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十九話:似ている者

「なんだ?テンリが二日も休むなんて、どういう風の吹き回しだ?」


 だっておかしいだろ。いつもひっついてくるようなヤツが全然授業に来ねえんだぞ。二日連続で別属性でも強化してんのか?聞いてみるか。それくらいなら人嫌いの俺にもできる。


「おい、テンリはどこだ。なんで来ねたえ、あの純粋馬鹿が二日来ないって相当だぞ」


 そう俺が言った時、その場にいた全員があからさまに顔をしかめた。……なんか気に障ることでも言ったか?別に特段大したこと言ってねえぞ。


「……あいつとはもう関わるな。お前騙されてたんだぞ」


「あ?どういうことだ?」


 流石に言ってる意味がわかんねえぞ。騙すって何を?アイツずっと俺と鍛錬してただけだぞ。


「あいつは、オッドアイだ。オッドアイが人間を騙って当たり前のように生活してやがったんだ」


 ……え?オッドアイ……?ちょっと待てよ。それって、それって……は?じゃあ、俺の今までのアイツに対する嫉妬って……


「はあ……何であんなやつと話したりしてたんだろう……マジで時間の無駄だった……」


「アイツが直接何かしたのか……?」


 そこまでボロクソに言うなら、そこまでのことをやらかしているはずなんだ。もしなにかやっていたら、俺がぶっ飛ばしに行くつもりだ。だが、返答は、それはそれはもう本当に馬鹿げたものだった。


「してねえよ?でもオッドアイは存在が罪でしょ。そこにいるだけで重罪人と同じ。早く死ねばいいのに」


 なんで何もしてねえのにそこまで言われなくちゃならないんだ?ー少し自分と重なるものがあるのを感じた。


「なんで人と関わろうとするんだよ、オッドアイの分際で」


 ー全部わかった。アイツが、なんで笑ってる顔があんな幸せそうだったのか。俺は、ずっと幸せしか経験してねえからあんな顔するんだと思って、絶望しろなんて思ってた。


 違った。あれは絶望を知ってから幸せを手に入れた顔だったんだ。もうとうに絶望してたんだ。アイツ、純粋馬鹿で、嫌われ者……俺と、同じじゃねえか……。


 俺は、純粋馬鹿じゃない……ただの汚れきった馬鹿だった。何も知らずに、こっちの思い違いでアイツにあんな態度取った……マジで最低だ……。


 じゃあ、アイツは掴み取った幸せを無理矢理奪われたってことか?許されていいはずねえだろ、そんなこと。


「しかし、あいつ全然抵抗しなかったよな」


「ああ、オッドアイはものすごい力があるって聞いてたけど、あいつ、もしかしたら落ちこぼれオッドアイなのかもな。だったら本当に生きてる意味ないじゃん」


 気がついたらそいつを思い切り殴っていた。耐えらんなかった。ずっと一緒に努力してきて、俺と似た境遇のやつをそんなに否定されたら、キレずにはいられねえ。


「テメエ、落ちこぼれとか言うならアイツくらい努力してからにしろよ。テメエで何もしねえで人を侮辱するやつが一番キライなんだよ!俺は!」


「いきなり何なんだよお前!」


「いきなりなんだよ、じゃねえよ!ただオッドアイってだけで自分の全部を否定されたらたまったもんじゃねえよ!アイツどれだけ頑張ってたと思ってんだ!」


「だから、オッドアイは存在が……」


「知らねえよ、んなこと。俺にはアイツよりお前らの方がよっぽど汚い存在に見えるね!人の幸せを奪い取る悪魔にしか見えん!」


 ブチギレて言いたい放題の俺に、逆にキレて他の奴らも言い返してくる。


「いい加減にしろよ!なんでお前はあんなやつの味方するんだよ!おかしいだろうが!」


「おかしくねえよ。アイツは俺と似てるんだ。ずっと嫌な扱いされて、でもなんとかしようと頑張ってきて、そんなヤツがようやく手に入れた幸せ無理矢理奪われたんだぞ、黙ってられるかよ!」


「……オッドアイの味方するならお前もぶっ殺すぞ……」


 は?お前らにできるわけねえだろ。やってみろよ。こっちも全力で行くから。


「テメエら、全部吸い尽くして燃やし尽くして、焦げた木偶の坊にしてやるよ……吸啜掌……」


 エネルギーを吸い尽くして、こいつらが死なねえようにエネルギーの塊をぶっ放した。これは後で説教ってレベルじゃねえな……。


「……行かねえと……」


 テンリが住んでいるという寮に向かった。どうしてもやらなければならないことがあった。今更そうしたところで償いきれない罪を俺は背負っている。


 それでも、俺は行かねばならない。ただ一言、謝らなければならない。何も知らずに冷たくしてすまなかった。


 岩を登りきった時、見るに堪えない光景が広がっていた。ひたすら腹を殴られ血を吐いているテンリと、貼り付けになって今にも手を出されそうな女がいた。


 テンリを見ると、殴られながらももがいて女の方へ向かおうとしている。


「近、づく、なぁぁぁ!!」


 この状況で他人優先か、ヤバいな。わかった。女から助ければいいんだな。待ってろよ、すぐ終わらせっから。


「おらぁぁぁ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 襲ってきた男がいきなり吹っ飛ばされた。そこにはアレクが立っていた。そのまま俺に馬乗りになっていた男も吹き飛ばし、話しかける。


「そこの女から助けたけど、それで良かったんだよな」 


 いや、それでいいです。まずアズサから助けてくれたのは本当にありがたい。俺はいいけど、アズサは精神がちょっと参ってそうだったから。


「うん……あり……ゲホッゲホッ!」


 あ、ヤバい、うまく息ができない。やっぱり肺がおかしくなってるかも……頭真っ白になってきた……。 


「そこの女、コイツ連れて中入れ。そいつ多分息できてない。俺もすぐ終わらせるから」


 アズサは縦に首を振って、寮の中に俺を連れて入った。一人で大丈夫かなとも思ったが、アレクにはアレがあるんだった。


 爆音とともに、アレクは寮に入ってきた。あの……後ろでなにか燃えてません?


「アイツら逃げ帰ってったからいいんだけど……誰か、水魔法使える人いない?」


 やっぱりやりすぎてる。ミゼルドとアズサとデリオラが消火作業をしている間に、俺はメルティスさんに見つかってしまった。


「どうしてこんなことになってるの?そんなにひどい練習でもしたの?どうしたらそうなるのよ!」


 他の皆も俺の体を見て絶句していた。肋骨飛び出ていたからな。俺に不信感でも抱いていたのだろうが、気にせずに心配して話しかけてくる。


「いくらなんでもひどすぎるだろ……」


「人間ってここまで残酷なことができるものなの?」


 あらゆることに興味がないエリルまで俺を見て泣き出す始末。全員の不信感の対象が俺から他の人間に移ってきているようだ。


「あんたら、これでもまだコイツ信じずに他のヤツら信じるの?平気でこんなことできるヤツらだぞ」


 消火作業を終えて帰ってきたアレクが問いかける。


「何があったかわかんないけどコイツ、馬乗りになって殴られ続けてもこの女のこと優先してるレベルだからな。コイツの方がよっぽど立派じゃね?」


 その言葉に、デリオラが最初に口を開いた。


「確かに、その通りだ。それに、このテンリの状況を見て、心が苦しかった。オッドアイとかそういうしがらみ以前に、僕らは仲間なんだって思った」 


 にんまりしてアレクが全員に語りかけた。なんでアレクは、そこまで俺のためにしてくれるんだ?


「私もこの実態を見て、こんな残酷なことが許されていいわけないって思ったわ。流石にどうかしてる」


「テンリを幸せに生きさせてやりたいと思った。こいつと長いことやってきた俺たちがそうするべきなんだ。俺たちでテンリの幸せを守ってやろう」


「僕たちにしかできないね。僕たちにしか、テンリを信じることはできないね」


 ……皆……いいの?本当に。この世界の常識すら破って、俺の味方をしてくれるというの?


「皆……あり、がとう……」


 涙が止まらなかった。そんな俺を心配して皆が俺が喋るのを止めに来る。


「お前、怪我に響くから喋るな……って、え?」


「お前……肋骨治って……」


 なんで飛び出した肋骨がもとに戻っているのだろうか……息も問題なくできる。心当たりがあるとすれば……


「治癒……だよね……」


 アズサとミゼルドは1-Eで俺の適正を見ていた一人だから、パッと思い浮かんだようだ。治癒か……まだ扱ったことないけど……


「治癒魔法の適正者って、一度だけ重症がひとりでに回復するんだよね」


 メルティスさんがそういった。アレクはいきなり真剣な顔になって言った。


「詳しい話は後で全員に教えてもらうとして、まずは治癒習得が最優先だな。授業が始まるまで待ってられん。その右腕さっさと治すぞ」


 確かに右腕が戻らない限り剣が振れないのだ。アレクに連れられ外に連れて行かれる。


「あんたら絶対来んなよ、あんま見られたくないから」


 ーこうして、いきなり俺とアレクの治癒魔法の習得のための特訓は始まった。


「私達どうしたらいいのかな……」


「とりあえず、飯でも作って待ってようぜ」

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