狂っているメンタル
この世界にはパンや米はもちろん、パスタやうどんもあるぞ。
ついでにラーメンもあるぞ。
~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~
チェダーチーズ山付近に存在する山道。
その山道の脇に、茶色い魔獣の毛皮コートを羽織った二人の男が岩に腰かけていた。
(気配は感じないが...もしかしたらエミールの団員が魔法で気配を消して潜んでるかもしれないな。ただ、攻撃や何かしらアクションかけられた時、魔法の効力が一瞬切れて気配が感じ取れるからそのタイミングは逃さないようにしないとな...。何はともあれケチャップ軍の隊長との取引が終わったら、さっさと基地へ戻るとするか...)。
昨日、ケチャップ共和国軍の部隊と出会ったその場所で、ハリガネはその隊長と物々取引をするため落ち合う事になっていた。
「うぅ~! やっぱり怖いよぉ~! 」。
以前と同様ハリガネに同行しているシアターは、身体を震わせながら挙動不審気味に辺りを見回していた。
「シアターさん、大丈夫ですって~。今日はケチャップ軍との取引済ませたらさっさと戻る予定ですから~。どうせ、この場所は人があまり通らないでしょうし。今度は別の場所でやりましょ~」。
「えええええええええええええ...っっ!? い、嫌ですよぉ~!! エミールとか他の賊団に囲まれたらどうするんですかぁ~!? 」。
「その時は、その時で~す! 」。
「そ、そんなぁ~! 」。
「あ、来た」。
ハリガネとシアターがそんなやり取りをしていると、ケチャップ国軍の部隊がハリガネ達の方へ近づいてくる。
「お~う!! “恐戦士”のせがれ~!! 約束通り持ってきてやったぞ~い! 」。
ケチャップ共和国軍隊長が手を振りながらハリガネ達の下へ歩み寄ってきた。
「どもども~! 御足労いただきまして~! 」。
ハリガネは自身が牽いてきた荷車の中から、魔獣の毛皮を何枚か取り出した。
「この間言ってた“タンザナイト”の毛皮と“アンデシン”の牙で~す! それと、小型馬族の“フォスフォシデライト”の角と毛皮に、小型獅子族の“ヘミモルファイト”の牙と毛皮に鬣で~す! 」。
「おおっ...!? こんなにたくさん狩れたのかっ!? 」。
ケチャップ共和国軍隊長は目を輝かせて差し出された魔獣の部位をまじまじと見つめていた。
「はっはっは~! このくらいは朝飯前っすよぉ~! 」。
「しかし、こんな綺麗に捌けるもんなんだな~! 大したもんだな~! 」。
「臭みも全くしないぞ」。
「うん、ちゃんと丁寧にバラしてあるじゃないか~」。
「さすがポンズ王国前線部隊の兵士だな~。随分と手慣れたもんだな~」。
他の隊員達も興味津々な様子で魔物の毛皮等を眺めていた。
「バラした後は一応加工処理しといたんで、そのまま店に出せますよ~! 」。
「おおっ!! 本当かぁっ!! そいつはありがたいっ!! ...おっと!! 俺達も持ってきたぞいっ!! おいっ!! お前等っ!! 」。
「うぃ~す!! 」。
ケチャップ共和国軍隊長が声をかけると、隊員達は背負っていたリュックから物資を取り出した。
「うわぁ~!! 米とパン、それに調味料や油もこんなに沢山っ!! 」。
「ハッハッハ~!! 上等な毛皮が手に入るのを考えれば、こんなのお安い御用じゃわ~い!! 軍の支給品はやはり渡せんが、日用品くらいなら軍の目を盗んで交換できるからな~! リュックに入れておけば怪しまれる事もないからのう~!! 本当はお前達みたいに荷車で運びたいんじゃが、そういう行動をすると本部から怪しまれるからな~!!ハッハッハ~!! 」。
「って事は、実弾や魔獣用のトラップとかも駄目っすか...」。
ハリガネは少し残念そうにそう言いながら肩を落とした。
「ハッハッハ~!! まぁ、自分達で何とかせ~い!! ハッハッハ~!! 」。
ケチャップ共和国軍隊長はハリガネが持ってきた魔獣の毛皮を自身のリュックに納めながら高笑いをした。
「まぁ、でもこんなに日用品があれば十分だな~! ありがとうございま~す! う~ん! 久々に嗅ぐなぁ~! パンの良い香り~! 」。
ハリガネはそう言いながら隊員から受け取ったパンを自身の鼻に近づけた。
「ハッハッハ~!! 香りを嗅いでいるふりして毒が入っているか確かめているとは抜かりないのう~!! 安心せ~い!! 俺達の国の領土に侵入してこない限りは殺しはせんわ~い!! ハッハッハ~!! 」。
「ははっ! バレてましたか~! 」。
ハリガネは苦笑しながらシアターと共に物資を荷車に積み込んでいた。
「まぁ、山脈の魔獣に釣られたところもあったが、俺はお前等が“アルマンダイト”を討伐する方に賭けてるからな~!! そういう私情もあるから協力したという事を忘れてくれるなよ~? 善意だっ!! 善意っ!! 今度のギャンブルで、もしお前等が死んだら俺はカミさんと別れなきゃならんからな~!! 今回ばかりは絶対に負けちゃならんのだっ!! 頼んだぞっ!? 」。
ケチャップ共和国軍隊長はそう言うと、ハリガネに悪戯っぽく笑った。
「俺達が死んだら負け確なんすか...。てか、そっちは命があるだけマシじゃないっすか~。こっちは金じゃなくて、命をオールインしてる状態なんっすよ~? もぉ~! 」。
「ガハッハッハ~!! まぁ、そう言うな~!! 生きて帰って来れたらお前にも少し分けてやるからな~!! ハッハッハ~!! 」。
再び高笑いをするケチャップ共和国軍隊長に対し、ハリガネは呆れた表情を浮かべて溜息をついた。
「全く...あ、そうだ! ちょっと隊長に聞きたい事があるんですけど~! 」。
「聞きたい事? ...なんじゃい? 」。
ケチャップ共和国軍隊長はハリガネにそう聞き返した。
「ちょっと気になってたんですけど~、ノンスタンスのデイの首って金が懸かってるじゃないですか~? 」。
「おう!! まぁ、国際指名手配犯だからな~!! 」。
「そのデイの懸賞金って上がってます? 」。
「いや...? 変わっとらんよ? お前の国と同じ五億ゴールドのはずだが...? 」。
ケチャップ共和国軍隊長は神妙な表情を浮かべ、自身の髭をいじりながらハリガネにそう答えた。
「...そうですか。ちなみに、ケチャップ国は追放された僕とかに懸賞金懸けてたりとかしてます? 」。
ハリガネは続けてそう問いかけると、ケチャップ共和国軍隊長は眉をひそめて考える素振りを見せた。
「いや...俺達の国では無いな...。てか、ケチャップ国だけじゃなくて友好条約を締結している諸国の軍は、反逆者指定されているお前等に領域を侵されない限り介入してはいけないというポンズ王国からの“願い出”が届いてるからな~。だから、諸国でもお前等の首に懸賞金が懸けられているという事は無いんじゃないか~? それに、国家がお前等の首に懸賞金を懸けている事が諸国で公になれば、それはポンズ王国への宣戦布告と捉えられてしまうからな~。そうなったら、国際問題になる事は当たり前だし、最悪王国との戦争時代に再突入するという地獄をまた経験する羽目になっちまう。...それだけは避けたいっ!! 」。
「そうなったら、隊長達も軍から除隊して一緒に山脈で暮らしましょうよ~! 隊長達がいれば山脈にいる賊団なんて目じゃないっすよ~! 今度は兵士から山賊としてセカンドライフを“アルマンダイト”がいる山脈で満喫しましょうよ~! 」。
「...」。
ヘラヘラとして緊張感の欠片も見せないハリガネの呑気な言葉に、ケチャップ共和国軍隊長と隊員達は顔を引きつらせながら半ば呆れた様子を見せていた。
「ねっ? 」。
「お、おう...。まぁ...。考えとくわ...(何が『ねっ? 』...だっ!! まぁ、何というか...。頼もしいと思うべきか...。呆れたと思うべきか...。コイツの親父も大概だが、息子のコイツもコイツでなかなかだな...)」。
嬉々として荷車に物資を積み込んでいるハリガネの様子を、ケチャップ共和国軍隊長と隊員達はドン引きしながらしばらく見つめていた。




