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破離刃離☆勇者ハリガネⅢ~俺達は“炎の守護神”と恐れられている魔獣を討伐しないと王国へ帰れま1000!! ~  作者: 田宮 謙二


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エスティー


好きなタイプ?


...。


俺、三十二だけど独りの方が楽だし、今の方が縛られない充実した生活を過ごせてると思うんだけどな~。


...え?


そう思わない?




~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~






静寂に包まれた基地内。


そんな基地内にあるテーブルを隊員達と捕虜のローが取り囲み、皆は厳かな表情で卓上を見つめていた。


「賊団エミールのボスの名前はエスティー。エスティー自身魔法は使えないが巧みな話術と広い人脈で、賊団内では絶大な支持を得ていたと...。当時エミールの組織事情は魔法使いどころか隊員数が少なく、ソイ=ソース国方面の山脈に拠点を構える“ゴクアクボンド”やケチャップ国方面の山脈に拠点を構える“ヒラメキーナ”といった有力な賊団や他賊団に領域を狙われるようになっていた。そんな境遇のエミールにエスティーとローがほぼ同時期に加入した...と。それが三年前の話って事ね? 」。


ハリガネは小さめのノート手帳で情報を書き残しながら、ローに改めて確認した。


「はいっ! その通りですっ! 」。


ローはハキハキとした声でハリガネに答えた。


「そんで、エスティーは諸国やその周辺に潜伏していた賊団を含めた反社会的集団を上手く取り入れ、エミールの組織強化に大きく貢献した。そして、エスティーはその活躍を先代ボスに認められ、ボスの側近として重宝されるようになった。ボスの右腕として手腕を振るうエスティーはエミールの勢力を上げるためには“アルマンダイト”を討伐する事が必要不可欠であると考えていた。その“アルマンダイト”を討伐する事ができれば、他の賊団からは敬遠されるようになり山脈に構えている賊団としては箔がつく。更にはパルメザンチーズ山脈の賊団を壊滅あるいは吸収させ、エミールは山脈一の大賊団としての地位を揺るぎないものとする事ができるとエスティーは考えていた。そうなれば、どの賊団やハンターもエミールに歯向かう事は無い...と」。


「...」。


ノートに書き上げた内容を淡々と読み上げるハリガネに対し、ローは神妙な面持ちで耳を傾けていた。


「しかし、先代ボスはエスティーの積極的な“アルマンダイト”討伐に難色を示していた。やがて、エミール内においてエスティーと先代ボスとの間にも軋轢が生じていき、派閥もエスティーの積極的討伐派と先代ボスの保守派に分かれていった。しばらく組織内は緊張状態が続いていたが、エスティーは遂に先代ボスの暗殺に成功した。そして、エスティーはそのままボスとなり、新たな指揮官としてエミールを統制していく事となった...と。それが、今年に起きた出来事というわけね? 」。


「は、はいっ! 」。


ローがそう返答した時、ゴリラ隊員はハリガネが手に持っているノートを後方から覗き込んだ。


「ふむ...。団員数は約七十人で“アルマンダイト”積極的討伐派の賊団...か。随分と“アルマンダイト”討伐に自信があるみたいだな。そのエスティーが新たなエミールのボスになったという事は、それだけ団員から支持を得ているという事か...」。


ゴリラ隊員がそう言うと、ローは小さく頷いた。


「あんまり、認めたくないですが...。エスティーは賊団の人間達からは絶大な支持を得ていました。行動力があった奴なんで、色んな所から勧誘した人間を賊団に入れて組織を率先して強化していきました。エスティーは“アルマンダイト”を討伐するためには魔法を操る人間、あるいは人間よりも戦闘能力が優れているとされる魔獣と人間の間に生まれた混血族の力が必要であると考えていました。それで、エスティーは魔法使いをメインとした組織を構成しました」。


「そのエミールにいたお前から見て、戦力的にはどうだ? “アルマンダイト”は狩れそうなのか? 」。


ゴリラ隊員は両腕を組んで厳かな表情のまま、ローにそう問いかけた。


「自分がいた時点では難しいとは思うんですけど、エスティーが新たなボスとしてエミールの指揮を執るようになってからは戦力は明らかに上がりましたね。エミールはパルメザンチーズ山脈に拠点を構えた賊団ですから、“アルマンダイト”の他にもドデカい大型魔獣に人間が狙われやすいんですよ。でも、エスティーはボスになってすぐにアジトを地上から地下に移転させて、魔獣対策の防壁や魔獣用のトラップの設置も積極的に実践しました。まだまだ時間はかかる気はしますが、“アルマンダイト”を討伐できる力は持ち合わせていると思います」。


「戦力を底上げしながら賊団の防衛対策もそれに並行してメスを入れていったという事か。手堅いな...。まぁ、大型魔獣が生息している地にアジトを置いているから当たり前か。それじゃあ、アミールの賊団員は全員魔法を操る魔法使いで構成されているって事? 」。


ハリガネはローの証言をノートに書き込みながらそう問いかけた。


「まぁ...。自分の知る限りでは全員魔法使いではなかったと思いますが、ほとんどが魔法使いで占められていたのは間違いないと思います」。


「そういえば、魔法使いはどうやって誘い出したの? 普通、魔法使いだったら危険と隣合わせなパルメザンチーズ山脈の賊人に身を沈めなくても諸国で十分食べていけるだろう? 」。


ハリガネは再びそう問いかけると、ローは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。


「そこが奴の上手いところでなんです。奴は団員にテリトリーや山脈限らず自由に行動する事を許可したんです。単独行動を許さなかった前のボスとは全く真逆の方針を掲げたんです。これによって、団員の行動範囲が広がり、大型魔獣の討伐や敵対勢力である賊団にダメージを与える等の戦果を成し遂げると賊団内でも生活や地位が優遇されるような完全実力社会のシステムを構築したんです。エスティーに認められればさらに重宝され、賊団のアジト内では何の不自由も無く過ごす事ができます。他の団員もパシリに使えますしね」。


「なるほど、目標を定めない完全実力制度を導入したわけか。そうすれば、必然的にカースト制度が成り立ち自然と団員の間に競争心が生まれ、士気も上がり総合的に戦力も上がるというわけか...。話を聞く限り、優秀で理想的な指揮官だな」。


ゴリラ隊員は感心したような表情を浮かべてローにそう言葉を返した。


「つーか、全然タダのクソ野郎じゃねえじゃん。普通に有能なボスじゃん」。


「...」。


ハリガネがそう言うとローは表情を曇らせ、そのままうつむいて黙り込んでしまった。


「確か、お前はエミールのメンバーだったんだろ? 何でノンスタンスの方に寝返ったんだ? まぁ...エミールとノンスタンスが敵対関係であったかも定かではないから、寝返ったという表現はおかしいかもしれんが...」。


「...逃げてきたんです。どのみち、あのタイミングでエミールのアジトから離れていなければ、俺はとっくに死んでましたからね...」。


「...」。


ハリガネはゴリラ隊員の問いかけに、神妙な面持ちでそう答えたローに鋭い視線を向けたまま黙っていた。



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