パルメザンチーズ山脈に忍び寄る集団
我々は普段、お笑いを含めたお色気バラエティー番組を制作していたんですよね~。
どんな番組なのかって?
芸人さん達とグラビアアイドルとかが肉弾戦で体当たりな企画とかをやっていくっていう番組を作ってたんですよね~。
でも、最近はコンプライアンスとかが厳しくてあんまり過激な番組が作れないんですよね~。
そんな中、“アルマンダイト”の討伐を聞きましてね~。
なんか、某番組でヒッチハイクをする企画な感じの新鮮さを感じましてね~。
これは同行せにゃいかんって思ったわけですよ~。
~番組制作プロデューサー、チャールズ=マッコイ~
ゴーダチーズ丘で一夜を過ごした討伐部隊“勇者”。
隊長ハリガネが率いる“勇者”はゴーダチーズ丘を後にし、チェダーチーズ山へ向かうべく荷車を動かしていた。
「ヤマナカ、お前大丈夫なのかよ? 二時間しか寝てないだろ? 」。
ハリガネは荷車を牽くヤマナカに歩み寄って問いかけた。
「問題ありませんっ! 二時間仮眠を取れば私は十分でありますっ! 」。
「えぇ~?? 」。
そう答えて清々しい表情を浮かべるヤマナカに対して、ハリガネは怪訝な面持ちで目を細めた。
「それに、パルスさんの料理ですっかり元気になりましたっ! とっても美味しかったですっ! ありがとうございましたっ! 」。
ヤマナカに礼を言われたパルスは、天に向かって高笑いをし始めた。
「ハッハッハッハッハ~! いいって事よぉ~! 料理の事は、この料理人パルスに御任せあれ~! ハッハッハッハッハ~! 」。
(う~ん、やっぱりあの人パルス長官だよな~? でも、軍の高官が現場に参加するわけないよな~? 本当に同姓同名のそっくりさんなのかな~? まぁ、本人だとしたらおいしい情報なんだけど、どうせ王国に戻ってその情報を王国に売ろうとしたころで自分達が捕まることは容易に想像できるしな~。引き返している途中で魔獣に出くわしても、俺達は戦えないし...。大人しく取材を続けていくか...)。
部隊の後方からフユカワと共に飛行絨毯でついていくチャールズは、納得のいかない様子で自身の顎を撫でながらパルスの後ろ姿を見ていた。
「さて、チェダーチーズ山の姿が見えてきたな~」。
ゴリラ隊員がそう言って指を差す目の前には、緑の植物に覆われたチェダーチーズ山がそびえ立っていた。
「ええ、丘を越えたら荒野の時と打って変わって緑も結構多くなってきましたね~。勾配もきつくなってきたし、いよいよパルメザンチーズ山脈へやってきたっていう実感が湧いてきますね~」。
ハリガネは辺りを見回しながらそう答えた。
「おい、油断するな。これから木々もあって、死角の多い場所へ足を踏み入れる事になるんだから警戒は怠るな。その死角から狙撃されるかもしれんぞ? 」。
「そうですね~。魔獣の鳴き声も微かに聞こえてきますし...ッッ!! 」。
ハリガネとヤマナカ、ゴリラ隊員は気配を感じ取って背中にかけていたライフルを構えた。
「...? 隊長ぉ~、どうしたんすか? 」。
「シッッ...!! 」。
ハリガネはパルス達に静粛を促しながら耳を澄ました。
「多数の気配を感じます...。友好国の軍隊でしょうか? 」。
ハリガネは声を押し殺しながらゴリラ隊員に耳打ちしてそう問いかけた。
「チェダーチーズ山方面である事は分かっているが、迂闊に接近しない方がいい...」。
ゴリラ隊員がハリガネにそう答えた時...。
(それに草陰方面から気配が近づいてきてるな...。また“アンデシン”か? さすがに奴等の群れとなると骨が折れるな~。“アンデシン”じゃない事を祈りたいが...。もしかして、賊団の偵察とかか...? )。
ハリガネが周囲の草むらに銃口を向け、そう考えていた時...。
「あ~! 何だよぉ~! アンタ達かい~! そうかぁ~! ゴーダチーズ丘から越えてきたのかよぉ~! 」。
一人の男が同じくライフルを構えたまま草むらから姿を現した。
その男は緑のヘルメットと迷彩柄の戦闘服で武装しているが、ポンズ王国軍の兵士ではない事にハリガネや隊員達は気づいていた。
「おぉ~!! 久しぶりだなぁ~!! 何だよ? お前等チェダーチーズ山で魔獣狩りか? 」。
ゴリラ隊員は銃を下ろし、笑顔でその男に話しかけた。
「そんな楽しいもんでもねぇよ~!! あ、知らせておかないとな。お~い!! ここにいたぞぉ~!! 」。
「隊長、あの男の武装はたしか...」。
パルスはその男を見つめながらハリガネに耳打ちした。
「はい、ケチャップ共和国の兵士ですね。おそらく、国の領土がパルメザンチーズ山脈付近なので周囲の巡回をしているんだと思います」。
ハリガネがパルスにそう答えた時、草むらから続々とケチャップ共和国の兵士達が姿を現した。
「ハッハッハッハッハ~!! 母国で報道を聞いて驚いたぜ~!! クーデターやらかしちまったらしいじゃねぇかよ~!! 」。
黒髭を蓄えた小太りの中年兵士が、高笑いをしながらゴリラ隊員の脇腹を小突いた。
「クーデターじゃねぇよ。王国のために命懸けで防衛に取り組んだまでだ。平和ボケしちまった王国にはその忠誠心が分からんかっただけさ」。
ゴリラ隊員が不満げに鼻を鳴らしてそう答えると、中年兵士は更に高笑いしだした。
「ガッハッハッハッハ~!! なぁ~にが忠誠心だぁ~!! どうせ暴れたかっただけだろうがぁ~!! 」。
「うるせぇよ」。
ゴリラ隊員は苦笑しながら、腹を抱えて笑い続ける中年兵士の脇腹を小突き返した。
「隊長ぉ~、ゴリラさんとあのケチャップ共和国の兵士とは知り合いなんですかぁ~? 」。
パルスは再びハリガネにそう耳打ちした。
「はい、ケチャップ共和国軍歩兵隊の指揮を執っている隊長ですよ。戦中期はお互い敵同士だったんで当時は何度か争い合ってましたが、その時からお互いを認め合っていた仲だったらしいです。終戦後になってからはすっかり友人の様な間柄になったみたいですよ」。
「ふ~ん、今日の敵は明日の友っていう感じかぁ~」。
「う~ん...。以前はそういう間柄だったかもしれませんが、今となっては僕等はもうポンズ王国から出ていった反逆者側の人間になってしまってますからね~。そのことを踏まえて彼等が今の自分達の事をどう思っているかによりますけどねぇ~」。
ハリガネがパルスとそう言葉を交わしている時、ケチャップ共和国軍隊長と視線が合った。
「おおっ!! “恐戦士”のせがれじゃないか!! そうだったなぁ~!! お前さんも蛮族のノンスタンスに自分の国を売って追い出されたんだったなぁ~!! ガッハッハッハッハ~!! 」。
「久々にお会いしたのに勘弁してくださいよ~! 俺は王国にハメられたんですからぁ~! 」。
ハリガネは再び高笑いをするケチャップ共和国軍隊長に、苦笑しつつ肩をすくめながらそう答えた。
「ハッハッハッハッハ~!! 母国の報道だとお前さん達はテロリスト扱いだからなぁ~!! いやぁ~!! 共に国家のために身を粉にして戦ってきた人間なのに、忠誠を尽くしてきた王国に追い出されては元も子もないの~う!! 」。
「まぁ、いいっすよ。俺等が“アルマンダイト”を討伐して、それを王国に持ち帰ってギャフンと言わしてやりますよ。それで結果オーライになるでしょうし」。
「おお~!! 勇ましいのう!! 」。
「...ところで、ケチャップ軍もどうです? 俺等と一狩りして一緒に英雄になりませんか? 」。
ハリガネにそう誘われたケチャップ共和国軍隊長は再び高笑いを始めた。
「ハッハッハッハッハ~!! 俺達も長い事大規模な戦闘はしてないから退屈してたところだし、面白そうなんだけどなぁ~!! ポンズ王国の反逆者指定されているお前等に直接に手を貸す事はあちらとの友好国条約違反になるから、加勢はおろか水一杯も渡してやれないんでなぁ~!! 」。
「ありゃりゃ~、それは残念」。
ハリガネは肩をすくめ、おどけた表情を浮かべた。
「ハッハッハッハッハ~!! ただ、お前等の亡骸くらいだったら王国まで運んでやってもいいぞ!! まぁ、俺達は山脈の奥までは入れないが、周辺は巡回してるから運良く発見できるといいがなぁ~!! ガッハッハッハッハ~!! 」。
ハリガネは呆れた表情を浮かべ、笑い転げるケチャップ共和国軍隊長を見つめながら溜息をついた。
「発見だなんて縁起でもないな~。しかし、隊長達の領域も山脈の近くだから魔獣に遭遇したりで大変じゃないっすか~? 」。
「ハッハッハッハッハ~!! いや、そんな事もないがな~!! 奥に行かない限り、周辺には凶悪な竜族魔獣は寄りつかないから比較的マシな方だがな~!! 」。
「あぁ~、やっぱ奥の方っすか~」。
「つーかよぉ~、お前等のせいで厄介な事になっちまったんだぞ~? 」。
「厄介な事...? 」。
ケチャップ共和国軍隊長に脇腹を小突かれるハリガネは怪訝な面持ちでそう聞き返した。
「お前等がドンパチしてくれたせいで、こっちは警備を厳しくせざるを得なくなったんだぞ~? 」
「厳しくせざるを得なくなった...? 」。
ハリガネは眉をひそめて再び聞き返した。
「...ん? 何だ? お前等は何も知らないのか? 」。
「すいません、自分達は出国の準備とかで忙しくてその件に関しての事は何も...」。
ケチャップ共和国軍隊長は首をかしげるハリガネの様子を見て、悟ったように神妙な面持ちで小さく頷いた。
「...そうか、知らないのか」。
ケチャップ共和国軍隊長が静かな口調でその一言だけ呟くと、ハリガネとゴリラ隊員は懐疑的な表情を浮かべてお互いの顔を見合わせていた。
そんな二人の反応を見たケチャップ共和国軍隊長は、一旦咳払いをした後に話を切り出した。
「...実は王国でお前等と一戦交えた反逆軍ノンスタンスの残党が、パルメザンチーズ山脈方面まで逃走していったという情報を掴んでいる。それで、俺達は今まで以上に周囲を警戒しているわけだ」。
「え? ノンスタンスがパルメザンチーズ山脈に...? 」。
ハリガネも神妙な表情を浮かべ、ケチャップ共和国軍隊長に視線を向けた。
ケチャップ共和国軍隊長は眉間にしわを寄せ、鋭い眼差しをハリガネに向けたままゆっくりと頷いた。