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「やっばい、遅刻だあああああああーっっ!!」


 俺はとにかく慌てていた。

 真剣モードで自転車を漕ぎまくる。

 今日は俺が通うことになっている高校の入学式。ただ俺は思いっきり遅刻しそうになっていた。


「今何時だ!? くそ、あと三分しかないっ!」


 通りかかった公園の時計を見てみると、時刻は八時五十七分。

 入学式は九時からなので、もう一刻の猶予もないことになる。


「なんでこんなことになっちまったんだよっ、ちくしょう!」


 どうしてもっと早起きしなかったのかと思わず自分を攻めたくなってしまう。いや、でもお母さんも悪いといえば悪いと思うんだ。

 中学時代はきっちりと朝食前には俺を叩き起こしてくれていた。しかしついこのあいだ「高校からは自分で起きれるようになりなさいよ。もう起こさないからねー」などと言い始めた。

 くそ、たしかにいつまでも親に起こしてもらうという生活もどうかとは思うが、今日という日くらいは多めに見てくれても良かったんじゃないか? 初日から見捨てるとか厳しすぎるだろ。どんだけガチなんだよ! いやまぁ俺が絶対的に悪いのは分かってるんだけどさ。


 ただそんな嘆きを今したところで現実は何一つ変わっちゃくれない。


「くそ、間に合わねぇ!」


 もう諦めて途中入室しようかと弱い心が浮き上がってきてしまう。

 いや、だめだ、なんとしても間に合わせるんだ。初日から入学式に遅刻してくるようなやつは完全に変人確定だ。今後一生クラスのやつらからもやばい人だというレッテルを貼られてしまう。それだけは阻止しないとだめだ! 俺は高校デビューすると決めたんだ。中学時代は友達も少ないし恋沙汰なども一切なかった分、高校で取り返してみせるんだ!


「うおおおおおお!!」


 俺は全速力で自転車を漕ぎ続ける。

 もうやばい、太ももがパンパンだ。でも諦めるわけにはいかない! 俺はなんとしても高校デビューを果たすんだ!


 そうこうしているうちに、高校まで続く道の最後の下り坂までやってくる。

 よしラストスパートだ! なんとかなるんじゃないか!?


「よしよしよしよしよしよーし!」


 希望が見え始めた俺は、今までの疲れもどこへやらこれまで以上の力で坂道を下り始める。

 ホントにギリギリ。ギリギリだが、なんとか会場に駆け込めるかもしれない!

 だが目の前を見てみると少し進んだ先に信号機が目に入った。

 信号機の表示は赤を示している。

 く、くそ、ここで思わぬ障害がっ! でもここでスピードを緩めてしまうとと、今まで漕いできた分のエネルギーが全部無駄になってしまう。それどころか一度立ち止まればまた速度ゼロからのスタートだ。それだとあまりに時間のロスすぎる! 信号に引っかかってる分の時間も加味すればかなり絶望的なんじゃないか。


「くそっ! 一か八かだ……!」


 俺はあまりよくないのかもしれないが、信号無視で突き抜けることに決めた。

 本来なら赤信号。絶対に止まるべきだ。

 しかし今見たところ車は一台も通っていない。

 そんなに車はこない道路なのだろう。


「男の……勝負だッ!」


 俺は掛けに出ることにする。

 大丈夫、俺を信じろ。

 このくらいの試練くぐり抜けなくてどうする。

 俺はここで負けるわけにはいかない。

 人生が掛かってるんだ。

 なんとしても間に合わせる。

 無事入学式を終えて、俺はイケイケの高校生になるんだあああああああ!!




「うおりゃああああああああああああああああ!!」




 俺は叫びながら赤信号の横断歩道に突っ込んだ。


 突っ込んだところで、横からちょうど大型トラックが走ってきているのが分かった。


 俺はそのままの勢いで、思いっきりトラックに敷き飛ばされた。


 自転車を手放し、宙を舞う俺。


 そしてさらに吹っ飛んだ先で、別車線から来ていた大型トラックに跳ね飛ばされてしまった。


 見事なまでの連続ヒット。


 俺は何がなんだか分からないまま、全身に激痛だけ感じながら意識を手放していった。













 気づけば俺は知らない場所にいた。


「あ、あれ……ここは……」


 寝ていた体を起こし周囲を見回してみる。


 そこは神殿のようだった。

 白く高い石柱が何本も建っており、荘厳で神聖な感じを受ける。


 当然ながらこんな場所来たこともないし、見たこともない。何故こんなばしょにいるんだという疑問だけで俺の脳内は埋め尽くされた。


「なんなんだ……」


「うっふぉ。目を覚ましたかの」


 そこへ突然声がかかった。

 俺はビビって「ヒョヒョ!?」と思わず変な声をあげてしまう。


「すまん、驚かせたかの」


 そしてその人物の方を見てみた。

 彼は男だった。

 それもかなり歳を重ねているように見える老人だ。

 白い貫頭衣に身を包み、杖を持っている。なぜか頭の上には天使の輪っかのようなものが浮いていた。


 その人物はいつの間にやらそこに立っていて、朗らかに話しかけてきていたのだ。


「あ、あの、あなたは一体……」


 俺は当然の疑問を投げかけてみた。

 当たり前だ。誰か気にならないわけがない。少なくとも俺のおじいちゃんではないことは確かだ。


「儂か。そうじゃな。儂は、まぁいわゆるお主らの世界でいうところの"神"という存在じゃよ」


 こともなげに、男は言ってのけたのだった。

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