謎のオッサン
物語上で私はあまりしゃべっていないですが、真剣に収録を続けています。
~番組制作プロデューサー、チャールズ=マッコイ~
「それでね~、勇者君にはちょっと話してたと思うんだけどね~。国外の賊団や反王国派団体等の反社会的勢力集団が、ポンズ王国内で接触して綿密なやり取りを交わしていたらしいんだ。そして、現地の人間も彼等に支援をしたりして活動をサポートしていた事が分かったよ~」。
「...その体勢で話をするんかい」。
ハリガネはうんざりした表情を浮かべながら、キュンの膝の上でリラックスし続けているジューンを指差した。
「まぁまぁ、良いではないかぁ~。それで、ポンズ王国内で賊団とか反社会的勢力集団が接触していたのは、ゴリラさん達には話をしてなかったよね? 」。
(はいはい、出たよ。いつものやつ)。
相変わらずマイペースで話を進めていくジューンに対し、ハリガネは心底うんざりした様子で両腕を組みながら黙り込んだ。
「さっき隊長から聞いた。パブのあった場所が賊団達の巣窟になっていたようだな。そして、隊長とリーダーのデイにソイ=ソース国の何者かが懸賞金をかけていた事もな。そんな境遇で楽しそうに商人のふりなんかして、よく偵察なんかできるなと思うけどな~」。
「...」。
ゴリラ隊員に横からチクリとそう言われたハリガネは、仏頂面のままだんまりを決め込んでいた。
「う~ん! それなら話が早いね~! さっき言ったように、ポンズ王国内でノンスタンスとエミールが反社のコミュニティを通じて接触していた事が分かったんだ。その時のノンスタンスとエミールの関係は情報交換をやり取りする間柄でしかなかったようだ。ちなみにその事に関して、ノンスタンスの方は知ってた...? 」。
ジューンはようやくキュンの太腿に載せていた頭を上げて、ハリガネ達の近くにある椅子に腰を下ろした。
「いや、メンバー...主に戦闘組の方が王国へ忍び込んでいたという事は知っていました。ただ、もうその時からノンスタンスでは戦闘組が中心になってたんで僕達はあまり詳しい事を聞かされてない感じでしたね。もちろん、そのコミュニティの事も...。僕達が王国へ入り込んだ時って、リーダーと時計塔をハイジャックしたその当日だけですし。ここにいるメンバーは王国内にあるそのアジトに関してはほとんど分からないです」。
アゲハラは肩をすくめながらジューンにそう答えた。
「まぁ、ここからはノンスタンスの主要人物でもあるホワイト君とアゲハラ君にも話を聞こう。ささっ! 座って! 座って! 」。
(...図々しいにも程があんだろ。ここはお前の家じゃねぇんだぞ? )。
ハリガネはホワイトとアゲハラに椅子に座るよう促しているジューンを睨め付けながらそう思っていた。
「それでねっ! まだ聞きたい事があるんだけど、さっきアゲハラ君が王国に入り込んだって言ったじゃん? どうやって通ったの? 魔法陣から? 」。
「はい、先にポンズ王国に潜伏していたメンバー達が都市から離れた町の壁に通路式魔法陣を用意していました。僕達は王国の領土外に設置した通路式魔法陣でその町に忍び込みました。そこからメンバー達や現地の関係者に助けを借りながら、都市ユズポンの方まで向かったって感じです」。
アゲハラは椅子に腰を下ろしながら、ジューンにそう答えた。
(...って事は、先に潜伏していたそのメンバー達が通路式魔法陣の描かれた石板を使って王国に侵入したわけか)。
アゲハラの話を聞いていたハリガネは地面を見下ろしながらそう考察していた。
「なるほどね~。それで、君達はどうやって王国から脱出したんだい? ユズポン通りには通路式魔法陣らしきものは見つかっていなかったらしいんだけど...」。
「ユズポン市の路地裏の壁に魔法陣が配置してありました。僕とデイが兵士達から逃げていた時に仲間達の誘導でその魔法陣の方まで辿り着いて、潜った先はソイ=ソース国の領土内でしたわ。仲間達の話によればサングラスを掛けた長髪のオッサンが目の前に現れて、魔法陣を指差してここから逃げるよう誘導していたとの事で...。その人が魔法陣を何で用意したのかは僕も仲間達も分かりませんでしたが、おそらくジューンさんが先程おっしゃっていたコミュニティで知り合った関係者なのかもしれません。その出来事の後、その人の行方は誰も知りませんが...。多分、王国内でその人が魔法陣を消してくれたんじゃないかな...? 」。
「...」。
ホワイトは顔をしかめて当時の状況を振り返りながらそう答えると、ジューンは険しい表情を浮かべてホワイトを見つめたまま自身の拳に口を当てて考える仕草をしていた。
「サングラスを掛けた長髪のオッサン...か。アゲハラ君はその人とは会った? 」。
「いえ、僕もリーダーやホワイトさんとは王国外で合流したんですが、国外へ逃げる時にはその風貌らしき人はいませんでしたね」。
「ふむ...」。
ジューンはアゲハラの答えを聞くと、神妙な表情を浮かべて自身の顎髭を撫で始めた。
「まぁ、いいや。それで、ちょっと話が変わるんだけど...。ポンズ王国内で国外へ繋がっている通路式魔法陣が描かれた石板が見つかったんだけど、ノンスタンスはその石板を活用してた? てか、その石板がある事自体は知ってた? 」。
ジューンがそう問うと、ホワイトとアゲハラはお互いの顔を見合わせていた。
「自分達が通った魔法陣は王国内の壁に繋がってたんで石板といったものは活用しませんでした。あと、その石板に関してはデイから渡されたのは覚えてます。国外に繋がっている魔法陣だから緊急避難の際にはこれを使え、と...。ただ、その石板に刻まれた魔法陣の魔力が十分に注入されていなかったみたいで、ユズポンの時計塔まで辿り着いた時には魔法陣が消えてましたわ。着地点から距離が遠過ぎて効力が消えてしまったんです。改めて魔法陣を石板に描く事も現地で試したんですが、僕も他のメンバーも通路式魔法陣の陣形が不完全で到達場所まで繋げなかったんですよ。だから、王国の兵士が騎兵隊で突撃してきた時、デイを説得して正式な陣形が記されている魔導書が置かれた図書館へ移動する事になったんですわ」。
「だから、あの時お前等は図書館にいたのか」。
ハリガネがそう言うと、ホワイトは小さく頷いた。
「あの~、ちょっとよろしいでしょうか~? 」。
ローは怖ず怖ずと挙手しながら話に入ってきた。
「どうぞ~」。
ジューンはローへにこやかに微笑みかけて快諾した。
「あの~、その石板って多分エミールのやつだったと思います」。
「え? そうなの? 」。
ジューンは懐から例の手帳とペンを取り出しながらローにそう問いかけた。
「はい、それは恐らく山脈でスライスした石板に、エミールの団員が魔法陣を描き込んだ携帯式の魔法陣通路ですね。その石板は王国外の荒野にある岩に刻まれた魔法陣に通じています。それを使って団員はポンズ王国へ出入りしていたと聞いていました。あと、エミールでは備品を他賊団に貸し出す事は厳禁です。発覚次第、そいつは殺されます」。
淡々とそう答えるローに、ジューンは頷きながら手帳に証言を記録していた。
「つまり、そのエミールの石板をデイが勝手に持ち運んだという事か...」。
「まぁ、そうだと思いますね」。
「ふむ...。当時のボスは先代だったのかエスティーなのかは分からないが、エミール側は怒ってたんじゃないかな~? 」。
ジューンがそう言って悪戯っぽく笑うと、ローは真剣な表情で力強く頷いた。
「当時のボスは先代でしたけど、側近だった当時のエスティーは結構ブチギレてましたね~。そのポンズ王国内で賊団が集まってたその場所ではエスティーも結構関与してたんですよ。僕はあまり関わってなかったんですけど、エスティーも王国に侵入して現場へ出入りしていたんで当時からノンスタンスとは顔見知りの関係だったんじゃないかな~? まぁ、いずれにせよノンスタンスに対してブチギレていたのは石板を盗んだ事が原因ではなかったですがね~」。
「一体、何が原因だったんだい? 」。
「何度か御話しされていましたが、ノンスタンスがポンズ王国の領土の一部を占領した時ですよね。あれが原因でエミールや他の賊団の稼ぎ目がパーになったみたいですからね。その時のエスティーは見た事も無いくらい荒れてましたね~。まぁ、俺にとっては良い光景でしたが...」。
ローは薄ら笑いを浮かべながらそう答えた。
「隊長さんとゴリラさんが祖国であるポンズ王国を防衛すべく、デイが率いるノンスタンスに立ち向かった時だね~! 」。
そう声を弾ませるジューンは再び悪戯っぽくハリガネ達に微笑んだ。
「...? 」。
当時の状況を知らずに困惑するローやノンスタンスのメンバー達。
「...」。
一方、当事者であったノンスタンス側のホワイトは苦笑を隠せない様子であった。
「...何だよ、急に隊長さんって。気持ち悪い...」。
そう言うハリガネとゴリラ隊員は、テンションが高ぶっているジューンを怪訝な表情で見つめていた。
「そういえば、僕も現場にいましたけど...。王国兵士の勢いが凄過ぎて逃げるのがやっとでしたね...。そういえば、その後はノンスタンスがもうどうしようもない状況だったんで、当時の戦況とかはよく覚えていませんでした」。
アゲハラは神妙な面持ちで地面を見下ろし、考えている様子を見せた。
「そうだね~! 今まで僕が一方的に事情聴取をしてたから、ここはお互い意見交換といこうじゃないか~! 」。
「は? 意見交換...? 一体、どういうこったよ? 」。
ハリガネは眉をひそめてジューンにそう問いかけた。
「勇者君やゴリラさんもあのノンスタンスとの戦いがきっかけになって今に至るわけじゃないか~! ここではノンスタンスも捕虜とはいえ、同じ境遇で生活しているわけだしさぁ~! ここは情報を共有しつつ絆を深めていこうってな感じで、勇者君達が何故“アルマンダイト”を討伐しなければいけないかという事を話す必要があるんじゃないかなって思うんだよ~! 」。
ジューンが嬉々としてそう話すと、ゴリラ隊員は露骨に不満げな態度を露わにした。
「何故、捕虜に俺達の事情を話さなければならんのだッ!? 」。
「それに、ノンスタンスのみんなもこの人達がなんで“アルマンダイト”を狩らなければいけないのか、よく知らないよね? 」。
ジューンがそう言うと、ノンスタンスのメンバーは頷いた。
「ふざけるなッ!! 俺達の事情を捕虜の分際に語るつもりは無いッ!! 」。
「じゃあ、俺が代わりに話すよ~。それでね~、俺が調べた情報によるとね~。ここにいるゴリラさんはポンズ王国軍の歩兵部隊をまとめていた兵士だったんだけど、自分の立場が危うくなって勝手に部隊をまとめて突入...」。
「貴様ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 人の話を聞かんかぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。
ゴリラ隊員の叫び声も虚しく、基本的に人の話を聞かないジューンはハリガネ達が歩んできたこれまでの経緯をノンスタンスのメンバー達に話し始めるのであった。




