勇者のコンプレックス
恋愛ですか~?
ありまっせ~!
ノンスタンスじゃない賊団に属してた時の話なんですがね~?
ボスや幹部をヨイショするために、諸国へ潜り込んで家無き女の子をスカウトして賊団に入れてましたね~!
俺は戦闘能力が無い分、そういった部分で俺は重宝されてましたね~!
女の子賊団に入れるだけじゃなくて、その場で雰囲気を盛り上げたりヨイショしたりね~!
え? それは恋愛話じゃない?
~ノンスタンスのメンバー、ロー~
「ま、そういう事だから...。他のメンバーと基地内で大人しくしてもらおう。...もういいぞ」。
ハリガネがそう言って彼女達に元の場所へ戻るよう促すと、マーシュとワンムーンは泣き崩れているキュンを助け起こした。
女性陣がノンスタンスのメンバー達のいる場所へ戻ろうとした時...。
「...」。
ワンムーンが急に立ち止まり、ハリガネを睨み付けていた。
「...何だよ? 」。
ハリガネは怪訝な表情でワンムーンにそう問いかけた。
「...女の子泣かせるなんて、サイテー」。
「...はっ? 」。
「ふんっ! ...チビのくせに」。
ワンムーンがハリガネに対してそう悪態をついた時...。
「んだとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? テメェェェェエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!! 」。
激高したハリガネは傍に掛けていたアサルトライフルを掴み、その銃口をワンムーンに向けながらそう叫んだ。
「隊長っ!! お、落ち着いて下さいっ!! 」。
ヤマナカが慌ててハリガネを再びなだめ始めた。
「貴様ぁぁぁぁあああああああああああああッッッ!!! そこに直れぇぇぇぇえええええええええええッッッ!!! 今すぐぶっ殺してやるわぁぁぁぁあああああああああああああああああッッッ!!! 」。
「た、隊長っ!! 」。
「...ふんっ! 」。
ワンムーンは捕虜のメンバーのいる場所へ戻ってその場に座り込むと、激高しているハリガネを余所に両腕を組んでそっぽを向いた。
「おいっ!! いい加減にせんかッッ!! そんなくだらん事で貴重な時間を無駄にするなッッ!! 」。
ゴリラ隊員は痺れを切らした様子でハリガネにそう叱責した。
(うっせえッッ!! 脳筋野郎ッッ!! オメーだって、さっきまで怒り狂ってたじゃねぇかッッ!! それに、くだらねぇ事じゃねぇんだよッッ!! 俺にとっては滅茶苦茶大事じゃッッ!! このボケッッ!! )。
ハリガネは内心で逆ギレしつつ、ライフルを元の場所に置いて椅子に座り直した。
(...コイツに隊長を押し付けたのは間違えだったかな? )。
ゴリラ隊員は呆れた表情でそんなハリガネの様子を見ながらそう思っていた。
「...それで、午前中は情報共有のためのミーティングと言っていたが、何を話すんだ? 」。
ゴリラ隊員はそう問いかけると、ハリガネはエキサイトした心を落ち着かせるために数回深呼吸をしてから話し出した。
「えと...。そうだった...。え~、我々部隊の目標でもある大型竜族魔獣“アルマンダイト”討伐に関しての情報共有ですね。先程も触れましたが、昨日私は成り行きでモッツァレラチーズ渓谷で山脈から飛んできた“アルマンダイト”の幼獣一頭に遭遇しました。幼獣ではありましたが五メートル程の高さは十分にあったんじゃないかと思います。諸国の歩兵部隊が近年実施した地形調査の結果の中では、“アルマンダイト”に関する目撃情報も記録されています。ですから、軍の方に資料のコピーを支給してもらいました」。
ハリガネはそう言って懐から数枚の用紙を取り出し、それをテーブルの上に広げた。
隊員達は椅子から立ち上がり、その資料を凝視していた。
「ふむ...。俺も王国で“アルマンダイト”に関しては調べていたが...。改めて目を通すと、パルメザンチーズ山脈の状況はかなり深刻だな...。この五年間、山脈付近の地域において“アルマンダイト”の目撃回数がかなり増加している。活動領域が広くなっているというのが明確だな。山脈付近で目撃された“アルマンダイト”の内訳は成獣が二頭,幼獣が三頭か...。あの広大なパルメザンチーズ山脈の周囲を調査しても、これだけ目撃した回数が多いと先が思いやられるな。中心部まで行くと奴等の巣窟があるわけだし、総数は年々増えているだろうな」。
ゴリラ隊員は苦虫を嚙み潰したよう様な表情を浮かべながら自身の頭を掻いた。
「それもそうですが、気になるのは山脈に潜伏している賊団ですよね~。この間ソイ=ソース共和国軍隊長から“アルマンダイト”が複数匹生息してる地域に一攫千金を目論んで、賊団やハンターが山脈の中心部に潜んでるという情報を聞いていたと思います。奴等は山脈にずっと滞在していると思うので相当の猛者が潜んでいると考察します」。
「ふむ...」。
ハリガネとゴリラ隊員はそう言葉を交わし、神妙な面持ちでテーブルに広げられた資料を眺めていた。
「人数的にも“アルマンダイト”と真っ向でやり合うのは無理です。トラップや薬品を用いて、軍で構成したような組織的戦術でいきたいですが...。それには...」。
「やはり隊員の人数が少ない過ぎるし、山脈でテリトリーを張っている賊人やハンターの存在が気になるな」。
ゴリラ隊員がそう言うと、ハリガネは小さく頷いた。
「う~ん、薬の調合はしてますけど、“アルマンダイト”に対して脅威的な薬品兵器は作れてないですね~。そもそも、“アルマンダイト”みたいな凶暴魔獣に有効な化学兵器って王国や諸国でも現時点では開発されていないっすからね~」。
パルスは険しい表情で腕組みをしながら言った。
「支給してもらったトラップも大型魔獣専用で作られた動き封じの魔法陣ボードですけど、なんか物理攻撃で無理矢理破壊されそうだなぁ~。やはり、山脈の方まで移動せずに潜伏している賊団やノンスタンスの動向を把握しながら情報収集を今はするしかないっすね~」。
ハリガネがそう言うと、ゴリラ隊員は怪訝な面持ちで小首を傾げた。
「動向を把握しながら情報収集って、潜入捜査でもするのか? あのジューンとかいう遊び人と山脈の方まで偵察しに行くっていう事か? 」。
「いや、ちょっと俺に考えが...」。
ハリガネはそう答えながら、キッチンに置いてある数本の酒瓶に視線を向けた。
その酒はジューンが調達してきたものであった。