変わらない日常
1, 変わらない日常
俺は盛川麻琴、17歳。彼女歴なし、当然恋人もなし、黒髪黒目の短髪。どこからどう見ても、健全な男子学生だ。
え?女みたいだって?それは名前の漢字だけさ。俺はいたって女装しているわけでもなければ、おとこの娘でもない。ちゃんとした、男だ!!
身長170㎝、体重80㎏。ほら男だろう?ちょっと筋肉がついてる程度かな?
よく名前を見て弄られるのさ。
例えば、体育の事業であったり、クラスで決めごとする時に、黒板に名前を書いたりするでしょ?そんな時、クラスメイトの顔が一瞬?になって誰こいつ?(笑)みたいになる。そのたびに笑ってしまう自分も自分だけど。
ちなみに剣道部にももともとは所属していたのもあって、握力は何気にあったりするのだ。試合中相手の生徒を引退に追い込んでしまってから、やめてしまったけどな!
けど、そこそこ強かったんだぜ!
俺が通っている日花里坂学園はスポーツ校として有名なのだ。これからすぐ出てくるやつもスポーツマンさ。と、いっていたら、早速来たぞ?
「おーい、麻琴ー!学食行こうぜー!」
「お、いくいくー!ちょっと待ってなー!」
今声かけたやつは相沢浩一。スポーツ推薦でこの学校に入学したが、問題を起こしすぐ部活をやめてしまったどうしようもない奴だ。
お調子者で元気な奴で、とてもタフやつ、そこは素直にすごいと思う。
俺としても唯一の悪友?とまではいかないが、学校に入ってから仲良くつるんでいた。
「何食べる?」
「ラーメン。」
「えぇ!?中庭で食べれないじゃん!」
「俺はラーメンを食べる。」
「チッ。わかったよ―。」
しぶしぶといった感じで付き合う浩一はなんだかんだいい奴だ。ま、ひとりでもラーメンを食べるんだが。
「そういえばさ、今度行く修学旅行延期になるってよー。なんでも、台風が直撃するとやらで…。」
パンを片手に口を動かしながら浩一が話す。
「そもそも俺らが修学旅行なんて行けるわけないだろ?問題児2人。」
「誰が?」
「俺と、お前―。」
俺は自分に指を向けた後、浩一に向かって指を向けた。
すると浩一はびっくりしたかのように、若干飛び跳ねる。
あまりの勢いに、喉を詰まらせたのか、胸をたたき始めたので、そっと水を差し出すと、勢いで飲み干そうとしたのか、余計に水がつまり、口からいろんなものが飛び出た。
「うわ、きたな!」
「げほっ。し、死ぬかと思った―。」
何とか詰まったものは通ったらしく、いそいそと雑巾を借りてきて、周りを掃除し終えた後、改まってパンを食べ始めた。
「で、なんでよ?」
「なにが?」
「修学旅行。」
まだ先ほどの話を気にしていたのか、聞いてくる。
「俺らが、真面目に勉強して、部活もして、学校に貢献したらいけるかもな~。主任が言ってただろ?ちゃんと…『日花里坂学園の模範となる生徒になるように!普段の行いを見て、連れていくか判断する!』!…と、いってたじゃん。それって、要は内申点だろ?無理無理。」
麻琴は席を立ち上がると主任の真似をして声を張り上げた。すると、聞いていたのか、周りの生徒、さらには学食のおばちゃんまでもが一瞬キョトンとした後笑い出した。
そんなにおもしろかったのだろうか?
「ははは。センスあるじゃん。物まね。だけどどうかね~。ほら、俺って真面目だし、勉強してるし、内申点はきっと大丈夫だ。
なにより、修学旅行っていたっら、お泊り!お泊りと言ったら、枕投げに、女風呂に…。」
「はいはい、万が一行けたとしても、お前は絶対、問題児部屋だな。他校と喧嘩するなよ~。」
「お前もだろ!?」
麻琴の通っている学校は私立であり、修学旅行等学校の行事はすべて、学校側が負担する方針の学校であった。だから何よりも、問題のある生徒は、行事に参加させず、後者の掃除だけにとどめたりする場合があり、何よりも、日花里坂学園の生徒として、恥ずかしくないように行動するっていうのが学校方針で存在している。
スポーツ推薦以外はとても偏差値が高い学校なんだぞー。
そうやって、修学旅行の話に華を咲かせていると、昼休みが終わった。
一日の授業が終わり、家に帰るため、下駄箱で靴を履き替えようとすると、一枚の封筒が落ちてきた。
誰が手紙をいれたのかわからないが、封筒の開け口にかわいいデコレーションのシールで貼ってあるところを見ると、おそらくあれかな?と思ってしまう。
普段はいるはずのない浩一がひょっこり顔を出してくると、手に持っている封筒を見ると満面の笑みに変わった。
「麻琴、何それ?ん?ラブレター?ラブレター!?」
封筒が気になった浩一は目が点になりつつも、興味津々といった感じで、驚いている。
「ラブレターだとしたら、いかに古い伝え方だな。今は大体メールとかじゃないのか?」
「知らねーけど、おい、開けてみようぜ。」
「帰ってから開ける。」
「あ、お、おい!待てよ!今から会いましょ?とかだったらどうするんだよ?」
帰ろうとした麻琴に対し、浩一は止めに入った。
これは完全に興味津々な感じでダメだ。面白おかしくしてやがる。
「謝ればいいんじゃないか?とにかく今は開けず、浩一には見せない。」
「えー!?わかったよ。後からでいいから教えろよな!」
しぶしぶといった感じで浩一は引き下がると、じゃ!っといって寮に戻っていった。
麻琴も、悪いことしたかなーと思いつつも、手紙を鞄に入れ、玄関から出た。
校門まで歩くと、麻琴は手紙の内容が気になり、手ごろな場所を探して、封を開けた。
「えらい可愛らしい封筒だな。」
若干顔がにやけつつも、折りたたまれている手紙を開いて字を読んでみる。
「盛川麻琴くんへ。
2年Aクラスの宮沢穂希です。
お話があるので手紙に気づいたら生徒会室に来ていただけませんか?」
麻琴は手紙を読むとガクッとした。期待していた半面だろうなという気持ちが強かったが、ちょっぴり悔しかった。
麻琴も年頃の男子生徒。そりゃ、浩一と同じで彼女や女性には興味がある。
もっとも、誰でもいいというわけではないが…。
宮沢穂希と言えば、生徒会役員の副会長だ。物事を柔軟に考え、人当たりよく、誰に対しても人懐っこいとても可愛らしい性格をしている。さらに、容姿端麗、性格美人、といった、学校でも知らない人はいないといわれているほど、有名で高領の華だ。
付き合いたい、彼女にしたいといった男子生徒は数知れず。
噂では毎日のように告白されているといったことまでもあるが定かではない。
ま、俺みたいなやつには関係のない話だ。…はぁ。
とぼとぼと歩きながら、生徒会室に向かうと、ノックもせずに扉を開けた。
「E組の盛川麻琴で~す。呼び出しを受けてきましたー。」
麻琴は棒読みでいう。
生徒会室の中に入ると、中にいた2人は突然のことに驚いていた。
ひとりは先ほど説明した宮沢穂希。突然入ってきた俺に対し、にこにことしているが、なんか目が笑ってない気がする。
もう一人は驚きながらもマイペースにお菓子を食べていた。
「ちょっと。ノックくらいはさすがにしてほしいよ?」
穂希が、あきれた様子で言う。
「すまんな。このとおり、礼儀がなってないものでな。まあ、それよりもお話があるって手紙読んだけど、下駄箱じゃなくて直接言ってくれればいいのに。」
「あー。あれね。もしかして期待した?ごめんね?なかなか直接言おうにもクラス違うでしょ?だから手紙にしたんだ。」
「紛らわしいわ!」
「ぷっ。あははは。」
麻琴の突っ込みに、奥に座ってお菓子を食べていた女性。佐倉悠梨が手に口を当てて涙目になりながら笑い出す。
佐倉悠梨。2年C組。おとなしそうな感じの雰囲気を持ち、その一つ一つの動作がとてもきれい。身長は155㎝と普通だが、そのきれいな感じの上品さも伴って、学年内ではとても人気が高い。穂希に続き、悠梨も男子生徒の中ではかなり持ててるほうで、穂希とは違い、また違う層にモテている。どちらかというと、妹みたいな感じの人だ。
「ちょっと悠梨、もとはといえば、あなたのせいでしょ?」
「そ、そうなんだけど…。」
「まあ、いいわ。それで、盛川君に話なんだけど、修学旅行がもう近いでしょ?けど、若干何名かの生徒は修学旅行に連れていけれないって話になっててね、そこに盛川君の名前も挙がっているの。」
「そうなんだ。そんなことだろうとおもったよ。」
「興味なさそうだよね、ほんとに。とにかく、このままでは修学旅行にいけれないから、何とかしていけれるようにしたいんだけど、そしたら生徒会メンバーに入ってもらうのが一番なのよ。」
「おれが、生徒会?むりむり。」
ただでさえ、やる気もなく、続かないのに、生徒会なんてできるはずがないし、そもそもこんな化け物みたいなエリートの巣窟に、自分が入って活動するだけで無理なことだ。それに、修学旅行ってのも、あまり興味がない。
「そういうと思った。じゃさ、生徒会活動の一環として、放課後、ゴミ捨てを手伝ってよ。焼却炉にゴミ入れて燃やす作業。」
「まあ、それくらいならいいけどよ…。なんで俺が?てか、相沢はどうなん?」
「相沢君はね。ほら。そういうのできないだろうし。」
「……。」
納得のいく答えに思わず黙ってしまう。
けど、ゴミ捨てかぁ。なんかかったるいぞ。
すると、麻琴の頭の中を読んでいたのか淡々と言葉をいう。
「遅刻、さぼり、喧嘩、パチンコ。」
「わ、わかったよ!けど、喧嘩と、パチンコはしてないぞ!?」
「どうなのかしら?」
穂希はジトっとした目で見てくる。
「あとはそうね。悠梨からあなたに話があるって。ほら、悠梨。いつまでもお菓子食べてないで、自分のことでしょ。」
悠梨は手に持っていたお菓子をおいて、お茶を飲み干すと、麻琴の正面に立った。
こうしてみると、下から見上げてくるような感じになってて、意外と背が小さい。
「盛川くん。好きです。わたしと付き合ってください!」
悠梨は顔を真っ赤にして、頭を下げながらいった。突然のことに、麻琴も声がとっさに出ず、驚きで固まった。
麻琴もえ?え?どうゆうこと?なになに?って感じになってる。この固まった空気の中から動けたのは穂希だけだった。
「てことよ、盛川君。あの手紙はわたしじゃなくて悠梨から。びっくりした?よかったら返事答えてね?」
「え?あ?その、答えるというか、そもそも、佐倉さんとほとんど接点ないんだけど?いったい、どこで?」
「それは…。」
その時、突然教室が揺れ始めた。
「地震!?はやく、机の下に潜って!」
いつも体験しているような小さな地震ではなく、かなり大きい揺れのため、まともに、歩くことができない。生徒会室の本棚からは書類がたくさん落ちて、机の下に潜ろうにも並べている机すら動き回る始末だ。あまりの揺れの大きさに、蛍光灯も割れていく。
「頭だけでも守れ!」
しゃがみこんで悲鳴を上げている悠梨を麻琴はとっさに押し倒して、頭を守るように覆いかぶさった。穂希は冷静に判断で来ていたのか、机の下にいたが、あまりの大きさの揺れのため、机の足にしがみつき動けないでいる。
ゴゴゴゴゴとした音がどんどん大きくなってくると、突如、何かが割れる音が聞こえてきた。地面を見てみると、コンクリートがどんどん亀裂が入っていく。天井からも、割れた蛍光灯、時計、コンクリートの破片がどんどん落ちてきていた。
「崩れるぞ!?」
あまりの大きさの揺れに、地面が割れ、麻琴、穂希、悠梨は学校もろとも下に落下していく。
その時、同じように何名かの生徒も落下に巻き込まれているのが見えた。
こんな大地震経験したくてもできない規模だが、もしかしたら死んだかもしれない。
麻琴は最後にそんな風に思うと、悠梨に悪いと思いつつ身体を抱きしめて庇い、上から振ってくるコンクリートの衝撃によって意識を失った。