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ツキイチ  作者: なやざ海
2/2

廊下

 そもそもの始まりは理事長の一言だったらしい。

「学食をつくるならうまいものを安く腹いっぱいに」

私なんかはブラボーって拍手したい一言だが高橋からするとそんなことよりもトイレに姿見設置とか購買部の拡大とかの方がいいのにと言っていた。どう考えても学食のほうが良いと思うがまた反対されそうなので黙っておいた。口では勝てない事は学習済だ。


 話を戻そう。理事長は学食を始めるにあたり、ある友人に声をかけた。その友人はちょうど働いていた高級レストランで料理長のやり方に反発してクビになり職を探していた。

 最初は学食なんて・・・と断っていた。だが理事長の情熱はすごかった。

「うちほど君を必要としている場所はない」

「腹のすかせた生徒たちが君の料理を待っている」

「君の料理ほどうまい料理を俺は食ったことがない」

更には

「君が引き受けないのならば学食の建設をやめようと思う」とまで言った。

 理事長の情熱には涙が出そうだ。私などは拍手喝采なのだが高橋曰く、粘着質な男!らしい。粘着質って・・・反対したかったがぐっと黙っておいた。口で勝てるわけがない。


 そこまで言われた友人はとうとう折れた。しかしタダでは引き受けない。ある条件をのんでくれるなら引き受けると言った。

 その条件とは普段はちゃんと学食としての料理をするが半年に一度でいいから利益なしで思いっきり良い食材を使って好きなメニューをつくりたい、というものだった。本来ならばそんなわがままは通用しない。商売としてとらえるならば経営者の怒りを買い、一喝されそうなものだ。

 理事長は提案を聞いて一笑した。

「いいじゃないか、君はおもいっきり腕がふるえるし生徒たちはうまい料理が食べられる。半年に一度なんて事は言わず、一ヶ月に一度、五食限定とかどうだろうか?生徒たちはうまい料理が食える機会が増える」

友人はうろたえた。愛想をつかしてこの話は無しになると思っていたのだ。そこで利益について聞いてみた。すると

「利益?まぁなんとかなるんじゃないか・・・?」という適当なものだった。

友人は衝撃を受けた。前の職場は利益最優先で材料もかなり粗悪なものを使い、見栄えよく作れと指示されていたのだ。味は当然おちる。あまりにも客を馬鹿にしていないかと料理長に問い詰めると、私のやり方に逆らうのならやめろと逆にキレられてクビになったのだ。唖然としていると理事長がにっこり笑って言った。

「利益がいらないとは言わないがうちはあくまで学校だから学食でそこまで利益を得ようとは思っていない。生徒にはうまい学食を食べてリラックスして午後の授業をうけてほしい。」


 友人はこの理事長の言葉を聞いて学食で働くことを決意した。少なくとも客を馬鹿にした料理は出さなくて済みそうだから・・・。


「ふぅーん」と高橋が興味なさそうに言った。

「ねっ!良い話でしょ!」私は2階の廊下の窓際を歩きながら隣の高橋を見て興奮気味に言った。

 高橋はしずしずと歩きながら冷めた目で私を見て

「いい話っていうかさ、ただのアホな理事長の武勇伝じゃねーの。」一刀両断だ。

力を入れて話をしていただけにショックだ。私が固まっていると高橋はもう私たちのクラスに入ろうとしていた。慌てて追いかける。

「武勇伝ってそんな一言で・・・。高橋がいつからこの行事始まったのかな~って言うから話したのに」

「そんなに詳しく知りたいとは言ってないよ。てかなんでそんなに学食の歴史にくわしいのかそっちのが気になるわ」自分の席に座り鞄から教科書を出しながら高橋はちらっと私を見た。私は驚いた。

「何で・・・て。生徒手帳に書いてあったよ」


 バサッと音をたてて高橋の手から現国の教科書がおちる。

「はぁぁぁ!??」突然叫んだ高橋は鞄のポケットから生徒手帳をとりだしパラパラと捲り出した。

 高橋が急に大声をあげたせいでびっくりしたクラスメイトがちらほらと私たちの周りに集まる。

「松田ちゃん、高橋どうかしたの?」と高橋の隣の席の小柄な子が聞いてきた。

「学食の歴史が生徒手帳に載ってるっていったら突然叫んだ」

すると眉にしわを寄せて

「は?」と一言返した。みんな生徒手帳読んでないのだろうか?けっこう暇つぶしになるのに。

「あ!ホントに載ってる」高橋が力なく生徒手帳のページを開いたまま固まっていた。集まっていたクラスメイト達は高橋の手から生徒手帳を奪うと回し見ている。みんな、理事長の学食にかける情熱を読んで感嘆しているかと思いきや、何故だか微妙な顔をしている。


「この学校、大丈夫だろうか?」と高橋がため息まじりにつぶやいた。

集まったクラスメイト達から公私混同とか理事長熱すぎてウザいとかただの自慢を生徒手帳にのせるんじゃねぇよとか批判が次々と飛び出していた。

 私が大丈夫だよ!理事長と学食最高じゃん!と親指立てながら言ったら間違いなく口撃されるだろう。最高に敗北しそうなので曖昧に笑っておいた。理事長、学食のシェフ、すまん。


 




 


 

2話目です。学食のあらましをかいてみました。理事長はピントのずれた感じです。

次でライバルのこととかちょっと出てくる予定です。

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