ノンスタンスとエミール
やぁ!久々の僕だよ!
好きなタイプだって?
そうだね~!
僕の家業を一緒に手伝ってくれる人が良いな~!
~某道具屋の従業員~
「死んでた...? それはボスのエスティーに殺されるかもしれなかった...って事? 」。
ハリガネがそう話を切り出すと、ローはうつむき気味に小さく頷いた。
「自分と奴がほぼ同じ時期にエミールに加入したっていう事は話したじゃないですか。自分はエミールに入った時から奴の事が気に入らねぇと思ってましてね。最初の時からエスティーとはバチバチいってたんです。そういった流れもあって俺は前のボスを支持してて、奴は先程も言ったように賊団内の人間や自分が賊団に誘い込んだ人間を独自の路線で取り込んで支持する人間を増やしていきました。そしてエスティーは前ボスの支持派、すなわち反エスティー派の粛清を始めたのです」。
「なるほど、その流れでお前も殺されそうになったという事か」。
「はい...。自分がまだ賊団にいて奴が前のボスを暗殺していなかった時、味方だった仲間から隊員を束ねて奴がボスを暗殺するという話は聞いていたんです。ボスが奴に殺された後、身の危険を感じてはいたんですけど...。まぁ...こうね...。成り行きもあって...まぁ...。何とか助かった...というかね...」。
皆は急に口ごもるローを不審そうに見ていた。
「...自分の保身のためにこっちに加入したのかよ? どさくさに紛れて入ってきやがって...」。
アゲハラは嫌悪感を抱いている様子でローを睨み付け、ぶっきらぼうにそう言い放った。
「ふざけんなっ! ノンスタンスで厄介になるって事で、賊団から酒と食料を持ってきてちゃんとリーダーにも挨拶して入ったわっ! それに俺が賊団に入ったのもノンスタンスとの抗争前の事だわっ! 」。
ローは必死になってそう反論すると、アゲハラは呆れたように溜息をつきながら話を切り出した。
「まぁ、エミールの組織の事はよく分かりませんが...。実はパルメザンチーズ山脈へ逃げ込んだノンスタンスはそのエミールと抗争を始めたんです。...三日前の事でした」。
「エミールとノンスタンスが抗争したのか...。王国からボロボロになった状態で山脈へ逃げ込んで、エミールと一戦交えるのは自殺行為なんじゃないのか? 」。
ハリガネがそう言うと、アゲハラは神妙な表情を浮かべて話を続けた。
「もちろん、全く太刀打ちできませんでした。その前にも他の賊団から追われてて、逃げ込んだ先がたまたまエミールのテリトリーだったんです。それで、しばらくそこに隠れていたんですが、結局エミールの団員に見つかっちゃって...。それに、僕等はエミールどころか山脈に潜伏している賊団の事に関しては全く情報を把握していない状況だったので、特に立ち向かった戦闘組はなすすべなく殺されていったんじゃないかな...? 僕等は子供達を引き連れながら、ホワイトさんと魔法を用いて何とか逃げ切りました。その後のノンスタンスの現状は分からず、今に至るっていうのが僕等ってわけです。その時にコイツも何故かついてきてたって事です」。
アゲハラはそう言ってローを指差した。
「...となると、デイがあの時にエミールの団員と話していたというのは...。ボスのエスティーに対して、和解を申し立てたという可能性もあるね~」。
「そうだな...。それに、ノンスタンスがエミールと組んだというのも考...お前っ!! 何してんのっ!? 」。
そう言って驚愕するハリガネの視線の先には、キュンの膝枕でリラックスしているジューンの姿があった。
「ただ、今日は団員だったロー君からエミールの事を聞けて良かったよ~。なんせタイムリーな情報もソルト国から手に入れていたからね~」。
「...いや、その体勢で話すのかよ」。
ゴリラ隊員は呆れた表情を浮かべながら、未だにキュンの膝の上で横になっているジューンを指差した。
「まぁまぁ、聞いてよ~。実はノンスタンスとエミールって半年前から因縁があった事が分かったんだよ~」。
「ノンスタンスとエミールが...? 」。
ハリガネがそう聞き返すと、ジューンは神妙な表情を浮かべて頷いた。
「うんっ! それこそ、この間勇者君と話していたパブのあった場所の件に繋がっていくんだ~! 」。
「ノンスタンスとエミールがあの反社とのコミュニティの場で交わっていたって事...か? 」。
ハリガネが続けてそう問うと、ジューンは神妙な表情を浮かべたまま頷いた。
(あの騒動で王国内での稼ぎ目をノンスタンスが潰してしまったのは事実。そうなると、エミールがノンスタンスを敵視している可能性が濃厚だな...。しかし...)。
「う~ん! 柔らかくて気持ち良い~! このまま寝ちゃおうかな~? 」。
「えっ...!? い、いやっ!! ちょっと...っ!! 」。
(追いつかねぇっつーんだよ。こっちの気持ちがよぉ。急に真面目になったり、急にフザケ倒したり...)。
そう思っているハリガネと他の人達は、キュンの膝に頬擦りをしているジューンを冷ややかな視線で見つめていた。




