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十一話:天変地異少年

 俺はランクが上がり、2-Bになった。まさかの大出世である。授業がどのように変わるのか期待していたが、内容はあまり変わらなかった。というのも、ランクが上がるごとに受けられる教育は増えていくのだが、今までのルーティンを崩さないために今までのトレーニングはそのまま受けることになっているらしい。


 だが、皆もう慣れたのか、うちのクラス出身の奴で音を上げる奴は誰ひとりいなかった。各自に内容が変わってくるのだが、俺達は恐ろしいものを見るような目で見られていた。


 座学の内容も多少変わっているが似たようなもので、マレム先生の教育のおかげで、全部とはいかないがある程度頭に入るようになっていった。


 おかげでさらに授業を楽しく感じている。


 そして、新しく増えた授業というのが、属性別に分けられる実践訓練。そう、こういうのを求めてた。ようやく魔法っぽいことができる。ー俺も大分この世界に慣れたもんだな。


 ランクでは統一されているのだが、クラスは入り混じっている。だから様々な人と関わる機会がある。マレム先生の言った通り、同じ雷でも人によって様々な撃ち方があった。とても勉強になる。だが…


「なあ、お前のそれ、どうやるんだよ!教えてくれよ!」


 ートラップが珍しかったようで、俺が勉強材料にされている。俺は、特殊型だと担当の先生に言われた。


 稀に生まれてくるらしいのだが、素で様々な特性を持っている魔法を撃つ者とのことを言うらしい。できることが段違いに多いのだが、前例が少なく、それぞれの権能がバラバラのため、参考にできるものが存在しない。


 だから、先生には諦められていて、何ができるか自分で試行錯誤しなくてはならない。これがまた大変で、夜にやるしかないのだ。


 そういえば、あの日見つけた努力家の人もいた。いたのだが……練習法を聞いたとき、


「…………」


 ガン無視であった。全くこちらを見てもらえない。そのまま淡々と拳を放つのみ。


「気にすんな。あいつ、気難しいんだ」


「貴族出身だから庶民と付き合いたくないんかね。生まれも才能にも恵まれていて羨ましいよ」


 え……本当にそうなのだろうか?じゃああの日のあれは何だったんだ。


 二人のうち一人が放った言葉に努力家が反応する。


「俺に才能?冗談はよせ。俺にそんなもんありゃしない。本当の才能って言うのは……とにかく、人妬むくれえなら鍛錬したほうがいいと思うぜ」


 なにか言いかけていたのが引っかかる。というか、貴族出身なのに凄まじい口の悪さだな。しかし、この言い方は、あまり良くないんじゃ……


「ちぇっ、なんだよ感じわりいな。言いたい放題言いやがって……」


 結局、あまり雰囲気の良くないまま、今日の実践は終わった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんだよあの野郎共、俺に才能がどうとか散々ぬかしやがって!俺の魔法は努力の上に成り立っているっつうのに……まあ、努力なんて人に見せるものではないし、努力が知られないことなんてどうでもい。だが、努力の積み重ねを才能と一括されるとさすがにむかつく。


 ーあの野郎共は本当の差を思い知ったことがないからあんなことが言ってられる。三つ上の俺の兄、あいつみたいなやつのことを才能の塊と呼ぶんだよ。


 思えば俺は落ちこぼれだった。魔法を射出することができないからな。だからまとわせて、拳から圧縮して近距離に打ち出しているんだがな。一つを極めて極めて。


 兄を越えることしか眼中にせず、一人で練習していたら周りに誰も寄ってこなくなった。一度俺から歩み寄ろうとしてみたが、まったく相手にされず、もう諦めた。


 俺の信条はノブレス・オブリージュであるが、一応貴族出身なんだからもうちょっと対応よくてもいいだろと思ってしまうほどに、それはもうひどかった。


 テンリ……才能にも人間関係にも恵まれて、あんなに幸せそうに笑いやがって。汚い嫉妬だとわかっているのに、抑えられない。だから冷たい対応を取るしかできない。


 ー今さらどうでもいい。俺は兄を越えたいだけじゃねえか。誰とも関わらなくとも、俺は、一人で十分だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで、最近の授業の調子はどう?楽しんでる?」


 今日の自主練を終わらせていた俺に、メルティスさんが無邪気な顔で聞いてくる。本当に、この顔を見る限りただの少女にしか見えない。 


「はい。楽しいですし、いろいろ勉強になります。本当、ここに来てよかったです」


「やってることの意味が分かるとどんどん楽しくなるよね。この調子で頑張っていこう」


 物腰柔らかい優男、3-Dデリオラ・クロムが優しく語りかける。魔法を人の役に立てて生活したいらしい。

そういう生活を、俺もするべきなのだろうか。ランクが上がっていくにつれて、俺にはこの先の将来を見据える必要が出てくる。


 アルライムで働くか、それ以外の何かか、強くなっても選択に迫られるばかりだ。


「なんか真剣そうな顔してるけど、まあお気楽に言った方がいいんじゃなあい?」


 フワフワしていて無気力な女子、エリル・マクソンがやる気なさそうにそういう。なんとなく入学したらしい。なんだよなんとなくって。


 でも、確かに彼女の言う通り、まだお気楽なままでいいかもしれない。卒業まではまだまだあるし、自分のやりたいことはゆっくり、じっくり探していくべきだ。


「うん、ありがとう、エリル」


 スミスさんはさすがに年が離れているので『さん』付けだが、それ以外は年が近いので、実力主義の風潮も相まって、読み捨てでいいことになっている。とても親しみやすくてありがたい。


 エリルの方を見たらいなくなっていた。色々考えていた間に女子会トークが始まっていた模様。そのまま風呂へ直行。気分屋なんだよな、あの人。


「微笑ましいものだな、若い衆よ!俺もあの頃に戻りたいな!」


 スミスさんがそう言って笑う。そのままでいいよ、あなたは。ここの寮はいかんせん寮長が幼いから一人は保護者枠が必要なんだよ。あんたにまで若くなられたらたまったもんじゃない。


 楽しく授業や寮で生活しながら、日々は過ぎていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 昇格テストの日、とはいっても俺が参加するわけではない。入学式が二回あり、六ヶ月ごとに昇格試験は行われる。実質三か月に一回あるのだが、テストを終えてから六ヶ月経たないと参加権が得られないので、今回はただの観戦。


 一番見たいのは、あの努力家。そういえば、関わりを持てないせいであいつの名前すら知らないな、俺。


 ランク3への条件は、魔法の威力が条件からずれすぎないこと。コントロールする技能が必要なわけだ、個人別に様々な条件が設けられていて、どんな条件なのか全く読めないことが鬼門。


 不平等にみられるルールかも知れないが、その人によっての難易度がほとんど同じになるように設定されているらしいので、つくづくこの学校はやり手だなと思った。


 あっ、いよいよ始まる。あの人の番だ。名前が高々に叫ばれる。


「58番、アレク・ガスティマイド、前へ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 的のそばへ近寄る。右手にありったけの気を込める。俺にとっては一度全力を出した方が力の調整がしやすい。だからあまりにも威力を大きくし過ぎるヘマはやらかさない。


「ちょ、ちょっと近すぎやしないかね?」


 試験官がなんか言ってやがるな。悪い、聞こえないくらい集中しているからあんまり話しかけんな。的の前に立つ。右手に火を纏わせ、電気で力の流れを作り出す。


「雷属性分野にいたのに、火属性も使えるのか?」


 仕組み的に、エネルギーをごっそり持っていく技になっている。だから、


「な、なんか体の力が……入らない……」


 拳を握り、構え、振り下ろす。刮目せよ。物理を極限まで学び、そしてぶち抜いた末に、俺の努力の末にできた技だ。見てるか、兄貴。


「吸、啜、掌……!」


 その拳は、音すら出さずに、規程ぴったりに的を貫き、少し経った後、ボロボロに崩れ去った。当たり前だ、あらゆるエネルギーを吸ってるんだから、音は出ないし、魔力でできている的は消え去るだろう。


 誰もがその技の異様性に気づいていた。皆自分のエネルギーがなくなったのを感じている。エネルギーを吸い取りつくす拳、そんなもの見たことあるはずがないのだ。ーじゃあ、吸ったエネルギーはどこへ?


「58番、アレク・ガスティマイド……合格……」


 そうか、それなら心置きなくぶっ放せる。おもむろに腕を上げ、溜まり切ったエネルギーを空に向かって撃つ。


「魔力効率が悪すぎだな。こんだけやらないと、まともに遠距離攻撃できないなんてな」


 彼がそう思った、その瞬間、空は大爆発を起こして真っ赤に染まり、彼の後ろに、いくつもいくつも特大の雷が降り注いだ。


 終わったとき、空は何事もなかったかのように青く澄んでいる。きれいな空とは対照的に、観客は恐怖で凍り付き、戦慄して、エネルギーを吸われているわけでもないのに、一つたりとも音は出なかった。


 ーそれは、一人の人間が天変地異を起こしているのと同義であったからだ。たかが2-Eの少年が、である。

 トゲトゲした努力家ライバルの初お披露目となります

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