表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

エルフ王女誘拐事件Ⅲ

「ゆ、誘拐!?」

「しっ」



 俺は咄嗟に大声を出した紫苑の口をふさぐ。

 そして、周囲を警戒する。



「誰もいない……か」



 問題がないことを確認した俺は紫苑の口から手を離す。



「あ、ごめん」

「周りに聞かれると騒ぎになるから人気のないとこに移動したんだ。あまり大声を出すなよ」



 俺はARコンタクトを操作し、仮想PCを起動する。

 すると、目の間にホログラムで出来たディスプレイとキーボードが現れる。



「誘拐って、本当に誘拐なの? 伊織が言うならそうなんだと思うけど」

「あくまでその可能性があるってだけの話だ。今からその確証を得る」



 俺は仮想PCを操作しながら紫苑に答える。



「でもでもさ、システムのバグって可能性もあるわけじゃん?」

「それならアンリエッタの護衛についているはずのDDD局員が動いている。けど、それがない……っちやっぱりダメか」

「なにしてたの?」

「アンリエッタの乗っているハイヤーに搭載されている監視カメラの映像をハッキングしようとしたがダメだった。恐らく、電源が入っていないか、壊されているかだな」

「それはそうじゃない? 王女様が乗ってるなら監視カメラの電源切ってるんじゃ……」

「逆だ逆。防犯上、必ず監視カメラ映像はいつでも見れるようにしてあるはずだ」

「確かに。でも、見れないんでしょ? それじゃあ……」

「王女の乗ったハイヤーが誰かに乗っ取られた可能性が高い。あの車種は手動で運転することが出来ない。となると、外部からのハッキングって線になるが……」

「それなら、今ここで伊織がハッキングし返しちゃえばいいんじゃん」

「無理だ」



 俺は即答した。



「人の命を預かるシステムだぞ。そう簡単にハッキング出来るわけないだろ。今から取り掛かると少なくとも2日はかかる」

「え? でも、誰かがハッキングしたかもしれないんでしょ?」

「そこなんだよなぁ」



 例え俺以上のハッキング技術を持っているやつがいたとして、そう簡単に王女の乗るハイヤーを乗っ取るなんてこと……いや、予め王女が乗るハイヤーがどれか知っていれば可能か。



「ん? 待てよ。それは無理だ。アンリエッタがセントラルに来るって言うのが大々的に発表されたのは今日だ。そんな短時間でハッキング出来るはずがない」



 後、可能性があるとすれば、事前に王女が来ることを知っている人物、内部犯ってことになる。



「ん~ねぇねぇ、分かんないなら。今はそれより、どうやって王女を助けるか考えよ」

「それもそうだな」

「私が今からあの車を止めよっか? 物理的に」

「それは止めた方がいい。下手したら王女の命が危ない。犯人を刺激するようなことはしない方が得策だろう」

「それじゃあ、どうすればいいのー?」

「ちょっと待ってろ」



 俺は仮想PCのキーボードを慣れた手つきでタイピングしていく。



「アクセス完了だ」



 すると、仮想PCの画面に無数の動画が同時に再生され始める。



「これは何の動画?」

「周辺の監視カメラの映像をハッキングした。それと王女の護衛に当たっている局員たちの通信も傍受している。いつ犯人から連絡があってもいいようにな」

「それで、何かわかったの?」

「まだだ。けど、これで……」



 紫苑に答えながら手を休めずパソコンを操作する。



「ハイヤーをハッキングしてすぐに王女を殺さないところを見るに犯人の目的は誘拐そのものにあるのかもしれない」

「それってお金目的ってこと?」

「まぁ、順当に考えればそうなるな。なんにしても王女の命を対価に何かをしようとしていることは確かだ。とは言え、目的が何であれ、人質交換するはずだから、その為の場所があるはずだ。それを今から特定する」

「さっすが、伊織。よろ」

「最低限人気のない場所。この周辺で考えられるのは廃ビル、もしくは無人工場や倉庫だな。で、ここらへんにあるのは廃ビルが3つ、工場や倉庫が9つ」

「そんなにいっぱいあったら今からじゃ全部見て周れないよ」

「この中で怪しい車や人の出入りが頻繁にあった場所を絞り込む」

「怪しいって?」

「所属が不確かな車とかかな。工場や倉庫だと車の出入りを明確に記録しているから、データにない車とか入出記録を残してない人とかだな」

「あれ? 廃ビルは?」

「それは簡単だ。廃ビルには基本的に誰も入らない。だからそこに入り浸っているのは嫌でも怪しく見える」

「ほうほう、それでそれは見つけられそう?」

「ああ、もう出来た」



 エンターキーを押すと、画面にリストが表示される。



「もしかしてこれが怪しい人や車が出入りした可能性がある場所?」

「そうだ」

「え、でもこれって……」



 紫苑は口をつぐんだ。何故ならそのリストに表示されている場所は全部で9か所もあったからだ。



「多すぎない?」

「いや、むしろ好都合だ」

「え? なんで? 絞り込むのが大変じゃない?」

「今リストに上がった場所は全部候補から外す」

「外すって……。怪しい人たちがいたんじゃないの?」

「だからだ。あからさますぎる。これならすぐさま局員たちが気づいて犯人を捕らえに行く。これは罠と考えた方がいいだろう」

「となると、後、候補は3つだね」

「ああ、だが、これ以上絞り込むための情報がない」



 俺は必死になって情報を集めるが犯人に辿り着けそうなものは見つからない。

 そんな時だった。

 プルルルルルと着信音が鳴った。



「あれ? 電話? でも、私じゃない」

「これは……マークしていたインヴェスにかかってきた電話だ」



 俺は紫苑に静かにするように合図を出し、傍受したインヴェスの通話に耳を傾ける。



『犯人か? 王女をどうするつもりだ?』



 若い男の声。それは電話を取った局員のものだった。



『1億円を用意してアウローラから東に10キロ地点にある無人倉庫に来い』



 ボイスチェンジャーか何かで声を変えた犯人はそれだけ言い、通信を切った。



「東に10キロ地点の無人倉庫だって!」

「ああ、だが……」



 その場所はつい先ほど候補から外した場所だった。



「早く行かなきゃ!」



 慌てて犯人から要求のあった場所へと向かおうとする紫苑の首元を掴んで止めた。



「ぐえ」

「待て。少し気になることがある」

「気になること?」

「身代金の額が低すぎやしないか?」

「そうかな? 1億円って結構大金じゃない?」

「普通はそうだ。だが、一国の王女の身代金が1億というのは低すぎる。何か、何かあるはずだ」



 頭をフル回転させ犯人の思惑を図る。



「あ、そう言えば私も気になることあった」

「なんだ?」

「声だよ声」

「声?」

「そう。なんていうかな、聞いたことあるような声だった」

「ちょっと待ってろ」

「何するの?」

「さっきの犯人の声を解析にかける。ボイスチェンジャーを通さない生の声に変換するんだ」



 数秒して、解析を終えた犯人の声を再生する。



『1億円を用意してアウローラから東に10キロ地点にある無人倉庫に来い』

「この声は女? ……いや、それだけじゃない。この声、どこかで……あ」



 思い出した。



「「メイドだ!」」



 紫苑と被った。

 けど、間違いない。この声、アンリエッタの傍にいたメイドと同じ声だ。



「確か、メイドの方は警備の事前調査の為、一週間以上前からセントラルに来ていたよな」



 それほど前に来ていれば、今回の事件を仕込むことは恐らく可能だろう。



「え、じゃあ、あのメイドさんが犯人ってこと?」



 確かにハッキングでハイヤーを乗っ取ったのだとしたら、内部犯である可能性は高い。

 けど、俺は犯人の声がメイドだったことで新たな可能性を見出していた。



「いや、結論を出すのは早い。もう少し待て」



 俺は紫苑を諭し、先程の音声を別視点から解析する。

 そして……。



「そうか……そう言うことか」



 見えたぞ。この事件の真相が。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ