隊長、仕掛ける
はぁ...。
嫌いなタイプ...。
う~ん、高圧的な人は苦手ですかね~。
やっぱり、大人しくて優しい人の方が、僕には合ってるのかもしれないですね...。
~ノンスタンスのメンバー、オシイチ~
エミールの主力メンバーであるウェーブの襲撃(ただの暴走? )により、基地周辺が荒らされてから一日が過ぎた。
その日の朝、ハリガネと隊員達は基地内で朝礼を行っている最中であった。
「え~、皆さん分かり切った事ではあると思いますが...。昨日、エミールの主力であるウェーブという魔法使いに基地前が滅茶苦茶にされてしまいました。ただ、基地の入口は岩が塞いであって気配も遮断しているので、エミール側には我々の正体はバレてはいないと思います。しかし、エミールのメンバーが何故この辺をさまよっていたのかは現時点では分かりません」。
ハリガネがノートを片手にそう話していると、ゴリラ隊員はフンッと鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべた。
「フンッ! 現時点では分からないだと...? 分かったようなもんだろう? あの遊び人がエミールのテリトリーに侵入した際に、そのウェーブとかいう女と何かあった事は確かだろうが。そもそも、あんなふざけた中年の遊び人に惚れるような要素が一体何処にあるのか知りたいがな」。
「まぁ、そうですけど...。あの人も昨日から何処かへ行ったまま戻ってきてませんし...。一応、本人から詳細を聞き出してみないと...」。
「フンッ! ウェーブとかいう女は私情が入っているみたいだが、他のメンバーに関しては取り逃がしたあの遊び人を探しに山脈から下りてきた可能性も無きにしも非ずなんじゃないか? 」。
「それも考えられますね...」。
ハリガネとゴリラ隊員が真剣な様子で、そうやり取りをしている時...。
「ふわぁ~あ! 」。
突如、パルスが大きな欠伸を漏らした。
「あ、すんません...」。
目をぱちくりさせるパルスは、皆にそう詫びながら自身の瞼を強く擦っていた。
「パルスさん、オーバーワークですよ。昨日はずっと夜遅くまで作業してたみたいじゃないですか。しっかり身体のケアはしておかないと、この先長いと思いますから後々になって響いてきますよ? 」。
ハリガネがそう注意を促すと、パルスは苦笑しながら後頭部を擦って申し訳なさそうな素振りを見せた。
「へへへ...。どうも、すいやせん...。つい、熱中してしまいまして...。」。
「まぁ、今日は作業せずに仮眠を取って休んでください。あとの事は我々がやりますので」。
ゴリラ隊員がそう言うと、パルスさんは申し訳なさそう再度頭を下げた。
「いやぁ~! 申し訳ないっ! しかし、ヤマナカさんは凄いですね~! あの洞穴で作業した後、エミールが倒していった魔獣達も運んで部位をバラしてたじゃないっすか~! 」。
「いや、コイツ自体が異常なだけです」。
ハリガネはパルスに対して素っ気なくそう答えた。
「いえいえっ! パルスさん達が調合された魔力薬や体力回復薬を飲んで、疲労も吹き飛んで気力ビンビンですよっ! 隊長っ! どうですかっ!? キレてますかっ!? 」。
ヤマナカはその場で防具を脱ぎ去って上半身裸になり、ダブルバイセップス・バックやモスト・マスキュラー等のポージングを皆に披露し始めた。
「あ~、ハイハイ。これで大陸間ボディビル選手権は優勝間違いなしだな」。
ハリガネは半ば投げやりにそう返し、エキサイトするヤマナカのアクティブを軽く流した。
「それで、隊長...。今日の日程は? 」。
「...」。
ゴリラ隊員は咳払いをしながらそう切り出すと、ハリガネは表情を強張らせて口を開いた。
「え~、パルスさんの午前中は仮眠と待機。ゴリラ隊員は入口立哨、ヤマナカは基地内監視...。それで、僕とシアターさんは...」。
ハリガネはそう言いかけて口をつぐむと、真剣な眼差しを送る隊員達を見回した。
「...」。
一旦、間を置いて険しい表情を浮かべているハリガネは、ゆっくりと口を開いて再び話を切り出した。
「...僕とシアターさんは、これからソイ=ソース国方面のカッテージチーズ高原へ偵察に向かいます」。
「...」。
その発言を聞いたゴリラ隊員は両腕を組んだまま、ゆっくりと両目を閉じてハリガネの真意を悟っていた。




