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破離刃離☆勇者ハリガネⅢ~俺達は“炎の守護神”と恐れられている魔獣を討伐しないと王国へ帰れま1000!! ~  作者: 田宮 謙二


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魔王


私は何の不自由も無く生活ができてるけど、ずっと心に穴がぽっかり空いたままだった。


その穴を優しく埋めてくれたのが、名前の知らぬあの御方だったの。


どんな形であれ、絶対に再会するまで私はあきらめないわ。



~エミールのメンバー、ウェーブ~




「ふぃ~! 何とかゴリラ隊員を説得できたな~。良かった、良かった」。


ハリガネとシアターは荷車を引きながら平坦な草原を歩いていた。


「うぅ~! こ、怖いよぉ~! 死にたくないよぉ~! 」。


シアターは身体をガタガタ震わせながら後方から荷車を押していた。


「シアターさん、大丈夫ですよ~! 死にはしないと思いますから~」。


「いや...だって...。隊長、自分のドッグタグを基地に置いてきたじゃないですか~! ドッグタグを置いてきたって事は、もう命を懸けて向かうってわけでしょう~?? そ、そんなの嫌だよぉ~! 」。


シアターは泣きべそをかきながら天に向かってそう嘆いた。


「いやいや、別にそんな心意気でドッグタグを外してきたわけじゃないですよ」。


「...へっ? それはどういう事です? 」。


シアターは涙を袖で拭いながらハリガネに問いかけた。


「そうでもしないと、ゴリラ隊員が折れてくれないって思ったからそういう行動しただけですよ」。


「そ、そうなんですか? 」。


「別に僕自身は死ぬつもりなんかサラサラ思っていないし、善は急げってね。慎重に行動するのも大切ですが、戦地でも状況に応じて偵察しないと逆に賊団にこっち側の情報を握られた時が怖いですからね~。あとは追跡されてないか警戒しておかないと」。


「は、はぁ...。そ、それで隊長、今回はカッテージチーズ高原で聞き込みするんですか~? 」。


「そうです、こことソイ=ソース国はもう目と鼻の先の距離ですからね~。ほら! 」。


ハリガネはそう言うと、ソイソース国の街並みが広がる風景を高原の上から見下ろす様な格好で指差した。


「本当ですね~。でも、大丈夫でしょうか? 賊団と鉢合わせにならないですかね? 」。


「ここはソイ=ソース国兵も巡回すると思いますし、賊団はなかなかここをうろつかないと思いますよ」。


「え? ...って事は、聞き込みってソイ=ソース国兵に対してするつもりなんですか? 」。


「兵士にも遭遇できたら聞き込みしたいですが、なるべく賊団がうろつかなそうな所って事でカッテージチーズ高原をチョイスしました。まぁ、ここもパルメザンチーズ山脈付近なんですけどね~。ソイ=ソース国からやって来た旅人とかハンターは、諸国を横断するの上で地理的にも魔獣とあまり遭遇しないであろうこのカッテージチーズ高原を通っていくはずなんです。それと、山脈方面からソイ=ソース国の方へ帰ってくる旅人もこの高原を通っていくと思いますので、そういった人達からも何か有力な情報が聞けたらと思いましてね~」。


「なるほど~、諸国の近くなら賊団も寄りつかないでしょうしね...ん? 」。


シアターは岩の近くに生えてある何かに気が付いてそこへ駆け寄った。


「あ~! 隊長~! 根野菜や薬草がこんなに生えてますよ~! 」。


シアターは嬉しそうな様子で地面に生えている野菜や薬草を引っこ抜きハリガネに見せた。


「高原ですから気候的にも植物が育ちやすいんですよね~。ここは山脈付近ですから一般人はなかなか寄りつかないし、自然に育った野菜とかもあちらこちらに生えてますよね~。しかし、景色も良いし、涼しい風も吹いてて気持ちいいな~! ん~! ...お? 」。


ハリガネは背伸びをして高原の空気を満喫している時、小さな耳の長い小動物が周囲を飛び跳ねている事に気が付いた。


「あれは兎族の“パール”だ。そうか、この高原は“パール”の生息地だったな~」。


「本当だ~! 可愛いなぁ~! 」。


シアターは嬉々とした表情で周りを飛び跳ねている“パール”を眺めていた。


(“パール”の肉も柔らかくて美味いんだよなぁ~! こいつはほぼ無害だし、ちょっと一狩り...)。


ハリガネがそう思って背負っている長剣の柄を掴んだ時...。


『お腹が空いても、“パール”ちゃんは食べないでくださいね? 』。


突如、ポンズ王国の修道女ブリッジの言葉がハリガネの脳裏に過ぎった。


(...やめとくか)。


ハリガネが長剣の柄から手を話した時、ソイ=ソース国方面から数人の集団が近づいてきた。


「...ん? 誰かこっちに向かってきたぞ? 」。


ハリガネとシアターは近づいてくる集団の存在に気付き、急いで荷車の傍に戻った。


「...あれ? こんな場所に露天が...? 」。


四人組のその集団はそれぞれ異なる出で立ちをしていた。


その集団の先頭を歩く男性は頭部に白いハチマキを巻き、身体には銀の防具を纏いハリガネと同じく長剣を背負っていた。


男のすぐ後ろを歩く一人の女性は薄紫のローブを着ており、いかにも魔法使いらしい格好をしている。


同じく、男のすぐ後ろを歩くもう一人の女性は黄色い服を着ており、太ももと谷間を大胆に露出させて大分際どい格好をしていた。


そして、集団の一番後ろを歩いている大柄な男性は防具を装備しておらず、白い道着と黒帯を身に着けていた。


(正面は長剣背負ってるから剣士かな? ローブ姿で長い杖を手に持ってる女の方は魔法使いで、もう一人の女は槍を背負ってるから槍使いだな...。後ろの男は分かりやすいな...武道家か。そうなると、旅人の集団か何かかな...? )。


ハリガネはフードを目深に被り直しながら集団を観察していた。


「いらっしゃいまし~! あっし達はハンターをしながら露天商を営んでいる者でやんす」。


「...露天商? 」。


剣士らしき男性はそう言うハリガネに怪訝な表情を浮かべ、荷車に積まれている物資をまじまじと見つめていた。


「ほう...魔獣の部位があるな。これは山脈の方で狩ったのか? 」。


武道家らしき男性も興味深そうに物資を眺めていた。


「はいっ! これらの部位は“タイガーアイ”と“インフィナイト”でやんすっ! 」。


ハリガネがそう言うと、槍使いらしき女性は大きく目を見開いて驚いた様子を見せた。


「“タイガーアイ”と“インフィナイト”ぉ~!? あの大きな竜魔獣を貴方達が倒したのぉ~!? 」。


「はいっ! たまたま山脈付近で遭遇しやしたので討伐しやしたっ! (本当はエミールの奴等が狩ったやつだけど...)」。


ハリガネが得意気にそう答えると、武闘家らしき男性は感心した様子で何度も頷いた。


「確かに、これらは間違いなく“タイガーアイ”と“インフィナイト”の牙や爪だ。ハンターとはいえ、よくあんな大型魔獣を仕留めたな~。大したもんだっ! 」。


「いやぁ~! たまたま遭遇した時、山脈にいる賊人達と戦闘したか何かで瀕死だったんで運が良かっただけでゲスよぉ~! 」。


「へぇ~、ちゃんと綺麗に剝ぎ取ってるのねぇ~」。


魔法使いらしき女性は魔獣の牙を手に取って興味深しげに見つめていた。


「へへへ~! 我々もこの世界のプロでやんすからね~! 」。


ハリガネは笑みを浮かべながら自身の頭を撫でた。


「...」。


そんな中、剣士らしき男性は神妙な面持ちでハリガネとシアターを交互に見ていた。


「君達も僕等と一緒に魔王を倒す旅をしないか? 」。


「ま、魔王?? 」。


剣士らしき男性の問いかけに、ハリガネとシアターは困惑した表情を浮かべてお互いの顔を見合わせていた。


「我々は今から孤島であるカラシ島へ向かうのだ。そこに魔王が潜んでいるという情報を手に入れたのでな~」。


(か、カラシ島...? あの幻の島の事か? でも、実在していない島のはずだけど...。あれか? コイツ等はトレジャーハンターみたいなもんか? そもそも魔王って...。何をファンタジーゲームみたいな事言ってんだこいつ?? )。


「どうだ? 僕達と一緒に魔王を倒して英雄にならないか? 」。


剣士らしき男性は続けてハリガネを勧誘した。


「はぁ...あっし達は遠慮するでゲス。取引先の関係とかあるでやんすからね~」。


「そうか、それは残念だな」。


「どうっすかね~。奥のパルメザンチーズ山脈にいる賊団やハンター達に声をかけてみるのはいかがでゲスか? 山脈の中に入ればその魔王に対抗できる逸材がたくさんいると思うザマスが」。


ハリガネがそう提案すると、剣士らしき男性はばつが悪い表情を浮かべた。


「冗談じゃないっ! あんな野蛮で下品な連中なんかと組めるかっ! 」。


「本当は山脈にいる魔獣や賊団が怖くて近寄りたくないだけでしょう~? 」。


槍使いらしき女性は悪戯っぽく笑いながらそう言い、嫌悪感を露わにしている剣士らしき男性の脇を小突いていた。


「うっ...!! うるさいぞっ!! 僕はただ、このチームの治安が乱れるのがいけないと思ってだな...」。


「あ~! はいはいっ! それより貴方達は山脈で魔獣狩りしているのよね~? 」。


槍使いらしき女性はムキになって反論する剣士らしき男性を軽く受け流し、ハリガネにそう問いかけた。


「へいっ! そうでやんすっ! 」。


「あ~、じゃあ山脈で“彼”に出会ったりとかしてないかしら~? 」。


「“彼”...と、おっしゃいますと? 」。


「ポンズ王国を追い出されたハリガネ=ポップっていう元王国兵士が、あの奥のパルメザンチーズ山脈に向かっていったと思うんだけど...」。


「...! 」。


槍使いらしき女性の言葉にハリガネは片眉を吊り上げて反応を示した。





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