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二十一話:恩返し

 一日経ってなんか体が軽いというか、心が軽いと言うか。俺気付かなかったけど、かなり精神やられてたんだな。まあ、あれだけやられて何も感じないほうがおかしいか。


「それで、渦は巻けそう?」


 アズサには特訓の内容を話したので見守ってくれている。おそらくアレクが俺と二人になったのは俺に謝るところを見られたくなかったからだと思う。


 ーだから教えても大丈夫だと思った。……多分。うーん……アレクの技の原理勝手に教えたこと怒らないよね……


「まあ、いい感じだね。もうちょっと混乱に耐性が付けばいけるんじゃないかな」 


「そうなんだ……早く治るといいね、その腕」


 まさか治癒魔法に混乱耐性が必要になるとは思わなかったが、役に立ちそうだし無駄にはならないだろう。


「よう、一日経って調子はどうだ?よっと……」


 アレクが木の上から話しかけてきて、降りてきた。一体何のためにそこにいたんだよ。


「いい感じ。お前の言った通り、本当に俺は心が傷んでたみたいだな。それにしても、来るの早くない?」


「今日は早めに切り上げた。色々やることがあるからな。でも、それをやるために、まずはお前から洗いざらい聞いておかねえとな。寮のヤツら全員の前で話してもらうぞ。いいな」


 ……あの時のことを思い出すのはちょっと……もう血と肉片が怖くて怖くて。もう料理すらできなくなったレベルだ。でも、話さないといけないんだろうな……。


 寮に戻って、アレクが全員を呼び、話を始めた。


「じゃあ、どうしてコイツのオッドアイがバレたのか、どうしてあんなことになって帰ってきたのか洗いざらい吐いてもらう。怖いだろうが、頑張れ」


 勇気を出して話すことにした。レズリーさんにいきなり、邪魔をした罰としてまぶたを切られ、押さえる手をどかすために肋骨を折り、右手を捻じ曲げられたことを。その後誰かに襲われたことも。


「え?レズリーさんは、そんなこと……」


 デリオラが否定する。素行はいいから、同じ学年でレズリーさんをよく見ているデリオラには信じられなかったのだろう。


「いや、逆にアイツはそういうことしかしない、そういうことでしか自分を認知できないんだ。俺はアイツから飯と水すら取り上げられてるからな」


 レズリーさんは、そんなことまでしていたのか?アレクがレズリーさんを目の敵にする理由がわかった気がする。


「それと、襲ってきた五人だが、レズリーの差し金だろうな。アイツら、目がおかしかった」


 言われてみれば、目が完全に濁りきっていた。あれがどう関係してくるというのだろうか。次に出てきた言葉はおぞましいものだった。


「アイツは、人をマインドコントロールするんだ。自分の命令以外で動けないように。多分襲えって命令されたんだろう。正気じゃないから、目がおかしかったんだ」


 ということは、まさか……飯と水を取り上げられたと言っていたが、まさか……


「うちの両親もマインドコントロールされててな、もう味方してくれないんだ。命令で取り上げられた」


 ……あんなに人に冷たくしていた理由もわかった気がする。愛されたことがないんだ。


「レズリーは要警戒だ。アイツは気分屋で何してくるかわからん。ただ何かやるなら間違いなく心を折ろうとしてくるから、注意しろ」


 全員が頷く。今の話でレズリーさんの恐ろしさを知ったらしい。


「さて、こうなるともうどっちを信じるかは明白だ。お前ら、昨日の意見に変わりはないな」


 アレクの問い詰めに、全員がまた頷いた。それを見て、俺はもう感無量というかなんというか。


「後レズリーは読み捨てにしろ。もうアイツに敬意なんかいらん。じゃあ後のことはお前らで決めろ。またな。早く授業来いよ、テンリ」


 弟からの許可が出たので、ぜひそうさせていただきます。皆は、レズリーに対する理想が完全に打ち砕かれて放心状態。


 ……ふと思ったが、俺はアレクにしてもらうばっかりで、何もしてやれていない。恩返しがしたいのだ。アレクに必要なものは……


「待ってくれ。お前に提案がある」


 俺のその言葉に、アレクが反応する。


「提案?一体なんなんだよ」


 そんなことを言われる意味がわからないという顔をしている。多分、次の言葉でもっと意味がわからなくなるだろうな。


「お前、うちの寮に入らない?」


「は?またなんでよ。まあ別にいいけど、なんのために?」


 許可が出た。ならば話すとしよう。俺がアレクにできる恩返しというものが、人と関わらせることだった。前世とここに来るまでの俺の生活を鑑みて、一人で生きるということには限界があると思っている。


 だから、俺がアレクを、人と共に自己を高められるようにしてやりたいのだ。俺がそうだったように。もしかしたら、心の底では人の愛を渇望していたりするかもしれないしな。


「はあ……そんなに変わらんと思うがな」


 全く興味のない様子でアレクがそう言う。そう言うなって。まずは一回体験してみろよ。確か部屋はまだ空いているはずだったし。


 メルティスさんにアレクを入れてもいいか聞いてみた。


「もちろん!新しい仲間は大歓迎だよ!」


 メルティスさんからの許可も出たことだし、これからアレクはうちの寮に入ることになった。アレクは呆れた顔で言う。


「なんかどんどん話進んでたな……いいって言ったのはこっちだけどよ……」


 これから、アレクには色々と返していこうと思う。そして人と関わることを知ってもらいたい。俺は知っているからだ。一人には限界があるということを。


 「まあ、いいけどさ、やることあるからこれで帰らせてもらうぜ。それじゃあな」


 アレクの入寮は明日からになるか。大歓迎してやろうじゃないか。驚かしてやろう……。


「ねえ、そんなに笑ってどうしたの?」


 アズサ、俺は笑ってなんか……あ、顔に出たのか。


「実はね……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 やることはやった。家族ともケリを付けた。すっかり夜になったが、今日からこの寮で生活か……テンリは人と関わらせるとか言ってたが、今更いらないだろ。ずっと一人でやってきたんだ。


 ーただ俺は、兄貴がいるあの家にいたくなかっただけだ。それと……。そう自分に言い聞かせて、ドアを開けた。


「入寮おめでとう!さあ始めるぞ!」


 入るやいなやクラッカーを開けてきやがった。いきなりこれか?ここっていつもこんな感じなのか?やりづれえ。


「はあ……お邪魔します」


 目の前に広がっていたのは豪勢な料理の山。……こんなもん食っていいのか?まともな料理を食うのは10年ぶりだ。7歳の時に飯をもらえなくなったからな。 


「なあ……これなんだ?本当に食っていいのか?」


「そう疑心暗鬼になんなくていいよ。好きなだけ食え」


 テンリはそう言ってみせた。他の奴らはどうだ?俺のことなんか歓迎してないんじゃないだろうか。


「今日はお前が主役だ。馬鹿騒ぎしようぜ!」 

 

 大男がそういった。いや、馬鹿騒ぎって……


「結構な頻度でやってると思うけどね……」


 細身の男が言った。……なんか頭痛くなってきた。


「あら……可愛い子が入ってきたわね」


 ……背筋が冷たい。なんだ?俺がビビってるっていうのか?兄貴とは違う意味で命の危険を感じた。


「まあ……騒がしい人たちだけど仲良くしよう」  


「こいつらすごくうるさいけど気にせずゆる~くいこう」


 チャラそうな男と座布団にのめり込んだダルそうな女が話しかけてきた。……体調悪いのか?


「さあほら、食べて食べて!」


 あの時テンリといた女が食べ物を勧めてくる。肉?何で味付けされてんだこれ。ただ……明らかに今まで食ってた肉よりうまそうだ。


「アグッ……ウマッ!」


 なんだコレ、同じ肉なのか?食感からしてグリルウィングスだろこれ。あの緑色で羽生えてるヤツ。調理法でここまで変わるものか?


「美味しいでしょ!アタシ頑張って作ったんだよ!」


 この小さい子供がこんなうまいもの作るのか?天才だろ。ん?なんだ?テンリが何か……え?コイツ寮長?マジで?


「さあ、始めようぜ!皆も食おうぜ!」


 ちょっ、大男、やめろ、その雰囲気好きじゃない。ああ……始まってしまった……。


「しかし、お前がいなかったらテンリのことを見放してたかもしれねえ、感謝だ!」


「それは素直に感謝する。あの時選択を間違えていたら、うるさくないまともなやつが一人いなくなってた」


 なんでそんなに持ち上げるんだ。人として当然というか、俺と似てた、それだけの理由だぞ。


「しかし、ウブそうというか、曲線美と言うか……」


「カリー、その絡み方やめなさい。アレク君困っちゃうでしょ」


 子供にたしなめられる大人……なんだ、この構図。見てられんぞ……。


「ねえ、君はどんな魔法の練習をするんだい?僕に教えておくれよ」


 俺に話が振られた!?……俺が主役と言うなら当たり前か。だが、そういきなり言われても……


「それは……ああ……その……だな……」


 うまく言葉が出ない。今まで人を突き放すようなことしか言わなかったから、正直に答えようとするとどうしたらいいのかわからなくなる。


「ああ、嫌なら別にいいんだよ。そういうの人に教えたくないっていう人いるからね」 


 ……失望させてしまっただろうか。俺が人と話せないの、内心馬鹿にされてないだろうか。俺を置いてけぼりに話が進んでる気がして、この場に俺は必要なのだろうかと思う。


 雰囲気を壊す気がして、いたたまれなくなって俺は言った。


「すまん、ちょっと風に当たりたいんだが、いいか?」


「え、いいけど、どうして?」


 問いかけも聞かず、俺はドアを開け、外に出た。


「なあ、アズサ、俺は恩返しの仕方を間違えたのかな。あいつを寮に呼ばないほうがよかったのかな」


「正解か不正解かじゃない、そうしてあげたいってことが大切なんだよ。だから自分の気持ちを伝えて来たら?」


「……ああ、そうするよ」

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