ジューンの危機
むっ!?
好きなタイプっ!?
そんなの嫁に決まってるだろッ!!
自分が愛する人なんだからなッ!!
...はぁ。
~討伐部隊“勇者”ゴリラ隊員~
「...っっ!? 一体何があったっ!? 」。
ハリガネとゴリラ隊員は急いでジューンとヤマナカの下へ駆け寄った。
「いやぁ~! ちょっと油断しちゃったなぁ~! 」。
ジューンは頭を掻きながら苦笑し、ヤマナカの助けを借りながらその場に座り込んだ。
「ヤマナカッ!! 外で何があったッ!? 」。
ゴリラ隊員は厳かな表情でヤマナカにそう問いかけた。
「私が外を監視していた時っ! ジューンさんは既に負傷した状態で現れましたっ! ただ、周囲からの気配はありませんっ! 」。
「引き続き周囲の監視に戻れッ!! 襲った奴等が追ってくるかもしれんッ!! その際は速やかに基地へ報告しろッ!! 」。
「了解ッ!! 」。
ヤマナカはゴリラ隊員にそう返事をすると、駆け足で魔法陣に飛び込んでいった。
「何があったんだ? 山脈の賊団に襲われたのか? 」。
ハリガネは王国からの支給品である薬箱を持ち運びながらジューンに問いかけた。
「...多分そうだと思う。どうやらテリトリーに入った時に既に囲まれ...ぐぶぶっっ!? 」。
ハリガネは冷静な表情を保ったまま、瓶に入った酒をジューンの頭にブチ撒けて血を洗い流し始めた。
「ちょっ!! ちょっと勇者君っっ!? そ、それ俺が持ってきたお酒だよねっ!? 」。
「アンタは外に出てたから知らなかったかもしれないが、この基地では今後飲酒禁止になったからな」。
「え、えぇぇぇええええええええっっ!? ち、ちょっ! それ、どういう...イタタタタタタタッッ!! イタイタイタイタイタイタイタイタイタイッッ!! 」。
ハリガネはジューンの頭上に酒を垂れ流しながら、ガーゼで傷口を強く押し当てていた。
「...駄目だッ!! 結構深く斬られてて血が止まらねぇわ!! 裁縫セットッ!! これ縫うしかねぇわ!! 回復薬じゃ止まんねぇわ!! これ!! 」。
ハリガネがそう叫んだ時...。
「いやっ! 隊長っ! 自分が止血しますっ! 」。
パルスがそう言ってジューンの額に自身の掌を押し当てた。
すると、ジューンの額に触れているパルスの手から緑色の輝きが解き放たれ、傷口が次第に塞がれていった。
「おおっ...!! 出血が止まったぞ!! 」。
ゴリラ隊員は目を見開いてパルスの療養魔法に感心していた。
「脱水症状を起こしてるっ!! シアターっ!! 水持ってこいっ!! 」。
「は、はいっ!! 」。
パルスにそう命令されたシアターは急いで水のあるキッチンの方へ向かった。
「大分、息切れしてるな...。相当魔力を削られた感じですね...。一応、応急処置を...」。
パルスは再びジューンに掌をかざし、放出した青白く光る魔力をジューンの身体に送り込んだ。
「わ、私も手伝いますっ! 」。
周囲の人間と傍観していたキュンも駆け寄り、自身の掌から放たれる青白く光った魔力をジューンに送り込んだ。
「いやぁ~! 極楽っ! 極楽っ! ついでに膝枕もさせてくれたら嬉しいんだけどね~ん! 」。
「...へっ?? 」。
キュンはジューンの間の抜けた要求に困惑していた。
「ジューンさんっ! どうぞっ! 」。
「おっ! サンキュ~! 」。
そんなキュンを余所に、相変わらずマイペースなジューンはシアターから水の入った瓶を受け取った。
「んぐ...んぐ...。プハァ~! 生き返ったぁ~! 」。
それを一気に飲み干したジューンは、安堵の表情を浮かべながら深く溜息をついた。
「まぁ、冗談が言えるのであれば大丈夫そうっすね~」。
そんなジューンの様子を観察していたハリガネは、同じく隣で静観していたゴリラ隊員にそう話しかけた。
「フンッ!! そんな呑気な事を言ってる場合かッ!! さっきから露骨に話題を逸らしやがってッ!! 」。
ゴリラ隊員が厳かな表情のまま、ぶっきらぼうな口調でハリガネにそう返した。
(...チッ! バレてたか)。
そんなばつ悪そうな表情を浮かべるハリガネを余所に、ゴリラ隊員はその場にしゃがみ込んで地面に座り込んでいるジューンと目線を合わせた。
「おい、貴様。さっきテリトリーに入ったと言っていたな? 何処のテリトリーに侵入したんだ? それは賊団のテリトリーって事だな? 」。
ゴリラ隊員がそう問うと、ジューンは食い気味に何度も頷いた。
「そうそう! それこそ、ロー君がさっき言ってた“エミール”のテリトリーに入ってきたんだけど、どうやらあちら側に気づかれたみたいなんだ~。いつの間にか囲まれてて、魔力も一気に吸い取られちゃってね~。反撃はしたんだけど、さすがにヤバいって思ったけどね~。まぁ、命からがら逃げてきたってわけさ~」。
「フンッ! 迷惑な奴だ、ここは駆け込み寺じゃねぇんだぞ」。
ゴリラ隊員は呆れた表情を浮かべて両腕を組んだ。
「う~ん、山脈に潜伏している賊団とはいえ、何とかなるだろうとは思ったんだけど...。魔法使い対策のために複数の魔法使いで陣形をあらかじめ整えてスタンバっていたとは...。いやぁ~! 迂闊だったなぁ~! 」。
「フンッ! 陣形を整えるなんて当たり前の事だろ。賊団は組織で動いてんだし、侵略してきた魔法使いの対策くらいしてるだろ。でなければ、“アルマンダイト”を討伐する前にとっくに死んで全滅してるわい」。
「はははっ! 確かにっ! 」。
ジューンは苦笑しながらゴリラ隊員にそう返し、自身の頭を掻いた。
「しっかし、さすが魔法を操る人は違うなぁ~! さすがパルスさんっ! 傷が完全に無くなってるよ~! 」。
ハリガネはすっかり傷口が消えたジューンの頭部を確認しながらパルスの魔法に感心していた。
「いやぁ~! それ程でもないっすよぉ~! ただ、内臓まで届くくらい深過ぎる傷は塞げませんけどね~。あと手足が切断されたりすると、それは医師じゃないと治せませんね~」。
パルスはそう答えながら、グラスに入った青色の魔力補強薬を口に含んだ。
「たははっ! そうならないように気を付けるよ~! 」。
ジューンは呑気な様子でそう言葉を返した。
「それで、何で“エミール”とやらのテリトリーに侵入したんだ? 」。
「追ってたのさ」。
「追ってた...? 」。
ゴリラ隊員が怪訝な表情を浮かべてそう聞き返すと、ジューンは神妙な面持ちで話を続けた。
「...デイを、ね」。
「...ッッ!! 」。
ジューンの言葉に周囲がざわついた。




