捕虜の幸せ
れ、恋愛ですか~?
そうっすね~。
まぁ、惚れた人は何人かいましたけど...。
俺は勇気が無いんで片思いでどれも終わっちゃいましたね~。
好きになった人?
メンバー...もあったし...。
まぁ...。色々...ね...。
~ノンスタンスのメンバー、オシイチ~
「とりあえず、三人はちょっと座ってくれ。聞きたい事があるんだ」。
ハリガネは空いている椅子を指を差し、彼女達に着席を促した。
「し、失礼します...」。
キュンが怖ず怖ずと椅子に腰をかけると、他の二人も続いて椅子に座った。
「それで、聞きたい事なんだけど...」。
ハリガネがそう切り出そうとした時...。
「何で私達が賊人に襲われてたかって事でしょ? 」。
ワンムーンがハリガネより先に本題を切り出した。
「え? 何で知ってんの? 読心術? 」。
驚いてそう聞き返すハリガネに対し、ワンムーンは心底呆れた様子で溜息をついた。
「何言ってんのよ。さっきまでその事について話してたじゃない? 」。
ワンムーンは両足と両腕を組み、やれやれといった感じで小さく首を横に振った。
「あ、そうだったな(脳筋野郎に鬼詰めされてすっかり記憶が飛んじゃってた)」。
「...ねぇ、ホワイト様~。こんなちんちくりんでポンコツっぽい人が、本当にデイ様やみんなが崇拝してるハリボテ様の実子なの~? 」。
「...あ? 」。
ワンムーンが怪訝な表情でホワイトにそう問いかけると、ハリガネは眉をひそめてこめかみに青筋を浮き立てせた。
「おい、テメー。今、俺をちんちくりんって言ったろ? 」。
「言ったわよ? だって事実じゃない。背が小さいんだし」。
ワンムーンは動じる事なくフンっと鼻を鳴らし、ハリガネを小馬鹿にした様な態度をとった。
「...んだと? 表出ろやコラ。本当に俺がポンコツかその目で確かめてみろや。そのチンケな魔法で俺を殺してみろよ。あと、仮に俺がちんちくりんなら、お前はドちびだ」。
「な、何ですってっっ!? 」。
「何だっつーんだッ!? コラァッ!! 」。
「ス、ストップっ!! ストップっ!! やめて下さいっ!! 二人共っ!!」。
「ワンムーンちゃんっ!! ダメよっ!! 」。
エキサイトして立ち上がったハリガネとワンムーンを、ヤマナカとキュンが慌てて二人の間に入ってなだめ始めた。
(勇者にとって身長の話は地雷なんだが...。何つーか...。どうも、この二人は同レベルのようだな...。実に滑稽だな...)。
ゴリラ隊員は呆れた表情で両腕を組んだまま、ハリガネとワンムーンによる低レベルな口喧嘩を静観していた。
「ふわぁ~! ...あっ! ゴリラさん! おはようございま~す! 」。
「おはようございま~す! 」。
昨晩、ゴリラ隊員に不意打ちを食らい、地面に倒れたまま放置されていたチャールズとフユカワが起き上がってゴリラ隊員に挨拶をした。
「おはようさん、昨日は大変だったなぁ~」。
ゴリラ隊員がそう挨拶すると、チャールズとフユカワは腑に落ちない様子で両腕を組みながら考える素振りを見せた。
「大変...ですか...? いやぁ~! 実は昨日収録してたと思うんですけど...。何か途中から記憶が無くて...」。
「フンッ! 当たり前だ。あのジューンとかいう男にインタビューしてる時、その流れで二人共ずっと飲まされてたからな。途中で潰れてそのまま寝ちまってたんだぞ? 覚えてないのか? 」。
ゴリラ隊員がそう問いかけると、二人は険しい表情でお互い顔を見合わせていた。
「いや、すいません...。覚えてないです。そうですか...。昨晩は私達そんな状態だったんですか...」。
「覚えていないか...。まぁ、仕方ないな。捕虜の女一人もあの通りダウンしたままだし、以後気を付けた方が良いな。...と言っても、さっき隊長が基地内での飲酒を禁止にしたから、今後その心配は無いんだけどな」。
ゴリラ隊員がチャールズとフユカワの記憶を意図的に改ざんしている時、事が収まったのかハリガネとワンムーンは納得のいかない様子ではあったがお互い席に着いていた。
「...それで、モッツァレラチーズ渓谷で賊人に襲われていたとウチの隊長から聞いたが、それはどうしてだ? てか、そもそも何で渓谷にいたんだ? 」。
すっかりヘソを曲げてしまったハリガネを横目で見ながら、ゴリラ隊員が代わりに彼女達へそう尋ねた。
「はい、私達はホワイト様側ではなく、デイ様が率いていらっしゃったグループで行動してました。でも、その時隠れていた場所にデイ様が戻って来なくなって...。私達も残されたメンバーとちょっと馴染めなくて...。それで、女性の私達四人は行く当てもなくて、しばらくさまよってたら賊人さん達に襲われてしまったところを隊長様や昨日のおじ様助けていただいたんです」。
(賊人さん...昨日のおじ様...)。
キュンの独特な言い回しに隊員達は違和感を覚えていた。
「...その襲ってきた賊人達とは敵対関係以前に面識はなかったんだな? 」。
「はい...。全然知らない人です...」。
キュンがそう答えると、ゴリラ隊員が小さく頷いた。
「たまたま遭遇したお前等を捕まえて、恐らくどっか諸国へ売り飛ばす気だったんだろうな。それからもう一つ、リーダーのデイ側についていたという事らしいが、お前等とデイはどんな関係だ? 」。
ゴリラ隊員がそう問いかけると、キュンはうつむき気味に立てた人差し指を自身の頬に添えて考える素振りを見せた。
「...実の兄の様な存在です」。
「実の兄...? 」。
眉をひそめてそう返すゴリラ隊員に、キュンは頷きながら話を続けた。
「私達はデイ様やホワイト様と同じく、それぞれの事情で国や親に捨てられたり、戦争で家族や居場所を失ってしまった孤児なんです。これは私の話になってしまうんですが、私の住んでた町が戦争で荒れ果ててしまったんです。私や当時一緒にいたお姉ちゃんは家族も家も失って途方に暮れていた時、ノンスタンスが町にやって来て生存者の救出や支援活動を行っていました。私達はそこでデイ様と出会って、もう帰る場所が無いと...悟られたのでしょうか...。デイ様に誘われてそのままノンスタンスと活動を共にする事になったんです。デイ様は私達にとても優しくて頼りになる本当のお兄ちゃんみたいでしたね...」。
「...で、お前等はその実の兄様に慕っていたデイと袂を分かつ程、当時のノンスタンスにとは反りが合わずに離れて今に至るというわけか...」。
「...」。
ゴリラ隊員は険しい表情を崩さずにそう言うと、先程まで顔を綻ばせてデイの話をしていたキュンの表情が徐々に心痛な面持ちに変わっていった。
ゴリラ隊長は依然として厳かな態度を崩さず、鋭い眼差しでキュンを見つめていた。
「ま、自分等が組織の人間達と何でそうなったかは俺達に関係ない...が」。
ジャキ...ッッ!!
今まで黙って聞いていたハリガネがそう話を切り出すと、身に着けていた拳銃を取り出してキュンの眉間に銃口を向けた。
「ち、ちょっとぉっっ!! 」。
「動くなッッ!! 撃つぞッッ!! 」。
ジャキ...ッッ!!
血相を変えて椅子から立ち上がったワンムーンに対し、ハリガネはもう片方の手で別の拳銃をすかさず取り出し彼女に銃口を向けた。
「...っっ!! 」。
ハリガネが声を張り上げてそう警告するとワンムーンは顔を引きつらせ、金縛りにあった様に自身の身体を静止させた。
そして、隅で固まっていたノンスタンスのメンバー達は一層怯えた様子でハリガネを見つめ、周囲に緊迫した空気が漂った。
「ノンスタンスの事情は俺達には関係ない。しかし、今のお前等はこの部隊の捕虜だ。そして、これだけは言っておくぞ。どんなにリーダーのデイに対して忠誠を誓っているとしても、俺達はデイを見つけ次第即刻殺す。なぜなら、奴も俺を狙ってるだろうからな...。まぁ、それはいいや。つまり、お前等が少しでも不審な行動をしていると俺達が判断した時は...覚悟しておくんだな」。
ハリガネは彼女達に銃口を向けたままそう忠告し、隅で固まっていたメンバーにも厳かな視線を向けた。
「そうだぞぉッ!! お前等ッ!! 分かってんだろうなッ!? 」。
「お前もだよ。死にたくなかったら戻れ」。
ハリガネは流れに便乗するローにも銃口を向けながらそう促した。
「ひぃっ!! すっ! すいませんでしたっ!! 」。
ローは逃げるようにメンバーが固まっている隅の方へと戻っていった。
「...」。
ハリガネに銃口を向けられたキュンは一瞬顔を恐怖で引きつらせたが、満面の笑みを浮かべて見つめ返した。
「...何がおかしいんだ」。
ハリガネは厳かな表情でキュンを睨み付けながらそう問いかけた。
「...嬉しいです」。
「嬉しい? 」。
ハリガネが怪訝な表情を浮かべてそう聞き返した時、笑顔を浮かべているキュンの両目から涙が頬を滴った。
「私...小さい頃に親を亡くしてずっとお姉ちゃんと一緒だったのに、そのお姉ちゃんも亡くなっちゃって...。結局、小さい頃から今に至るまで辛い思いをしたまま死んでいっちゃうのかなって思ってたんです...。でも、ここはみんなもいるし、美味しいご飯が食べられるし、暖かいお布団で眠れるし...」。
(本当は俺の布団だったんだけどな...)。
ハリガネは心の中でそう呟いていた。
「捕虜の身でおかしいとは思うんですけど...。今になってこれが幸せなのかなって...ぐすっ。そう思ったら...うっ! う...嬉しくてっ...っっ!! 」。
キュンはそう言い終えた途端、感極まりテーブルに顔を突っ伏して泣き崩れてしまった。
「...」。
そんなキュンの姿を皆としばらく眺めていたゴリラ隊員が険しい表情をしたまま何も言わず、ハリガネが構えている拳銃の銃口を自身の手で彼女達から地面へ方向をずらした。
「...」。
ハリガネは彼女達を一瞥し、神妙な面持ちでゴリラ隊員に視線を向けた。
「...」。
ゴリラ隊員も神妙な表情で一言も発さず、ハリガネを見つめたまま頷いた。
「...」。
そして、ハリガネは彼女達と隅にいたノンスタンスを再度一瞥し、無言を貫いたまま両手に握っている拳銃を元の位置に納めた。




