結局バレた
嫌いな人間か~。
まぁ、“奴”だろうな。
どのくらい嫌いかだって?
人が嫌悪の最高値に達したら殺意になるってのはあるかもしれないけど...。
俺の場合は生理的に受け付けない程嫌いだからね。
まぁ、自分の手を汚したくないから、あっちから襲ってこない限りは殺しはしないだろう。
簡単に言えば、記憶から抹消したいくらい。
存在を無かった事にしたいくらい、そして存在自体を受け付けたくない。
そのくらいの度合いだって事。
~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~
途中、一人の男と出くわしたもののケチャップ軍との取引も無事に終わり、ハリガネとシアターは基地に戻るべく荷車を動かしていた。
「あの人、一体何者だったんでしょうね~。一人でそのままパルメザンチーズ山脈の方面へ行っちゃいましたけど...。しかも、耳栓をしたまま」。
後方から荷車を押しているシアターは、先頭で牽引しているハリガネにそう話しかけた。
「う~ん、一人でも大丈夫である自信があるのかどうかは分かりませんが...。とりあえず、思考がぶっ飛んだ人間である事は間違いないでしょうな~。酒でも飲んでたのかな~? でも、アルコールの匂いなんかしなかったんだよな~」。
「また会おうって言ってましたけど...。一体、どういう意味なんでしょうかね~? 」。
シアターにそう問われたハリガネは小首を傾げた。
「さぁ~? ただの妄言なんじゃないっすかね? まぁ、強いのかどうかは分かんないっすけど、ヤバイ人間だという事はよく分かりました」。
ハリガネがシアターにそう答えていた時、岩に塞がれた基地が二人の視界に入ってきた。
「よぉ、お疲れ」。
茂みの中から周囲を見張っていたゴリラ隊員が姿を現した。
「お疲れ様です。隊長ハリガネと隊員シアター、只今戻りました」。
ハリガネはゴリラ隊員に敬礼しながらそう答えた。
「ふむ...取引は無事に済んだようだな」。
ゴリラ隊員は敬礼を返しながら、ハリガネ達が運んできた荷車に積んである物資を見つめた。
「隊長からは米や果物、他にも大量の日用品を頂きました」。
ハリガネの報告を受けると、ゴリラ隊員は小さく頷いて応えた。
「そうか、隊長達にはよろしくとちゃんと伝えといたか? 」。
「はい、伝えました。あと、もし僕等が死んで“アルマンダイト”の討伐が失敗に終わったら、逆恨みとしてゴリラ隊員のカミさんを寝取ってやるから覚悟しておけと言ってました」。
ハリガネがそう伝えると、ゴリラ隊員は口元に笑みを浮かべた。
「フッ...自分の愛妻に愛想を尽かされそうな身分のくせして、よくそんな呑気な事が言えるもんだ。あんなギャンブル狂なんぞ誰もついていかねぇよ。まったく、大したもんだぜ...」。
「まぁ、そこが隊長の魅力の一つなんですがね」。
ハリガネもケチャップ軍から手に入れた物資を眺めながら隊長にそう言葉を返した。
「まぁな...とりあえず俺はまだ見張ってるから、先に基地に戻ってくれ」。
「了解...ん? 」。
その時、ハリガネの鼻はある匂いある匂いを感じ取った。
「どうした? 」。
「...」。
ハリガネは片眉を吊り上げてゴリラ隊員の顔を覗き込んだ。
「な、何だッ!? その顔はッ!! 」。
ハリガネの何かを疑っている様な表情に、ゴリラ隊員は思わずたじろいだ。
「ゴリラ隊員...。ま~さかとは思いますけど...。この辺見張ってる時に煙草なんか吸ってるわけないっすよね~?? 」。
「ば、馬鹿者ッッ!! そんなわけがなかろうがッッ!! 」。
全力でそう否定するゴリラ隊員に対し、ハリガネは疑いの目を向けたまま話を続けた。
「そうっすよね~。この辺にも賊団や魔獣が潜んでるかもしれないのに、そんな環境下で狼煙を上げる馬鹿なんていないですよね~。兵士として失格である事は当たり前として、こんな危険地帯で喫煙するなんてどうぞ殺してくださいって言ってるようなもんですもんね~。有り得ないっすよね~。山脈にいる賊団に白旗振ってる様なもんですもんね~」。
「あ、当たり前だッッ!! そんな事は考えられんッッ!! 」。
そう張り上げた声とは裏腹に、ゴリラ隊員の両目は泳いでいた。
「じゃあ、煙草は要らないっすよね? 」。
「え?? 」。
ゴリラ隊員が間の抜けた声を発すと、ハリガネは険しい表情を浮かべて両腕を組んだ。
「だって、そうじゃないですか~。煙草はもともと嗜好品。今キープしている煙草は軍からの支給品でしょうけど、討伐では役に立たないでしょう? 吸う場所だって今となっては無いんだし」。
「ま、まぁ...それはそうだが...」。
「だったら、自分が喫煙する以外の事に活用すべきです。残りの煙草も僕が管理しますから」。
「いや、でも...」。
「何か問題でも? 」。
「...いや、その通りだな」。
ハリガネから白い目で見られているゴリラ隊員の心が遂に折れた。
「よしっ! シアターさんっ! 基地へ戻りましょうかっ! 」。
「あ、はいっ! 」。
ハリガネとシアターは見張り番のゴリラ隊員を残し、再び荷車を動かして基地の方へと向かっていった。
「...」。
そして、一人取り残されたゴリラ隊員は虚無感に苛まれていた。




