山脈内のしきたり
やぁ! みんな!
やっと自分の名前が出てきたね~!
嬉しいな~!
...。
まぁ、今回はそれだけなんだけどね~。
~道具屋“オードリー”の従業員、ハリガネの友人ミドル=ヘップバーン~
(...! 気配は山脈からだったのか...。三人の風貌からして山脈の賊団だな...)。
ハリガネはライフルから手を放し、パルメザンチーズ山脈の方面からツカツカと近づいてくる三人組の男達に視線を向けた。
大柄で体格の良い男達は鎧とフルフェイスではない金属製のヘルメットといった防具を身に纏っていた。
「オイィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!! テメェ等ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
「商人の分際が誰に断って商売してんだぁぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!?!? オルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
「いてもうたるぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? コルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
輩臭が漂う厳つい顔つきをした男達は、睨みを利かせながらライフルの銃口をハリガネとシアターに突き付けつつ接近してきた。
「いらっしゃいまし~! 」。
ハリガネは男達に動じる事なく男達に応対した。
「何がいらっしゃいましだぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? オルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
「この高原は何処のテリトリーだか分かってんのかぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。
「ああ~! すいやせ~ん! 自分達は最近パルメザンチーズ山脈の方で露天商売を始めたもんなんで、まだ山脈にいらっしゃる組織の縄張りとかは全然分かりやせんでして...」。
ハリガネが自身の後頭部を撫でながら何度か頭を下げていると男達は険しい表情を保ったままハリガネとシアター、そしてここまで牽引してきた荷車をまじまじと見つめた。
「貴様等ッ!! 何処の組織のもんだッ!? 」。
男の一人が凄みながらハリガネに詰め寄ってそう問いかけた。
「いや、あっし達は一週間くらい前にこの山脈で商売を始めたばかりなので、何処の組織にも所属してないんでゲスよ~。ですから、勝手が分からなくって...本当に申し訳ないでやんす」。
ハリガネが申し訳なさそうな様子でその男に詫びていた時、他の男達は荷車の中に積んである物資をチェックしていた。
「武具や兵器は...無さそうだな。ほとんど日用品とここら辺で採集したもんだ」。
「おいッ!! これ魔獣の部位じゃねえかッ!! 何だッ!? これはッ!! 」。
男の一人が血相を変えて荷車の中から魔獣の牙や角を取り出した。
「は~い! ケチャップ国近くで山脈から下りてきた魔獣と遭遇しまして、二人で討伐した後バラしたやつでゲスね~! 」。
ハリガネがそう答えると、その男は目を大きく見開いて大変憤った様子を見せていた。
「し、商売だけに飽き足らず魔獣狩りもしてやがるだとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? 」。
「は~い! あっし達は露天商人を営んでいるでやんすが、ハンターも兼任してるザマスよ~! 」。
「そんな事を聞いてんじゃねぇぇぇぇええええええええええええええええええッッッ!!! ここを陣取ってる俺達の許可も無く商売や狩りなんかしてんじゃねぇつって言ってんだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッッッ!?!? コルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
「あ~、そうなんでやんすね~! 何かそういった風習が山脈にはあるんでおじゃるね~! 」。
「~~っっ!! 」。
「コイツにこれ以上何言ってもしょうがねぇ。山脈に来たばっかの商人だから、多分組織の関係や習わしとか何も分かんねぇんだろ。組織にも入ってないって言ってるし」。
他の男がエキサイトする男をそう言ってなだめた。
「いやぁ~! 申し訳ないでやんす! 」。
ハリガネは申し訳なさそうな様子で男達に深々と頭を下げた。
「まぁ、新参者だから教えてやろう。いいか? あの奥のパルメザンチーズ山脈とその周辺地域ってのは、山脈に拠点を構えている各組織が牛耳ってんだ。つまり、この高原もこの奥のパルメザンチーズ山脈も、場所によってはその組織の縄張りだって決まってんだ」。
「そう言う事だぁ~! だから、オメェ等みてぇな無礼者が、俺達組織の人間に何の断りもなく勝手な事をしてもらったら困ってるってわけだぁ~! 俺達のテリトリーで活動したけりゃあ組織に入るか、商人として俺達の領域内で活動したいんなら組織に挨拶するんだなぁ~! 」。
「それと、この先賊団の組織として山脈内でずっと活動したいのであれば、その日に得た利益の一部を組織に納付する事も忘れんなよ? 納付を怠ってると背信行為とみなされて殺されかねないからな。お前等を見たところ本当に商人みたいだから今回は殺さずに見逃しといてやるよ」。
「本当にすいやせ~ん! 」。
ハリガネはそう詫びながら男達にペコペコと頭を下げ続けた。
「それと、ここで商売してぇんだったらウチのボスに挨拶しとけよ? ここはゴクアクボンドのテリトリーなんだからな。ただでさえ、ノンスタンスとかいうガキ共に...」。
「お、おいっ...! 」。
他のメンバーが突如話を遮り、ハリガネ達を一瞥しながらその男に耳打ちをした。
『な、何だよ...』。
『馬鹿っ! まだ組織に入るかどうかも分からねぇ奴等の前で、ウチの組織事情をそんなベラベラ喋んじゃねぇっ! 最近ノンスタンスとかいうギャング集団が俺達のテリトリーに侵入してイキり散らしてて、ボスもカンカンなんだからあまり余計な事を言うなっ! 』。
『わ、悪いっ! そ、そうだったなっ! 』。
「...」。
そんな耳打ちを交わしているゴクアクボンドメンバーの様子を、ハリガネは冷めた表情で見つめていた。
(...耳打ちで誤魔化そうとしても、距離的に俺には全部聞こえちゃうんだよなぁ~)。
幾多の戦争を乗り越えて研ぎ澄まされたハリガネの聴覚に、その耳打ちは通用していなかった。




