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破離刃離☆勇者ハリガネⅢ~俺達は“炎の守護神”と恐れられている魔獣を討伐しないと王国へ帰れま1000!! ~  作者: 田宮 謙二


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山脈賊団のルール


嫌いなタイプ~?


噓つく人や犯罪者かな~?


え? 当たり前??




~ノンスタンスのメンバー、マーシュ~



「...」。


変わらず沈んだ表情のままうつむいているローと、自身の脳内で考えを巡らせて黙り込んでいるハリガネ。


テーブル席に腰かけている二人の間にしばらく沈黙が続いていた。


そんな重苦しい雰囲気のテーブル席に、パルスとシアターが木製のお盆に金属のグラスと皿に載せたクッキーを持ってきた。


「隊長さんもローさんも、ここでティータイムにしませんか? ずっと行き詰まってると、良いアイデアもなかなか出てこないものですよ~」。


パルスはそう言いながらシアターと共に、グラスとクッキーをテーブル上に置いた。


金属のグラスに入った綺麗で透明感のある緑色の液体からは湯気が立ち上っており、その湯気からは香草の良い香りが漂っていた。


「これは、紅茶ですか? 」。


ハリガネは差し出されたグラスをまじまじと見つめながらそう問いかけた。


「まぁ、そんな感じっす! 魔力のある薬草を乾燥してブレンドした紅茶風の魔力薬です。本当はティーセットとか用具とかがあれば楽なんですけどね~。さすがに戦場にティーセットを持っていくのは違うと思いましてね~。僕は戦争の最中でも呑気にパーティー開いてドンチャン騒ぎをしたり、平然と国税を懐に入れるような国会議員や貴族みたいな上流階級の()()()()とは違いますからね~」。


(クソやゴミって...。アンタ、貴族出身の高官軍人じゃねぇか...)。


ハリガネはそんなパルスに苦笑いを浮かべながら心の中でそう思っていた。


「しかし、さすがは我等が部隊の隊長っ! お菓子とも縁が無いであろうこんな境遇で、ケチャップ軍との取引であんなに大量の物質を調達してくるとはっ! やはり、戦中期を戦場で争ってきた戦友同士で通じるものがあったんすねぇ~! いやぁ~! オイラは敬服致しやした~! 」。


パルスは感心した様子で腕を組みながら何度か頷いた。


「食べ物の他にも歯磨き粉や歯ブラシ、プラスチックのバケツとか鍋や食器とかの日用品もいただいちゃいましたからね~! 塩や砂糖とか調味料の量も豊富になって、しばらくは食事の方も大丈夫そうですね~! 」。


シアターも満足そうに微笑みながらパルスにそう相槌を打った。


「普段からあまり甘い物とかは好んで食べない方ですが、久々に食すのも良いものですね~。う~ん、清涼感のある良い香りだ~」。


ハリガネは表情を綻ばせながら魔力薬を口に含んだ。


「...」。


ローは変わらず強張った表情のまま、目の前に差し出されたグラスをじっと見つめていた。


「...まぁ、エミールの話は一旦置いておいて、話題を少し変えるか。お茶でも飲んで少しリラックスしてくれ」。


ハリガネはローにそう言ってクッキーが載せられた皿を目の前に差し出した。


「いただきます...」。


ローは小さく頷いてグラスを手に取った。


「そのエミールが拠点にしているパルメザンチーズ山脈の事なんだけど、この前にも話を聞いたんだけどさ~。ソイ=ソース国方面にはゴクアクボンドで、ケチャップ国方面はヒラメキーナっていう賊団があるんだっけ? この二つとエミールを合わせた三つの賊団が、パルメザンチーズ山脈に構えている主要な賊団って事で間違ってない? 」。


ハリガネがそう問うとローは小さく頷いた。


「はい、他にもこの三つの賊団のテリトリー外に小規模の賊団が山脈に存在しているのですが、そういう賊団は規模の大きいその三つの組織のいずれかと同盟を結んで成り立ってるって感じですね」。


「成り立っている...? 」。


ハリガネは眉をひそめてローにそう聞き返した。


「はい、他の賊団は小規模なのでその三つの賊団とでは勢力的に太刀打ちはできません。そこで、山脈あるいはその周辺付近に拠点を置くためには、その三つの内一つの賊団から“御墨付き”を貰う必要があるのです。御墨付きを貰った賊団はその賊団系列として活動が可能になります」。


「勢力を拡大したい反社会的集団が好んで使う手法だな。それで、その御墨付きを貰った賊団は何のメリットがあるの? 」。


「御墨付きを貰った事で小規模賊団は主要賊団との同盟関係を築き、その主要賊団の系列賊団となります。そうなると、他の賊団とトラブルがあった際にケツ持ちになってくれて問題解決に協力してくれたり、ケースによっては団員の派遣や物資の調達をしてくれる場合もあります。そして、主要賊団が大型魔獣の討伐や山脈へ乗り込んできたノンスタンスのように集団が強襲してきたという事態が起きた時に、系列賊団も参戦して撃退に協力しなくてはいけないという決まりがありますね。まぁ、簡単に言えば主要賊団が山脈に留まる事を許可するけど、系列賊団はちゃんとこっちに協力してねって事です。それに、ゴクアクボンドとヒラメキーナでまた同盟の内容が異なると思うんで一概にそうであるとは言い切れません」。


「なるほどね...その系列賊団っていうのは主要賊団の掛け持ちとかできるの? 二つ以上の主要賊団と同盟結んじゃったとか...」。


「それはできません。掛け持ちは主要賊団同士の決め事において禁止されています」。


「主要賊団同士の決め事...? 主要賊団同士は敵対関係じゃないのか? 」。


「その通りです。少なくとも、自分がエミールに加入して以降は三つの賊団の間で度々抗争が起こっていたと記憶しています。しかし、山脈の範囲内で“アルマンダイト”を含めた凶暴な大型魔獣の数が増加したのが影響し、魔獣に襲われるリスクも高くなり主要賊団の団員数も一時期は著しく減少しました。そして、団員数の減少は賊団の勢力低下に直結します。そこで、賊団存続に危惧の念を抱いた当時の主要賊団のボス達は話し合いの場を設けました」。


「...」。


ハリガネは一言も発さずに神妙な表情を浮かべ、ローの証言に耳を傾けながらノートにペンを走らせていた。


「救世主様と同じく“アルマンダイト”討伐は山脈にいる賊団も目標にしている事です。ですが、“アルマンダイト”単体相手に賊団が総力を挙げてもなかなか狩れないというのが現実です。もともとお互い敵対関係だったわけなんですが、山脈に拠点を構え同じ目的を持った賊団同士です。勢力が低下していた賊団の現状を打開するためには、敵対関係にある山脈の賊団同士との協力が必須であると考えていました。その点で賊団同士の思惑が一致し、話し合いの場で山脈内における規則を定めました」。


「規則...条約みたいなものか」。


「はい、だいたいそんな感じです。それで、その話し合いで決められた重要な事項としては主要賊団のテリトリー領域を定め、他の賊団がその領域において無断で行動する事は許されない。主要賊団の内部事情に介入しない。主要賊団同士で問題が起きた場合、その都度主要賊団のトップと当事者で話し合いの場を設けて解決に努める。それらの規則を定めたその話し合い場が設けられたのが去年の事だったんです」。


「ふ~ん、去年か...。随分と最近の話なんだな。それじゃあ、その主要賊団同士の抗争はその話し合い以降無くなったわけだ」。


「はい、そうです」。


「なるほどね...。それで、その主要賊団について聞きたいんだけど、ソイ=ソース国近くに拠点をおいたゴクアクボンドっていうのはどんな賊団なんだ? 」。


「はい...。え...と」。


ハリガネの問いかけにローは両目を固く閉じ、その事に関して思い出すよう努めていた。


しばらくして、頭の中で整理がついたのか小さく頷きつつ、ゆっくり両目を開いて話を切り出した。


「ゴクアクボンドは山脈内で活動している賊団の中でも最古参の賊団です。そして、“アルマンダイト”と長きにわたって戦いを繰り広げている好戦的な賊団です。血の気の荒い団員を束ねている賊団ですが凶暴な魔獣や他の賊団と長年争いを続けたせいで団員の減少が著しく、勢力の低下が目立っています」。


(...って事は、外で遭遇したあの変なオッサンもゴクアクボンドにスカウトされた魔法使いなのかな...? )。


ハリガネはそう脳裏に考えを巡らせながらローの証言を記録していた。


「ゴクアクボンドもなかなか有力な賊団のようだな...。次に、ケチャップ国近くに拠点を置くヒラメキーナについて教えてくれ」。


「はい、ヒラメキーナはゴクアクボンドやエミールより後に参入してきた賊団です。傭兵出身の団員が多いので、諸国の軍関係者と友好関係を築いているのが特徴的な賊団です。ヒラメキーナが拠点に置いている地域には希少な鉱物資源が存在しており、その潤沢な資源を元手に諸国から優秀な人材を補強して領域を拡大していきました。どちらかと言うと少数精鋭派の賊団という印象が強いです」。


ローの話は終わるとハリガネは顔をしかめてノートとペンをテーブルの上に置き、唸り声を上げながら両腕を組んだ。


「う~ん、エミールだけじゃなくてゴクアクボンドとヒラメキーナも厄介だな~。」。


「あの...」。


ローは真剣な眼差しでハリガネを再び見つめた。


「ん...? 」。


「無礼を承知で申し上げますが...。正直、この部隊の勢力で主要賊団を相手に戦う事は自殺行為に等しいと思います。特にエミールはSランクの他にも有能な魔法使いや魔術師が存在します。個々のポテンシャルは勿論の事、総力でも圧倒的に不利だと思います」。


ローが言葉を慎重に選びながらゆっくりとそう言うと、ハリガネも神妙な面持ちで小さく頷いて応えた。


「そうだな...。もちろん、部隊が戦力的に賊団より劣っている事は俺も分かってる。それに、俺達は今の段階で山脈の賊団と揉めるつもりはないんだ。俺達の目標はあくまでも“アルマンダイト”の討伐だ。山脈の賊団と下手に接触して面倒な事は起こしたくない。まだまだ辛抱が必要...だな」。


ハリガネは両腕を組んだままそう言うと、証言を記録したノートをしばらく見つめていた。




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