覚悟の表れ
嫌いなタイプですかい?
そりゃあっ! あのクソ野郎みたいな奴ですよっ!
人の手柄を自分の手柄にしちまうクソ野郎でっせっ!?
えっ? 誰の事...?
へんっ! あのクソ野郎の名前なんて死んでも言いたかぁねぇですねっ!!
~ノンスタンスのメンバー、ロー~
「...」。
ハリガネの発言でテーブルを囲んでいた隊員達の間に重苦しい雰囲気が漂った。
「まぁ、その事に関しては昨日も聞いてはいたわけだが...。お前、本当に行く気なのか? 」。
「はい」。
ハリガネはそう問うゴリラ隊員に、神妙な表情ではっきりとそう答えた。
それに対し、ゴリラ隊員は両腕を組んで眉をひそめ、ハリガネに怪訝な表情を浮かべていた。
「しかし、昨日エミールが山脈からここまで下りてきたんだぞ? いくら何でも、そんな状況下で外に出るのは危険すぎないか? 俺達が監視モニターを設置しに外へ出た時は基地周辺だったから、十分に危険を回避できる状況であったが…。賊団がまだ周辺にいるかもしれん最中に、二人が基地から離れて偵察活動中にエミールの連中に遭遇でもしたら太刀打ちなんぞできるはずもないじゃないか。偵察は必要かもしれんが、よりによってこんな時に...」。
「こんな時だからこそ、周囲の状況を把握する必要があるんです。この間に話した事ですが自分に懸賞金が懸けられ、賊団に狙われているという不確定な情報も気になります。しかし、今は個人の問題ではなく、この部隊が山脈の賊団への対策をこれから練っていくためにも情報戦で先手を打たなければいけません。昨日、ローからの証言にもあった通り、エミールだけでなく山脈に拠点を置いている他の賊団も脅威的です。リスクは重々承知していますが昨晩改めて考えても、やはり常に賊団も含めて周辺の情報はアップグレードしておくべきです」。
「いや、しかし...」。
ハリガネの意見を聞いているゴリラ隊員は渋い表情を浮かべていた。
「それに、僕等が基地内で籠城している間にも、山脈の賊団がここの近くまで勢力を着実に広げていたとしたらそっちの方が危ないじゃないですか? 勢力を考えたら我々が拠点から移動しなければいけないと思うので、もし基地の居場所がバレて逃げ遅れたら終わりですよ? もしかしたら、昨日の出来事がきっかけでエミール以外の賊団も動き出しているかもしれないですし、そういった部分で常にアンテナ張っておかないと」。
「いや、でも...」。
「それに、ゴリラ隊員だって戦中期から敵地でずっと僕が偵察を務めてきたのは知ってるじゃないですか~。こうして、生き延びて今に至るわけなんですから、僕を信じてくださいよ~」。
「いや、もし隊長のお前に死なれたら...」。
「よしっ! 分かりましたっ! それじゃあっ! これでどうですっ!? 」。
ハリガネはゴリラ隊員との押し問答の末、自身の首につ掛けていた銀色で長円形のペンダントらしき物を外してテーブルの上に置いた。
「...む? ドッグタグだと? 」。
ゴリラ隊員は両腕を組んだままテーブル上に置かれたそのドッグタグを凝視した。
そのドッグタグにはハリガネの名前と王国内の住所が刻まれていた。
「今日、二人が戻ってこなかったら...そういう事だと思ってください」。
ハリガネは神妙な面持ちで、ゴリラ隊員を見つめながらそう告げた。
「...」。
両腕を組んでいるゴリラ隊員は険しい表情を浮かべたまま、その場では何も言わずにハリガネを見つめ返した。
(き、今日、二人が戻ってこなかったら...っっ!? そ、そんなぁ~!! 嫌だよぉ~!! 僕行きたくないよぉ~!! )。
隊員達の間にしばらく沈黙が流れている時、すっかり顔が真っ青になったシアターはハリガネの巻き添えを食らう形で窮地に立たされていた。




