...何ででしょうね?
恋愛でっか?
いやぁ~! あまり縁が無かったですわ~!
その一方で、デイは人を振り向かせるカリスマ性がありましたからね~!
結構、メンバーの中でも好意を持っていた子は多かったみたいやな~!
羨ましいわ~! ホンマに~!
~ノンスタンス副頭領、白装束のホワイト~
「起きろッ!! 勇者ッ!! 朝だぞッ!! 」。
基地である洞穴の中。
ゴリラ隊員は声を張り上げ、地面に座り洞穴の壁にもたれかかって寝息を立てていたハリガネを起こしていた。
「ん...。あ、おはようございます。もう、交代ですか? 」。
「その前にやる事があんだろ? 」。
洞穴の入口で捕虜のメンバーを監視していたゴリラ隊員は地図を眺めながらそう言った。
「まぁ、そうですけど...。それよりも、やっぱりミイラ隊長とカッパ副隊長から貰ったマットレスとか枕とか使いましょうよ~。ただでさえ仮眠時間が短いのに、こんな岩壁に寄りかかって寝てたら腰を痛めちゃいますって~」。
ゴリラ隊員の近くで仮眠を取っていたハリガネは立ち上がり、背伸びをしながらそう言葉を返した。
「ほぉ~? お前は捕虜がいる場所で無防備のまま寝れるというのか? 永眠する事になっても知らないからな。兵士は常に警戒を怠ってはならん。ただでさえ俺達隊員は捕虜よりも人数が少ないんだ。しかも、このパルメザンチーズ山脈近くのチェダーチーズ山という危険区域に基地を敷いているんだから、もう少し隊長としての自覚を持てッ! お前の父親でもあり、我々の上官でもあらせられたハリボテ中佐も常に警戒心を忘れる事なく...」。
「...ぐぅぅぅ」。
ゴリラ隊員が力説しているのを余所に、ハリガネは再び壁に寄りかかり寝息を立て始めた。
「起きろっつってんだろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? 」。
ドゴォォォオオオオオオオオッッ!!
激高したゴリラ隊員は、ハリガネの頭に怒りの鉄鎚を食らわした。
「ぐぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお...っっ!? 」。
ゴリラ隊員に強烈な一撃を食らったハリガネは、激痛に耐えられず頭を抱えてその場にうずくまった。
突然の出来事に既に起きていた捕虜のメンバー達は、困惑した表情で二人を見つめていた。
「痛ってぇ~! そんなバカスカ人を殴らないでくださいよ~! 」。
ハリガネは苦悶の表情を浮かべ、自身の頭を擦りながらゴリラ隊員にそう苦言を呈した。
「フンッ! お前がいつまでも間の抜けた行動ばかりしているからだ。本当に死んでも知らんからな? まぁ、亡骸をそのまま埋めて銃か剣を突き立てるくらいはしてやってもいいけどな」。
「御気遣いいただきありがとうございます...」。
ハリガネが皮肉交じりにそう返すと、魔法陣を通ってきたヤマナカが二人の方へやって来た。
「外は異常無しでありますっ! 」。
ヤマナカは敬礼しながらそう報告をした。
「む...御苦労! それじゃあ、始めるとするか」。
ゴリラ隊員はそう促しながらハリガネとヤマナカと共にテーブル席に集合した。
「皆さん、おはようございま~す! 」。
隊員のパルスとシアターは既に席に着いていた。
「うぃ~す、それじゃあ朝礼始めま~す。え~と、今日のスケジュールを...」。
ハリガネが頭を掻きながら今日の予定を確認しようとした時...。
ドゴォォォオオオオオオオオッッ!!
ゴリラ隊員に再び鉄鎚を食らった。
「ぐぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお...っっ!? 」。
ハリガネは激痛のあまり地面にのたうち回った。
「昨日も言ったろうがぁッッ!! 朝礼の前にまず点呼を取れぇッッ!! この愚か者がぁッッ!! 」。
「いちちち...。いや、点呼は省略していいでしょうっ!? 隊員少ないんだし、誰がいて誰がいないなんてすぐ分かるでしょうがっ! 」。
ハリガネは頭を擦りながらゴリラ隊員に反論した。
「何でもかんでも楽しようとするんじゃないッッ!! 無法地帯で生活しているのだぞッッ!? お前は隊長としての自覚が足りなすぎるッッ!! 」。
「いや、要領が良いと言って下さ...」。
「口答えするなぁッッ!! 」。
ドゴォォォオオオオオオオオッッ!!
「痛ッッてぇッッ!! 」。
ゴリラ隊員の逆鱗に触れたハリガネは、またしても拳骨を食らうのであった。
(クッソぉぉッッ!! 何だよぉッッ!! この人はッッ!! いちいち人を殴らねぇと会話ができねぇのかよッッ!? 理不尽にも程があんだろぉッッ!! )。
ハリガネは内心そう憤慨しながら涙目で痛みを堪えつつ、勝手に点呼を取り出すゴリラ隊員を睨み付けていた。
「むっ...!? あの男は外に出たのかっ? 」。
ゴリラ隊員は辺りを見回しながらジューンを探していた。
「はっ! ジューンさんはちょっと朝の散歩してくるとおっしゃられて、そのまま山を下っていきましたっ! 」。
ヤマナカがそう答えると、ゴリラ隊員は怪訝な表情を浮かべて小首を傾げた。
「うーむ、やはりあの男の行動が読めんな...。くれぐれも警戒は怠るなよ? 」。
「はっ! 」。
ヤマナカがそう応答した時、ローがハリガネ達の下へやって来た。
「捕虜の方も異常無しでありますっ! 」。
ローはハリガネ達に敬礼しながらそう答えた。
ジャキッ...!!
ゴリラ隊長はすかさず装備していたアサルトライフルの銃口をローの胸元に向けた。
「ひぃっっ!? 」。
「おいッ!! 貴様ッ!! 捕虜の分際で余計な行動をしていると、どうなるか分かってんだろうなッ!? 」。
ゴリラ隊員の威嚇行為で基地内は一気に緊迫した雰囲気に包まれた。
...ただ一部を除いて。
「き、気持ち悪い...」。
昨晩の深酒ですっかり二日酔いになってしまったアネックスは、その場に座り込みうずくまっていた。
「アネックスちゃん、大丈夫? 」。
ワンムーンとマーシュは困惑した様子でアネックスの背中を擦っていた。
「む...? もう一人は...? 」。
「隅っこの方でまだ寝てますけど...」。
ホワイトはゴリラ隊長にそう答えると、隅で布団に包まって眠り続けているキュンに視線を向けた。
「...しばらく放っておけ」。
ゴリラ隊長は眠っているキュンを一瞥し、ローをメンバーが固まっている場所へ戻るよう促した。
(それ俺の布団、それ俺のマットレス、それ俺の枕...。支給された寝具まだ使ってなかったのに...。つーか、捕虜の方がしっかりと眠れる時間と環境があるってどういうこったよ? )。
ハリガネは悲しげな表情を浮かべて熟睡しているキュンを見つめていた。
「ほれッ! 隊長ッ! 朝礼だッ! 」。
ゴリラ隊長はやや悲観的になっていたハリガネの背中を軽く叩き、朝礼を始めるよう促した。
「えと...」。
隊員がテーブル席に着いたのを確認すると、ハリガネは険しい表情を浮かべて両腕を組みながら頭の中で話す事を整理していた。
捕虜のノンスタンスメンバー達は隅でハリガネ達を静かに見守っていた。
「えと...。まずは昨日起きた出来事ですが、私はあのジューンとかいう遊び人にハメられ、ブルーチーズ川ではなくブルーチーズ湖へ向かう事になってしまいました。結局、ブルーチーズ湖に向かう事はかなわなかったのですが、その手前のモッツァレラチーズ渓谷でノンスタンスのメンバーである彼女達が賊人に襲撃されていたところを目撃しました。そして、その遊び人と彼女達を救出した後、パルメザンチーズ山脈から下りてきた“アルマンダイト”に遭遇しました。その“アルマンダイト”は比較的に小柄で鱗もオレンジだったので幼獣であったと推測します。よって、昨日の体験から考察して湖付近には賊人や凶暴な魔獣が生息している事が濃厚なので、現時点ではなるべく基地から出ずに周囲の状況を静観する事が適切でしょう」。
隊員達がハリガネの話を頷きながら聞いている一方、腑に落ちない様子で両腕を組みながらハリガネを見つめる隊員が一人。
「まず、気になっている事が二つある。何で彼女達は賊人に襲われていたんだ? そして、何でお前はその彼女達をこの基地に連れて戻ってきたんだ? 」。
ゴリラ隊長が厳かな口調でハリガネにそう問いかけた。
「...」。
ハリガネは神妙な面持ちで彼女達を一瞥し、口を真一文字に結んだまま鋭い眼差しで隊員達を見回した。
「...」。
しばらく基地内は沈黙が続き、緊迫した空気が漂っていた。
「...」。
そんな中、ハリガネがその重い口をゆっくりと開いた。
「...何ででしょうね? 」。




