勇者、覚悟を決める
嫌いなタイプ...?
たくさんいるけど、偉ぶってる奴かな。
あと、偽善者。
幸せになって欲しいとか、貴方の事を想っているとか...。
そういう事を軽々しくほざいてる奴等ほど信用できないな...。
~ノンスタンスのメンバー、アゲハラ~
ハリガネとゴリラ隊員は魔法陣を通じて基地に戻ってきた。
二人が姿を現すと、入口の見張りをしていたシアターが歩み寄ってきた。
「戻りました、そっちの様子はどうですか? 」。
ハリガネはシアターに基地内の様子を確認した。
「はい、問題ありません」。
「了解です」。
「あの...パルス様はどんな感じでしたか? 」。
シアターはハリガネ達が通ってきた魔法陣に視線を移しながらそう問いかけた。
「パルスさんもヤマナカも、もうすっかり苗作りに熱中しちゃってます。今、オシイチの指導を受けながら作業してますよ」。
ハリガネがそう答えるとシアターは疲れた表情を浮かべ、大きな溜息をつきながらガックリとうなだれた。
「はぁ~、これはしばらく終わりそうもないな~。パルス様は凝り性だから自分の気が済むまで作業続けるだろうな~」。
「あれま」。
「う~ん、もうすぐ御夕食の準備をしなくちゃいけないな。それじゃあ、僕は調理場の方へ行きますね~」。
「あ、自分も手伝いますよ」。
「隊長、大丈夫ですよ~。今日はカレーなんで~」。
「え? カレー? ...あっ! そう言えばケチャップ軍からカレールー貰ったんだったな〜」。
「はい、あとは今日いただいたお野菜とアイスボックスに保存しているお肉がありますので、それをお鍋に入れてカレーを作ろうかなって~。お米もいただいたので、それもお鍋で炊けばカレーライスができますし」。
「あぁ~! 良いですね~! カレーも久しく食べてませんでしたからね~。いやぁ~! 戦地でのカレーは懐かしいですね~! 」。
ハリガネは笑みを浮かべてゴリラ隊員に話を振った。
「うむ、そうだな。前線部隊として敵国を侵攻していた最中、現地に構えていた基地で食うカレーは格別だったな。当時は誰か死んだらカレーが食える量が増えるから頼むぞ、なんて全然笑えないミリタリージョークを飛ばす兵士が必ず一人はいたよな。そのくらい、カレーは基地の中でも人気飯だったからな」。
ゴリラ隊員も微笑を浮かべながら天を仰ぎ、懐かしそうに当時の思い出を振り返っていた。
「それじゃあ、僕は御夕食の準備しますね~」。
シアターはハリガネ達にそう言い残し、キッチンの方へと足を運んでいった。
「あっ! 私達も手伝いますっ! 」。
シアターにそう声をかけたキュンや女性陣も、シアターの後を追うようにキッチンの奥へ消えていった。
「しかし、今日は大変な一日だったな。まさか、エミールのメンバーがここまで下ってくるとは...。だが、監視魔法陣も設置して基地から外の様子を監視する事ができるようになったから、食料問題が出ない限りはこれで外に出るリスクが大分減ったな。つまり、外での見張りも要らなくなったという事になる。まぁ、この入口付近の立哨に関しては捕虜の監視もあるから必要なんだがな。」。
ゴリラ隊員はそう言いながらスクリーンを眺めていた。
スクリーンには外周辺が暗くなっていく中でヤマナカとパルス、そしてオシイチがケチャップ軍から手に入れたバケツを用いて土を山盛りに掬い洞穴へ運んでいく姿が映し出されていた。
「...」。
ハリガネはその映像に目もくれず、神妙な表情を浮かべたまま地面を見下ろしていた。
「...ん? どうした? 何か気になる事でもあるのか? 」。
その様子を察したゴリラ隊員は考え込んでいるハリガネにそう問いかけた。
「いや...。どうしても、気になる事があって...」。
「何故、お前が賊団に狙われているのか...。そして、誰が何のためにお前を狙っているのか...」。
ゴリラ隊員が地面を見下ろし、独り言のようにそう呟いた。
「...」。
ハリガネは地面を見下ろしたまま、口を真一文字に結んで黙っていた。
「...」。
しばらく、お互い沈黙したまま重苦しい雰囲気が漂っていた。
「...気持ちは分かるが、時と状況を考えろ。深入りは禁物だ。それはお前も分かっているはずだ」。
「...」。
厳かな表情でそう念を押すゴリラ隊員に対し、ハリガネは顔を上げて一言も発しないまま見つめ返した。
その時、ハリガネの澄んだ栗色の瞳の奥には、眩しい光が宿っているようにゴリラ隊員は思えた。




