため、だったからな。俺は一度踏み出したら戻れない人間なのかもしれない。
生前からそうだった。何が何でも生活を良くするために、状況に立ち向かい続けてた。今も、差別された状況をなんとかしようと頑張ってる。
俺は諦めることが下手くそなのかもしれない。
「……少し立ち止まる、ってことを知る必要があるな」
「そうかもね」
盛り上がる皆とは裏腹に、俺は落ち着きながら特訓していた。そういうのも悪くはないな。
「よう、いい雰囲気のとこ悪いが、そろそろ飯だ。タイミング的に区切りがいいと思ったんでな」
アレクが木の上から……大体木の上から登場するな、こいつ。
「魔力使うのもいいけど程々にしとけよ。俺が使いすぎて手が痛くなったからな。んで、右手の調子どうよ」
アレクが俺の手をつかんだのだが、いつまで経っても手を離さない。いい加減にしてほしいのだが……
「おい、早く飯食べたいんだけど。お前から呼びに来たんだから早く腕離せ」
「……離れない……」
え?ちょっと待って、本当に離れないんだけど。何これ、くっついてる!?嫌なんだけど!ずっとこのままなの。なんで離れないの?
「マジで……びくともしねえ……」
アレク……頼むよマジで、俺も引っ張るから!離れろぉぉ!!
「離れろぉぉぉ!!」
離れない……そう思っていたら今度はお互いに思いっきり吹っ飛んだ。俺は地面に打ち付けられた。アレクは木に頭をぶつけて気を失っている。あまり重くはなさそう……だが、
「え……マジで何?今の……」
「明らかにおかしかったよね……くっついたり離れたり……ん?待って、もしかして……」
何かアズサが気づいたらしい。寮に戻ったら分かると言っている。ならばまずは帰ることだ。俺はアレクを担いで駆け出した。
扉を開けた時、全員に驚かれた。アレクは頑丈だから。となるとよほどの勢いで頭打ったんだろうな……
「アレク君はこっちで診るから、先にご飯食べてて」
メルティスさんにそうたしなめられ、とりあえず食卓に向かった。
「ねえアズサ、何であんなことになったのかわかるって言ってたけど……」
「ああ、これでわかるんだけど……」
手には一本の釘を持っている。それを俺の肌に触れさせたのだが……くっついた。は?なんで?この釘は鉄で出来てるし、それってまさか……
「やっぱり、テンリ君の体、磁石になってるよ……」
……少し心当たりがある。俺の雷が特殊型であることだ。もしかしたら俺の雷には電磁石みたいな能力があるのかもしれない……。そう考えていたら周りの鉄製品が続々体にくっついてきた。
「ねー、トゲトゲだね。どうしたの?」
エリルが聞いてきた。話にいきなり混ざってる事はあるが、自分から話を振ってくるのは珍しいな。
「ああ、なんか俺の体が磁石みたいになってるらしくて。鉄製品がくっついてくるんだ」
「なんかマグニードみたいだね。これ。トゲトゲした動物。最近飼ってるの」
そういえばうちにいたな、そんなの。なんかハリネズミみたいでたびたび部屋に持ってきては癒しと化してたな。こんなゴツいの、ハリネズミと似てないよ。
「流石にハリネズミではないんじゃないかな……」
アズサ。そのとおりだと思う。これはハリネズミじゃない。化け物だ。
「うーん……トゲトゲしてるし、可愛いと思う」
独特なセンスをお持ちなようで。その発言だとトゲトゲであればそれはハリネズミだということになる。
しかし、電磁石なら鉄製品がくっつくのはわかるが、なんでアレクが吹っ飛んだりくっついたりしたんだろうか。
一つ説が立った。検証するために磁器のお茶碗に雷を纏わせて、くっつくのをイメージしてみた。
「何してんだ?皿の前で手なんか出して」
そこで筋トレしていたスミスさんが気になったようで頭をのぞかせる。その顔は驚きに変わる。お茶碗が手にくっついたのだ。
「は!?なんで?」
やっぱりか。これは……
「静電気か」
アレクが部屋から出てきた。もうすっかり元気そうで、色々と考えている。
「うん。そうみたい。多分お前の雷と俺の雷が静電気みたいに離れたりくっついたりしたんだと思う」
静電気ならば、アレクが吹っ飛んだりしたことの説明がつく。お茶碗も、雷を纏わせて、その雷をくっつけようとした時、茶碗も一緒について来る感じだろう。
頭の中で+と-をイメージしたら離れたりくっついたりしたので、制御と仕組みは理解した。イメージでなんとかなりそうだ。
しかし、これすごく使えるんじゃない?だって反発って瞬間速度が……考えたらワクワクしてきた。めっちゃ剣と相性がいい。懐に潜り込めるから。
くっつける力、引力は……風と相性がいいかも。嵐に引き込んで色々悪さができるかも。
ああ……早く剣帰ってこないかな……早くフットワークの練習がしたい……でも今できることが優先だ。剣なしでフットワークしたり、引力と風組み合わせたり……うおぉ……なんか興奮してきた。
なんか知らぬ間にできることがどんどん増えていく。治癒も覚えたし……ちょっとくらい、いじめてきた奴らに仕返ししてもいいよな?
……やめよう。ろくなこと考えられなくなる。とりあえず、まずはフットワークからだ。さあ、闘技会までにどこまで高められるかな……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これより、ファルシェール闘技会予選を行う!まずはランダムでブロック分けを行う!」
そう言われた時、参加者約2000人全員の胸元にアルファベットが刻みつけられた。今更だけど、何で言語だけ前世とにているんだ?色々な場所から人が来てるはずなのに、言語が統一されている。何か秘密があるのか?
もしかして、神がわかりやすいように変換してる?
まあいい。俺のアルファベットは……Fだ。見た感じ8グループに分かれてる。本線は16人しか行けないから……1グループ二人しか本戦に行けないの?
……狼狽えるな。皆と頑張ってきたじゃないか。俺は俺を出し切るだけだ。
Fグループ会場のスタジアムに行った。そこでは大人数がその時を、静かに、今か今かと待っていた。
秒針が鳴る。それを何度も何度も聞いていた。そして、26回目のタイミングで、時計の針が動いた音がした。時間だ。
「これより、ファルシェール闘技会予選大会を開催する!存分にその手腕を振るうのだ!」
いつぶりかの狂騒の火蓋は切って落とされた。