賊団と手を組むという事は、悪魔と手を組む事と同じ事
好きな物や好きな事~?
う~ん、魔獣や薬とかそっち関連の研究かな~?
あと、紅茶だな~。
そこは、やっぱり家系かね~。
~討伐部隊“勇者”パルス=イン八世隊員~
「た、隊長っ...! こ、これは一体...」。
シアターは困惑した表情を浮かべ、高原の地面で大の字になって爆睡する男達を見下ろしていた。
「相手が酒で気分が良くなっていたみたいなんでね~。煙草を渡すために荷車の方へ戻った時、隙を見てこれを魔力薬に仕込んでおいたんですよ~」。
ハリガネはそう言って懐から紫色の液体が入った小瓶を取り出した。
「あ、それはさっき通りかかった傭兵から手に入れた睡眠薬」。
シアターがそう言って指差すその小瓶を、ハリガネは回しながら眺めていた。
「荷車に置いたままにしてたら怪しまれると思ったんで、気配を感じた時にさりげなく麻痺薬と一緒に懐に入れておいたんです。睡眠薬は少量でも結構効き目あるみたいですね~。ちょうど良い機会だったから試しに使ってみました。まぁ、効き目なかったらこれを使っていましたがね~」。
ハリガネはそう言ってコートの中から回転式拳銃を取り出し、その拳銃に入っていたカプセル式の銃弾をシアターに見せた。
「こ、これは睡眠弾...ですか? 」。
シアターは怪訝な表情を浮かべ、ハリガネの掌に載っている数個の銃弾を見つめた。
「これは魔獣専用の麻酔弾です。こいつはかなり強力で人間が撃たれたら確実に失神します。麻酔弾は手持ちが少ないんで緊急時以外では使いたくなかったんですよ。でも、今回は使わずに済んだんで良かったです。しかし、取引相手の傭兵が言ってた通りだ。これも魔獣専用の睡眠薬だから人間はすぐに落ちたな」。
「なるほど〜! 手に入れたその睡眠薬や麻痺薬が大きな武器になる事がここで立証されたというわけですね~! 」。
シアターは感心した様子で何度も頷いた。
「しっかし、こんな効力のある貴重な薬品を煙草と交換したがるものかね~? しかも、煙草なんて嗜好品なのに...。やっぱり、欲には抗えないものなのかね~? 」。
ハリガネはそう独り言を呟きながら睡眠薬を懐に入れ戻した。
「しかし、今日はゴクアクボンドの賊員が山脈から下りてきてくれたのはラッキーでしたね~。下っ端みたいだけど色んな情報を聞く事ができました~」。
ハリガネは両手を腰に当てて爆睡中の男達を見下ろしながらそう言った。
「でも、この団員達を寝かせてどうするつもりなんですか? むしろ、寝かさずに別れた方が良かったのでは? なんか、このゴクアクボンドの賊員達に好印象を与えたみたいだし...。もしかしたら、ゴクアクボンドと友好的な関係が築けて“アルマンダイト”討伐に大きく前進できるかと...」。
シアターがそう言うと、ハリガネは首を小さく横に振った。
「シアターさん、我々の存在は山脈の賊団やハンター達に知られてはいけないのです。シアターさんも御存じの通り、山脈に拠点を敷く賊団の目標は共通して“アルマンダイト”討伐です。仮に、我々が賊団と友好関係を築いたとしても相手は所詮賊団です。表向きでは友好的に接してくれても賊団と同じ目標であり山脈付近に居座っている限り、奴等が俺達を散々利用して身動きが取れないような状況まで追い詰めていくのが容易に想像できます。骨までしゃぶるどころか、しゃぶった骨から出汁を徹底的に取る。そして、出汁を取り尽くしたその骨をそのまま砕き、土に散布して肥料として活用する...。そういう人間達の集まりです」。
「そ、そこまで...」。
「使える物は擦り減って無くなるまで使い切る。賊団の利益になる事なら、例え味方や身内を犠牲にしてでもそれを実行する。山脈の賊団は凶悪な魔獣と隣り合わせで活動している集団です。どんなに卑劣で非情な事でも臆する事なく実行する。もし、我々の正体が賊団にバレれば、こいつ等の上司やボスに騙されて殺される事は大いにあり得るでしょう。そうなれば、“アルマンダイト”どころではありません。賊団と手を組むという事は悪魔と手を組む事と同じ事だと思ってください。完全に弱肉強食の世界で生きている賊団の連中に、一般人の思考は持ち合わせていません。そして、賊団の人間が我々に真実を話す事はありません。話す事は虚偽と破滅へと導く甘い言葉だけです。だから、そんな輩達に我々の部隊の存在が知られるわけにはいかないのです。こうして商人に成りすましている時も、ね...」。
神妙な面持ちのハリガネが厳かな口調でそう言うと、シアターは申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「すいません...私の考えがあまりにも軽率でした...」。
「いえいえ、それで...何で僕がこの賊員達を寝かせたかというと...」。
ハリガネはそう言いつつ懐から警笛を取り出した。
「さっき話してた、会いたい人にこれから会うためです」。
ハリガネはそう言ってシアターにウィンクしながら警笛を口にくわえた。




