異世界転生斡旋所
「うぅ……俺は確かトラックにはねられて……はっ!? この無機質な白い空間、まさかこれは噂に聞く、異世界転生の流れ!?」
「最近の若人は話が早くて助かるデス! ライフは転生の女神にして、この異世界転生斡旋所の所長デス! それでは受付へどうぞ~」
「あっいや、そんな急に───!?」
足元に現れた黒い穴に吸い込まれると、たどり着いた先は人、人、人……人だらけの役所の待ちあい室のような、ショッピングモールのような巨大空間だった。
「ファンタジー異世界51番でお待ちの転生者様~受付10番までお越しください~」
「任侠異世界1番でお待ちの転生者様~」
「なんなんだここは……」
「よぉ、新人か。最初は驚くよな、この光景」
現れたのは長身の男。整った顔に長く特徴的な耳は、物語に出てくるエルフそのものだ。よくみれば、この人だらけの光景もところどころ人じゃない奴らが紛れてる。
「エルフ…って事は、ここは本当に異世界なのか!?」
「エッルッルッ! いやぁ色々突っ込みたいんだけど、取り敢えずここは異世界じゃないぜ~。転生の女神ライフたそが言ってただろ? ここは異世界転生斡旋所、ここから希望の異世界に転生できんのさ」
某海賊漫画の登場人物になれそうな笑い方でエルフは答える。笑い方が気になってしょうがないが、今コイツ、めちゃくちゃ大事な事言ったな!?
「転生できる異世界、選べるの!?」
「そりゃ選べるさ。逆になんで選べないとか思ってんの?」
エルフは首を傾けて聞き返す。確かに……いや知るわけないだろ。死んだの初めてだし。
「逆に、転生しないって選択肢もあるぜ」
「転生しないのはないだろ。転生して二周目人生頑張ってチート無双…現代っ子ならみんな考える事だ。まぁエルフにはわからないかもしれないけど……」
「お前、科学異世界11番から来たんだろ? 俺、科学異世界12番だからそんなに文化に違いないと思うけどね。俺の名前はツヨシ。俺の世界でも異世界転生ものは人気だったぜ」
エルフのような現実離れした見た目でツヨシという名前に違和感しか感じない。その後、俺はツヨシからいろんな事聞いて、話した。話を聞くに、異世界というのはパラレルワールド的なものでその数はめちゃくちゃ多いらしい。そんな異世界も科学異世界、ファンタジー異世界、とジャンル分けされて管理されている。その昔は転生の女神ライフが転生先を決めていたが、転生者が多くなってそれもままならなくなり自身に決めさせる方針に変わったそうだ。
そして、ジャンル分けされた世界の中でも番号付きの世界はある程度文化や文明が発展している。その番号が近いほど、似てる文明を築いているらしい。ツヨシの話を聞くに、地形や国は全く違ったが漫画やアニメがあったり、異世界ものが同じく流行っていたりと共通点が多くあった。
そんなこんなもあって、俺はツヨシと仲良くなった。
俺は異世界に転生するつもりだったから、ツヨシに教えられながら異世界の情報が見れる機械で異世界を覗き見していた。それはすっかり日常になり、二人で異世界を調べる事が習慣になっていった。
「割と色んな異世界見てきたけどさ、なんかここにしたいって異世界あんの?」
「そうだなぁ。やっぱ魔法とかあって欲しいな、でも文明レベルがある程度ないと無理だわ。風呂に入れない生活とか汚いトイレとか無理だもん。でも中世ファンタジー憧れるんだよなぁ~悩むわ~」
「現代系の魔法異世界もなんかちょっと違うしな。でも魔法って運要素強くね? 転生って基本、記憶保持出来ないし生まれもガチャみたいなもんだぜ。記憶保持できる転生はその世界の神様からの無茶ぶり付きだしなぁ…」
「そういえば、ツヨシは転生先どうするんだ?」
「───おっこの異世界面白そうだぜ! 動物しかいねぇんだってよ!」
ツヨシは自分の転生先の話をすると、いつも話題を逸らす。何かを隠している事は明白だが、その理由がわからない。でもまぁ、本人が嫌そうなら聞かなくていいか……
そのまま、俺はツヨシの転生について聞けずに自分の転生先を選ぶことが出来た。
それはつまりツヨシとの別れを意味する。
特殊な場合を除き、転生前の記憶を持ち越すことは出来ない。
「なぁ、ツヨシ……今までありがとな、お前が声かけてくれなかったら俺、わけもわからず転生してたよ」
「……いや、こっちこそありがとう。なぁ、実はさ、俺……お前に隠してた事があるんだよ……」
なんとなくそんな気がしてた。転生前にツヨシが話してくれるみたいで良かった、これで心置きなく転生できる。
「実はさ、俺は転生者じゃないんだ。転移者なんだぜ」
「えっ、それって……」
転移者、確か死んだときの姿、記憶を保持したまま異世界に転移する人……まさかツヨシが転移者だったとは……けど、
「なんで黙ってだんだよ」
俺の心からの言葉だった。隠すような事でもないだろうに。
「……俺は嫌だったんだ、ずっと。友達もいない、親も、俺を知る人間が誰もいない場所にポイっと投げ出されるのが。それで、ずっとここにいた。お前みたいな何も知らなそうな転生者に声をかけて、暇をつぶしながらな。だから、礼を言うのは俺の方なんだよ」
「…ずっと転移せずにここにいれるのか?」
「無理だね。いつかは転移しないといけない日が来る。それは転生者も一緒だ。最初に転生しない選択肢もあるって言ったのは嘘さ。人は、次の生に向けて進まなきゃいけない時が絶対に来るんだ。ここはただ、一瞬立ち止まっているだけなんだぜ」
「なら、一緒に異世界に行こうぜ」
気づいたら口をついて言葉が出ていた。そうだ、一緒に行けばいいじゃないか。
「聞いてなかったのか? 俺は転移者なんだぜ、記憶も全部ある。けど、転生者のお前は───」
「ああ、だから転生した俺を頑張って見つけてくれ。その世界なら、誰もツヨシを知らないわけじゃない。確かに俺は忘れてるかもだけど……ほら、一度こうやって友達になれたんだからさ、もう一度ぐらいなれるだろ?」
「エッルッルッ……転生した後のお前の顔とか知らねーし。どうすんだよ」
「いいじゃん。ほら、出会ったやつ全員俺の転生後だと思って仲良くすれば」
「馬鹿すぎ」
俺はツヨシとひとしきり笑った後、転生の受付に呼ばれた。最期に握手はなんか違う気がして、お互い照れくさそうに片手をあげて挨拶しただけだが、なんというか……そう、ハグでもなんでもしてやればよかったかな、なんてちょっとだけ後悔を残して俺は第二の人生へと向かい始めた。
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