ハードという男
ちょっ!! ちょっと待ってよっ!!
話を聞いてくれよぉ~!!
恋バナだったら山ほどあるんだよぉ~!!
そうだな~!
まずは手始めにソルト国出身の令嬢との恋...えっ!?
あっ!!
ち、ちょっとっ!!
待ってよっ!!
少しは話を聞いてくれたっていいだろぉ~!?
~さすらいの遊び人、ジューン~
苦虫を嚙み潰したような面持ちのホワイトは、その重い口を開いて更に話を続けた。
「ハードは僕達と同じ施設出身の人間だったんです。歳は僕やデイより一回り上だったんですけど、ハードも僕等と一緒に刑務所から職場まで境遇を共にしてきて家族同然の存在でした。そのハードも国外へ逃げてノンスタンスとして僕等と共に活動していました」。
「ふむ...。そのハードというメンバーはノンスタンスではどういった立ち位置だったのかな? 」。
ジューンはペンを走らせながらホワイトに問いかけた。
「基本、デイと同じく行動派のメンバーでした。デイよりも武闘派で、抗争が起きた時でも先陣を切って突っ込んでいく奴だったんですよ。血の気が荒くて暑苦しいんですけど、真っ直ぐで正義感強くて仲間思いで...。でも頑固で義理堅い男でしたね...」。
ホワイトは懐かしさを嚙み締めるように顔を少し綻ばせた。
「先陣を切って...」。
「突っ込んでいく奴...」。
そんな中、ハリガネとゴリラ隊員は二人共お互いの顔を見合わせ、怪訝な面持ちを浮かべていた。
「どうしたの? 勇者君とゴリラさん? 」。
そんな二人の様子を見ていたジューンが問いかけた。
「いや、その...。ハードって奴、もしかしてグレネードとか爆発物をよく使ってなかった...? 何でかは知らねぇけど、腰振ったり変な奇声を発しながらグレネードとかバズーカ砲を使ってきたりとか...」。
ハリガネがそう言うと、ホワイトは力強く何度も頷いた。
「そ、そうですっ! 腰を振ってたかは...ちょっと覚えてませんが爆発物の使い手ではありましたっ! あれ? ハードと面識があったんですか? 」。
ホワイトがそう問いかけると、ハリガネとゴリラ隊員は納得した表情を浮かべて頷いた。
「兵士だった時に出くわしたと思うわ。体格良くて背が高くて、『フゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウゥゥゥッッッ!!! 』って奇声発しながらダイナマイトやらグレネードやら狂ったように投げまくってた奴。そうか、アイツの名前ハードっていうのか...。王国内の領域にノンスタンスが頻繁に侵入してきた時、アイツが拡声器使って何か叫びながら兵器ぶっ飛ばしてきたのは覚えてる。何を言ってたかは分からなかったけど」。
「俺は覚えてるぞ。『ミーはハードな男狂いデースッッ!! そこにいる小っちゃなボーイッッ!! ミーと一緒に戦いを通じて愛の迷宮に迷い込みましょう~!! フゥゥゥゥウウウウウウウウウッッッ!!! 』って求愛してたぞ? 」。
「誰にです? 」。
「お前に」。
「...」。
ゴリラ隊員に指を差されたハリガネは、顔を曇らせたまま何も言わずにうつむいた。
「あ、ハードはよくハリガ...救世主様の事を『何とか軍からノンスタンスの方へ引き抜けないかな? 』とか言ってました」。
「何でよ? あと、救世主様はやめてくれ」。
「彼氏にしたいって言ってました」。
「...(聞くんじゃなかった)」。
ハリガネはしかめっ面で再び黙りこくった。
「...それで、そのハードっていう初期のメンバーは今はどうしてるのかな? 」。
ジューンがそう話を切り出すと、メンバーの周りに重苦しい雰囲気が更に漂った。
「...三年前、敵対していた賊団の人間に殺されました」。
「...殺された? 」。
ジューンは眉をひそめて聞き返した。
「この時からノンスタンスは既に諸国や敵対している賊団に追われる身となっていて、生活も大分苦しくなっていました。そんな中、デイが組織の武装強化を努める一方、ハードは僕達と同じく組織の安全確保を優先すべきだと主張してデイの暴走を止める役割を担っていました。ハードは組織内において対等にデイに意見できる数少ない人間でした。そういうデイとの立場関係もあって、ハードはノンスタンスの仲間達にも実の兄の様に慕われており絶対的な信頼を得ていました」。
「そんな兄貴分がどうして死ななければいけなかったんだい? 」。
ジューンがそう問いかけると、ホワイトは溜息をつき落胆した。
「ノンスタンスは経済状況だけでなく、大規模の賊団からも狙われていました。これ以上戦い続けたら犠牲者を出し続けてノンスタンスが崩壊すると考えたハードは、数人を引き連れてその賊団の幹部と交渉を試みたんです。そして、敵対心がノンスタンスには無いという事を主張するために...。しかし、交渉は失敗に終わりハードや他の仲間達はその賊団の連中に殺されてしまいました。何だかんだ衝突はしていましたが、デイとハードは幼い頃から苦楽を共にした家族同然の関係でしたからね。ノンスタンスの良心的存在であったハードを失ってから、デイの武力行使はより一層過激さを増していきました。ハードの死がノンスタンスの崩壊の始まりだったのかもしれません...」。
ホワイトがそう言い終え、再び深い溜息をついた時...。
「...うっっ! うぅ...っっ!! 」。
突如、キュンが両手で顔を覆い嗚咽を漏らし始めた。
「キュンちゃんっ! 」。
ワンムーンとマーシュは悲痛な表情を浮かべながら号泣するキュンに寄り添った。
「...ハードはキュンちゃんのお姉さんと恋人関係だったんです。ノンスタンスの組織事情が落ち着いてきたら結婚しようと約束もしていたようです。でも、ハードは殺され...。そして、恋人のお姉さんも間もなく...」。
ホワイトはそう言って大きくうなだれた。
「...」。
他のメンバー達はワンムーンとマーシュに抱きしめられたままむせび泣くキュンを暗い表情で見つめていた。
「うーんっ! 反社会的勢力集団ノンスタンスに隠された悲しみと深い闇っ! そして美女の涙っ! うーんっ! 視聴率八割越え待ったなしだっ! おいっ! フユカワっ! ちゃんと録っておけよっ! 」。
「へいっ! 」。
チャールズとフユカワが場をわきまえず嬉々として収録していた時...。
ドスッ!! バスッ!!
「ぬぉ...っっ!? 」。
「ぐぁ...っっ!! 」。
ゴリラ隊員が素早く二人の背後へと回り込み、手刀による不意打ちで失神させた。
「...今日はこの辺にしておこうか」。
ジューンは神妙な面持ちのまま、呟く様にそう言った。
「うむ...」。
ゴリラ隊員も険しい表情を保ったまま、静かに泣き続けるキュンをメンバーと同じく見つめていた。
「...」。
神妙な面持ちで沈黙を保ち続けていたハリガネ。
その反面、心の中では今は亡きハードに対してこう思っていた。
(何だよアイツっ! 全然男狂いじゃなかったじゃんっ! )。