ハリガネ、商人になる
好きなタイプ?
背が高くて優しい人ね。
あと、カッコ良いけどカッコつけない人ね。
だから、理想なタイプはやっぱりデイ様かな~!
~ノンスタンスのメンバー、ワンムーン~
荷車を牽いているハリガネはチェダーチーズ山を下り、そびえ立つ樹木と生い茂る植物に囲まれた山道を歩いていた。
「うぅ...。な、なんで僕が...? 」。
ハリガネと共に山中を歩くシアターは怯えた様子で、周囲をしきりに見回しながら弱音を吐いていた。
「いや、こういう系って部隊ではシアターさんが適格だと思うんで、ちょっと手伝ってもらいたいんですよね~。一応、変装してきたけどバレないよな...? 」。
ハリガネはそう言いながら茶色い魔獣の毛皮で作られた長めのコートを羽織り、兜の代わりにコートに付いているフードを頭へ目深に被っていた。
「い、一応、薬品や魔法で加工処理はしたんですけど...。臭みとかは大丈夫ですか? 」。
「全然大丈夫ですよぉ~! いやぁ~! ちょうど変装に使えそうなものが基地にあって助かりましたよ~! パルスさんもシアターさんも本当に器用ですね~! 自分達が剥いだ魔獣の皮をあの場で素材として利用できるようにするなんて~! 」。
ハリガネがそう称賛すると、シアターは照れ臭そうに自身の頭を掻いた。
「いえ~、もともと食材として狩ってきた魔獣だと思いますけど、毛皮もそのままにしてたら腐っちゃいますからね~。毛皮の加工は心得てますので、お役に立てて良かったです。あのまま捨てていたら勿体無かったですしね。さすがに竜族や甲殻族の鱗や殻までは武具職人ではないので加工はできませんが...」。
「そういえば、マットレスや敷物の毛皮もシアターさんとパルスさんが加工してたんですよね~! 魔法を駆使して裁縫や革加工が出来るのは部隊としてかなり大きいですよ~! 助かりますっ! 」。
「い、いえいえ...。と、ところで隊長...。こんな草むらの中を歩いてどうするつもりなんですか? 」。
「ま、ちょっとした情報収集ってやつですよ~! えと...。ここら辺で良いかな...? 」。
ハリガネはそう言うと山道の脇に荷車を停め、近くにある小さめの岩に腰をかけた。
「まぁ、シアターさんも座って。ここで待ちましょう」。
ハリガネにそう促されたシアターは、戸惑いながらもハリガネの横にある岩に腰を下ろした。
「待つって、誰をですか...? 」。
「まぁまぁ、そのうち分かりますって。...おっ! 来たっ! 」。
ハリガネとシアターがそんなやり取りをしていると、山道を歩いている五人の男達が辺りを警戒しながら姿を現した。
五人の男達は以前会ったケチャップ共和国の兵士達とは異なるデザインの迷彩柄戦闘服を着ており、その戦闘服の上から防具である深緑のボディアーマーと服に合わせた迷彩柄のヘルメットを着用していた。
「...ッッッ!!! 」。
ジャキ...ッッ!!
その五人はハリガネ達を見るなり、装備していたライフルを構えた。
「ひ、ひぃぃいいいっっ!! 」。
「シッ!! 」。
ハリガネが怯えるシアターに静粛を促している時、五人の男達がじりじりと距離を詰めてきた。
「何者だッ!! お前等賊団の連中かッ!? 」。
ハリガネは声を荒げて問いかける男に対し、顔色一つ変える事なくゆっくりと口を開いた。
「いえいえ、あっし達はしがない露天商人でござんす。諸国の物資や自家製の魔力薬を貨幣ではなく物々交換によって取引している者でありんす。貴方様は旅人ではなく、傭兵の方と御見受けするでおじゃる」。
商人になりすましたハリガネは、ヘンテコな口調で男達にそう説明した。
「余計な詮索をするなッ!! それに貨幣ではなく物々交換だとッ!? フンッ!! どうせ、まともに入国できぬコソ泥しか能の無いネズミなんだろうッ!? ここら辺は諸国が介入しない無法地帯ッ!! 殺人もまかり通る弱肉強食の地だッ!! その意味が分かってんだろうなッ!? 」。
「勿論存じておりまするが、そんなネズミ二匹に銃弾を使うのは勿体無いでありんす。ちなみに銃弾や兵器は売ってないでござる」。
ハリガネは凄む男達に怯む事なく、淡々とした口調でそう答えた。
「黙れッ!! おいッ!! 荷車の中を調べるぞッ!! 」。
男達はハリガネ達が牽いてきた荷車の中を調べ始めた。
荷車の中にはジューンが調達してきた酒瓶,魔力薬やゴリラ隊員に支給された一カートンの煙草(本人は持っていかれるのを大分渋っていた)等が入っていた。
「おいッ!! 何だッ!! これはッ!! 」。
一人の男は荷車から巨大な白いボードを取り出した。
「それは大型魔獣を捕獲するためのトラップでござる。あっし達はハンターも兼任しているので、捕獲した魔獣を捌いて各々の部位を現地商人との間で取引するのでありんす」。
「トラップだぁ~?? 」。
男がそう聞き返した時、ハリガネは怪訝な面持ちで男達をまじまじと見つめた。
「おっ...? そういえば、皆様は背負っているリュック一つでやんすか? 拙者のように魔獣を狩るための長剣も背負わず、そのライフルだけで“アルマンダイト”討伐なんてできるんでゲスか? 」。
「“アルマンダイト”ォ~?? 冗談じゃねぇッ!! あんな化け物なんか俺達だけで倒せるかよッ!! 」。
男達は“アルマンダイト”という単語がハリガネの口から出ると、ばつが悪い表情を浮かべてあからさまに拒絶反応を示した。
「...? “アルマンダイト”を狩らずに何でパルメザンチーズ山脈へ向かうんでござるか? 」。
ハリガネは会話の流れでさりげなく男達に誘導尋問をし始めた。
「違ぇよ、俺達は山脈にいる賊団のボスに用心棒を頼まれたの。仲間も魔獣や敵の賊団に殺されて人がいねぇって、その賊のメンバーからお願いされたんだよ」。
「傭兵も大変でゲスね~! 某も傭兵出身でしたが戦争も無くなっちゃったし、もう仕事なんてほとんど無いでござんしょう~? 」。
ハリガネがそう問うと、男達は力強く何度も頷いた。
「そうなんだよぉ~! でも、その賊団のアジトに行けば飯もあるし女もいるし、寝床もあるっていうからな~! セキュリティの仕事だけしてりゃ良いだろうから魔獣狩る事は無いだろうし、もうここまで来たら引き返せねぇよ~! どうせ俺達みたいな魔法使えない傭兵には国から仕事なんか入ってこないだろうしな~」。
(奴等の身なりから大体感づいてはいたが、やっぱり傭兵か...)。
ハリガネはそう思いながら、あからさまに不満そうな素振りを傭兵達に見せた。
「しっかし、随分と不親切な賊団でやんすね~? 普通は案内役を派遣するでござんしょう? ただでさえ、ここら辺は諸国の歩兵部隊が巡回しているというのに...」。
「人がいねぇんだとよ。一ヶ月くらい前、集団が山脈の方へ侵略してきたらしい。それで奴等にテリトリーを荒らされて、その対応であんまり長距離移動できないからブルーチーズ湖の方で落ち合おうって事になってる。そこの親分も“アルマンダイト”を狙って山脈にずっと暮らし続けているらしいが、その最近入り込んできやがった集団に随分と手間取ってるっぽいな。だから俺達みたいな傭兵を掻き集めてんだろうな~。同じく“アルマンダイト”を狙ってる賊団やおたくみたいなハンターもいるだろうしな~」。
(...その賊団が揉めてる相手はノンスタンスだな)。
ハリガネは心の中でそう確信し、傭兵達に向けて自身の首を横に振った。
「いやいやぁ~! 僕等なんかすぐに食われちゃうでゲスよぉ~! あと、拙者も物資を揃えたら山脈の方へ御邪魔する予定でやんす。その際はどうぞご贔屓に~! 」。
「おう! こっちも山脈のアジトで何かあったら物々交換くらいはしてやるよ~! 」。
「あっ! その先はお気を付けてっ! 昨日、“アルマンダイト”がブルーチーズ川まで下ってきたみたいなんで、その先の渓谷では川から離れて移動していった方が良いでゲスよ~! 」。
「おう! ナイスな情報サンキューな~! 」。
傭兵達はハリガネ達に手を振りながらその場から立ち去っていった。
(う~ん...。山脈に潜伏している賊団も戦力的になかなか苦しそうだな...。デイの奴も戦闘組の仲間と山脈で暴れてるっぽいし、引き続き偵察を続けた方が良さそうだな...)。
ハリガネも手を振り返しつつ、そう考えを巡らせながら傭兵達を見送った。




