魔法は便利
む...? 苦手なタイプ...?
ざっくり言えば弱い奴だッ!
臆病者とか卑怯者とかなッ!
だが、そんな奴等よりも生理的に受け付けない奴がいるッ!
それは賊団やテロリスト集団だッ!!
自分の私利私欲や悪を正当化のためにテロ攻撃をするあの連中は生理的に受け付けんッ!!
む...。
苦手なタイプというよりは、嫌いな人間を言ったような感じになってしまったな。
~討伐部隊“勇者”ゴリラ隊員~
「敵襲ッッッ!!! 敵襲ッッッ!!! 」。
基地に戻ったゴリラ隊員は通ってきた魔法陣にライフルの銃口を向けながらそう叫んだ。
「隊員各自は基地内への侵入を警戒ッッ!! 」。
ハリガネは隊員達にそう指示しながら防具を装備し直し、急いでゴリラ隊員の下へ駆け寄った。
「外の状況を教えてくださいッッ!! 」。
ハリガネもライフルの銃口を魔法陣に向けながらゴリラ隊員にそう問いかけた。
「基地周辺に若い女一人を発見ッッ!! 女の身なりは黒い帽子に黒いローブッッ!! 現在、女は振り回している杖で魔法を乱発して周囲の木や地面を破壊し続けているッッ!! あと、理由は分からないが号泣しているッッ!! 」。
「...一人ですか? 」。
ハリガネは怪訝な表情を浮かべてゴリラ隊員に視線を向けた。
「そうだッッ!! だが油断するなッッ!! 賊人だとしたら近くに仲間達がいるかもしれんッッ!! それに、その女が放つ魔法の破壊力を見たところかなり手練れの魔法使いだと推測するッッ!! 」。
「外を確認させてくださいッッ!! 」。
「身体は出すなッッ!! 顔だけ出せッッ!! 」。
「了解ッッ!! 」。
ハリガネはゆっくりと自身の顔を魔法陣に近づけた。
ドガァドガァアアン...ッッ!!
ヒュゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウ...ッッ!!
ドォォォォオオオオオオオオオガァァァァアアアアアアアアアン...ッッ!!
ドォオオオオゴォォォオオオオオオオオン...ッッ!!
ヒュゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウ...ッッ!!
バガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアン...ッッ!!
基地の外に広がる光景は戦場と化した荒地であった。
(うわ...駄目だ。爆音と砂埃で全然状況が分かんねー)。
ハリガネが首を引っ込めてゴリラ隊員に視線を送った。
「どうだ? 戦場が懐かしくなっただろ? 」。
ゴリラ隊員は微笑を浮かべてハリガネにそう言った。
「...国家戦争ですか? あれは」。
ハリガネは魔法陣を一瞥しながらゴリラ隊員にそう返した。
「確認したんだろ? 俺がいた時はその場に一人の女しかいなかった」。
「いや、砂埃が舞ってて周りが全然見えなかったですよ」。
「とにかくッッ!! 今は侵入者を基地に入れないよう、早くこの魔法陣を消して通路を塞ぐんだッッ!! 」。
「そうっすねッッ!! パルスさんッッ!! この魔法陣を消してくださいッッ!! 」。
「ん~、戦場かぁ~。ちょっと気になるな~」。
ハリガネに呼ばれたパルスは、興味津々な様子で魔法陣を眺めていた。
「隊長~、僕もちょっと外見てきていいっすか~? 」。
「いや、パルスさん...。敵が辺りを攻撃してるから危ないんで...」。
「ねっ? チョットだけ! ほんのチョットだけ! 」。
「いや、そういうわけには...」。
「ねっ? ねっ? 」。
困惑するハリガネとパルスがそんなやり取りをしている時、チャールズとフユカワがハリガネ達の下へやって来た。
「隊長さん! もしよかったら、僕等が魔法を使って上空から周囲の状況を確認しましょうか? 」。
チャールズがそう言うと、隣にいたフユカワが掌から青白く光る正方形のブロックを召喚した。
そのブロックは自転しながらフユカワの掌の上に浮遊している。
「この光るブロックを使うの? 」。
ハリガネは浮遊するブロックをまじまじと眺めた。
「これは飛行型監視魔法でしてね~。これを使いながら撮影する事もできるんです。フユカワ! 魔力の気配を“サイレンス”で消しておいてくれ! 」。
「へいっ! 」。
フユカワがチャールズにそう返事すると、掌の上で回っているブロックは突如姿をくらました。
「あとは、魔法陣でスクリーンを出して映像が見えるようにして...と」。
チャールズは魔法陣を手早く描き、基地の真ん中に青白く光る特大なスクリーンを召喚した。
「あ、ホントだ。俺達が映ってる」。
ハリガネは肉眼で見えなくなったブロックが浮いているであろうフユカワの掌とスクリーンを交互に見た。
ノンスタンスのメンバー達も興味深しげな様子でスクリーンの近くまで寄ってきた。
「まずは、ブロックを外に出してっと...」。
フユカワは見えなくなったブロックを魔法陣通じて外へ放り投げた。
「あ、パルスさん。もう魔法陣消してもいいですよ~」。
「ほ~い」。
フユカワの言葉を聞いたパルスは人差し指から青白い光を放つ魔力を放出し、魔法陣の上にバツ印を描いた。
すると、光り輝いていた魔法陣は消えてなくなった。
「さて、僕等もスクリーンを見てみましょうか」。
フユカワはそう言うと、ハリガネ達をチャールズのいるスクリーンの方へ誘導した。
「あとは僕が両手でブロックを操縦しながら撮影を続けます」。
フユカワはハリガネ達にそう説明し、スクリーンを見ながら自身の両手を動かしつつ外に飛んでいるブロックの操作を始めた。
「ほう~、魔法でそんな事もできるのか~」。
ゴリラ隊員は感心した様子で両腕を組み、スクリーンを眺めていた。
「へぇ~! こんな便利な魔法があるんだ~! 偵察とかに便利そうだな~! 」。
パルスもそう言いながら興味深しげにスクリーンを見つめていた。
「はいっ! 撮影に必要な魔法は魔術学校で学んだんですけど...。いかんせん放出する魔力の量が少なくて、ブロックをあんまり遠くまで操作する事はできないんですよね~」。
「あ、じゃあ魔力がある程度放出できれば操作範囲も広くなるって事ですか? 」。
「まぁ、そうなりますね~」。
「へへへ~! 今度教えてくださいよ~! 」。
「お任せくださいっ! 」。
(魔法や魔法陣が使える人間は魔法のシェアリングもできるのか~。なんか羨ましいな~)。
ハリガネはパルスとフユカワのやり取りを聞きながらスクリーンを見つめていた時、スクリーンの正面に座っているアネックスがハリガネに手を振っていた。
「隊長さ~ん! こっちの方が近いから見やすいよぉ~! 」。
「いや、いいよ。スクリーンが大きいからあまり変わらな...」。
「遠慮しなくていいからさぁ~! 一緒に見よっ? ねっ? 」。
アネックスは立ち上がり、ハリガネの腕を取ってスクリーンの近くまで誘った。
「ねっ? こっちの方が見やすいでしょ? 」。
「いや、俺の腕...お前の胸で挟まってんだけど」。
「そんなの気にしないのぉ~! ほらっ! 座って! 座って! 」。
「いや、座らされてる俺の上に...何でお前が座ってんだ? 」。
地面にあぐらをかいたハリガネの上で、アネックスが座り抱っこをしているような姿勢になっていた。
周りから見ると、時と場を全く考えていないバカップルにしか見えない。
「ずっと座ってたらお尻が痛くなるんだも~ん! だから隊長さ~ん! クッションになってね~! 」。
「ふざけんな! 早く退け! 」。
ハリガネがアネックスを強引に引き剝がそうとすると...。
「やだ~! 一緒に見よ~よ~! 」。
アネックスは自身の両腕と両足を、ハリガネの身体に巻き付けて頑なに拒み続けた。
「ゴリラ隊員っ!! ヤマナカっ!! コイツ剥がすの手伝ってっ!! 」。
困り果てたハリガネは後方にいるゴリラ隊員とヤマナカに助けを求めた。
「う~む、しかし派手な魔法攻撃を連発しているな~。スクリーン越しからとはいえ、爆発音が凄まじいな...。もしかして、女の仲間が合流してきたのか? 」。
「まだ、砂埃が舞っててよく見ないですねっ! 」。
(...あれ? 無視? 誰も助けてくれないの? 何で?? )。
アネックスに苦闘しているハリガネを余所に、ゴリラ隊員とヤマナカは険しい表情でスクリーンを見つめていた。




