争いと犠牲によって生み出されたノンスタンス
好きなタイプ...ですか?
そうですね~、家庭的で穏やかな人が良いですね~。
え? 普通過ぎ?
でも、何だかんだで普通が一番なんじゃないでしょうかね~。
~討伐部隊“勇者”シアター=アローン隊員~
「そこの職場は先輩や上司も良い人達でご飯も社食で生活には全然苦労はしなかったんですけど、役員や従業員のほぼ全員がデモ活動に熱心な方達だったんですよね。ノンスタンスが諸国に対して社会的困窮者の救済を訴えてながら活動していくルーツとなったのはそこの職場でした」。
「デモ活動か...。ポンズ王国は階級社会だから、保障とか王国からの待遇とか庶民と上流階級にかなりの差があるもんね~。一般労働者は下級階級だし、中小企業の役員も会社経営とか雇用者管理とか色々と大変だからね~! 国王政治や貴族制度の撤廃と、民主国家実現の運動は今でも庶民の間では活発的に行われているよね~」。
ジューンがホワイトにそう相槌を打つと、ハリガネは不思議な様子で小首を傾げた。
「さっきから引っ掛かってたんだけどさ、無期懲役から二年に減刑されるって相当じゃね? 殺人罪だろ? それも集団による複数人殺害だし」。
ハリガネがそう言うと、ジューンは手帳を数回めくってそのページを凝視した。
「恩赦は国王によるのもみたいで当時の発言もしっかりと資料に残っているよ。ホワイト君達が収監された一か月後に、『民を惑わすカルト教団の手先を殺した少年達はえらいっ! 』って王様が独断で決めちゃったんだよ。しかも、王様はそれを会見で言っちゃってさ~。激怒した教団の抗議運動が凄まじかったのは覚えてるなあ~! 」。
「命を助けてもらった自分がこんな事を言うのもアレだけど...。あの王様は本当にどうしようもないな...」。
ハリガネは呆れた表情を浮かべて溜息をついた。
「はははっ!! おっと話が少し逸れてしまったね! それで、ホワイト君達も職場仲間と一緒にデモ活動に参加してたの? 」。
「はい...。施設出身の仲間達が多かった事もあって、自分達の生い立ちが同じ孤児の支援活動や階級社会による身分差別の改善と民主化運動を行ってました」。
ホワイトがそう答えると、ハリガネは再び怪訝な面持ちで小首を傾げた。
「う~ん、生い立ちを知れば知るほどなんか色々と矛盾してないか? 王様の恩赦で刑務所から出られたのに、反王国体制の民主化運動に参加したり...。教団の修道士を殺害した殺人犯が孤児の支援活動してたり...」。
「確かにその通りだと思います。まず民主化運動に関しては先程も触れましたが、階級社会の改善による社会的困窮者の救済や社会保障の充実化が目的ですね。ただ、僕等は王国の民主主義国家実現を国王や政府に訴えているわけであって、国王の存在そのものを否定しているわけではなく恩赦の件もありますので王政国家撤廃運動には参加していません。そして、僕等みたいな境遇にいる孤児を支援し救済したかった。この思いに偽りは決してありません。しかし、いかなる理由があろうとも自分達は人を殺めてしまった。デイは...分かりませんが、僕はその事実を正当化しようとは思いません。特にノンスタンスを結成してからは、それが活発になっていくわけですけど...」。
ホワイトはそう答えると大きくうなだれて溜息をついた。
「まぁ、君達が理不尽な扱いを受けていたとはいえ、殺人事件を起こしてしまったし...。王様が下した恩赦による減刑もそうだけど、釈放された後も君達に対する教団からの抗議が凄かったんじゃない? 」。
ジューンがそう問いかけるとホワイトは首を小さく横に振った。
「いえ...。釈放後、弁護士を介して僕等が教団に賠償金を支払い続ける形で示談になりました。なので、その件に関しては一応収束した...はずなんですけど...」。
ホワイトはそう言うと、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて言葉を詰まらせた。
「...? どうしたんだい? またデイが教団とやり合ったのかい? 」。
ジューンが苦笑しながらそう問うと、案の定ホワイトはげんなりとした表情を浮かべて大きく頷いた。
「...はい。僕等と教団はそこで手打ちとなったはずなんですけど、教団の中では納得のいかない人達もいたようです。それで一部の修道士や平民の信徒が僕等を拉致するために、職場へ襲撃してきた事があったんです」。
「最早、教団に従事してる奴のやる事じゃねーな。てか、何で一部の教団関係者がお前等を拉致しようとしたのさ? 」。
ハリガネがそうホワイトに問いかけた。
「襲撃してきた教団関係者は殺人を起こした僕等に終身刑を望んでいました」。
「死刑じゃなくて? ...あ、そうか」。
ハリガネが続けてそう問いかけた時、ある事に気付いた。
「思い出されたかもしれませんが、ポンズ神の教えでは怨念や殺意は悪魔の感情と伝えられていますからね。それで、望んでいた終身刑が通らなかったという事で彼等は方針を変えました。今度は釈放された僕等を教団に連れ戻し、今後は修道士として罪と向き合わせて過ごさせるつもりだったらしいです」。
「それで、教団はお前達に襲撃したり拉致しようとしていたのか? でも、それは犯罪だろ? 一部とはいえ、教団側がそんな事したらまずいんじゃないのか...? 何か同志を殺したお前等に対しての敵討ちにしか聞こえんな」。
ゴリラ隊員が怪訝な面持ちでホワイトにそう問いかけた。
「まぁ、それも立派な犯罪なんですけどね...。ただ、彼等からしたらポンズ神の教えの下で僕達を導き、自分達を改心させて共に平和な世界を築いていこうという事だったらしいです」。
ホワイトがそう答えると、ゴリラ隊員は失笑を漏らした。
「平和な世界...ね。つーか、それ改心じゃなくて洗脳の間違えじゃないのか? 国王陛下が教団をカルト呼ばわりしている事に関しては、あながち失言だったというわけでもなさそうだな」。
「ポンズ神の教えを自分達に都合良く解釈してたって感じだね。王国の教信者はほぼポンズ教が割合を占めているんだけど、様々な改革運動を経て教派が複数に分かれているんだよね~。特に最近は国王の暴走が多くて国民への信頼がだだ下がりだから、過激派って言われてる教団の一派がちょくちょく王国内で問題を起こしてるね~。もちろん、正統派は武力行使なんかしないんだけどね~」。
「陛下もアレで、教団の一部もソレなのか。世も末だな...。まぁ、王国から追放された俺達にはしばらくは関係ない事だが...」。
ジューンがホワイトの言葉に補足してそう説明すると、ゴリラ隊員は呆れた表情を浮かべてガックリとうなだれた。
「そんな王国のために俺達は諸国や国賊と戦い続け、結果的に追い出されたんですよね。笑っちゃいますよね~、ホント」。
「笑え...」。
「それで、その過激派なのかは分からんけどデイがその教団の連中とひと悶着やらかしたって事? 」。
ハリガネは『笑えるかッ!! 』というゴリラ隊員がぶっきらぼうに言い放った言葉を、半ば強引に遮るようホワイトに問いかけた。
「はい...。教団側が職場である会社に魔法で攻撃してきたり物を投げ込んだりと武力行使を仕掛けてきたんです。僕や職場の人間達は抵抗しながら警察に通報して、兵士が向かってくるのを待ってました...。でも、デイは籠城でしていた僕等とは対照的に複数の仲間を従えて教団と抗争を始めてしもうたんです...」。
「あらら」。
ハリガネは肩をすくめ、呆れ気味に首を小さく横に振った。
「確か...。それは教団が民間会社に武力攻撃を行使したという事件として、当時としては非常にショッキングな出来事だったんだよね~。あの事件は教団のイメージを一気に下げたなぁ~」。
ジューンがそう言いながら、持っていた手帳をめくってその出来事を記録したページを探していた。
「...あ、俺思い出したわ。当時の俺はケチャップ国へ侵攻してたから、情報のみが現地で届いていたが...。教団の一派が民間に武力行使を起こしたという事で、王国内の状況次第では撤退し暴動の鎮静化のために急遽帰還する事もありうるなんて本部から連絡があってな。何で教団が暴徒化したのかと隊員達と話していたよ。しかも、教団の矛先が民間人だからな~。まぁ、しばらくして帰隊したら事態は沈静化していたがな」。
ゴリラ隊長は両腕を組んで明後日の方向を見つめながら、当時の事を思い出していた。
「...あっ! あった! これだっ! 」。
ジューンは手帳をめくったページの箇所を凝視した。
「ホワイト君達が勤めていた会社は修道士,一般信徒を含めた五十人近くの教団関係者に襲撃を受けた。対して社内に避難していたはずの会社員三十人近くが、建物から姿を現し教団の関係者と抗争を勃発。その後は現場へ出動してきた憲兵と特殊治安部隊の王国兵士が、教団側と会社側双方の当事者を検挙し抗争は終結した。教団側が負傷者を出した一方、会社側は負傷者だけでなく四名の死亡者を出してしまった。そして、その抗争を起こした会社側の中心人物こそが、教団と因縁関係にあったデイであったと...。おそらく...“この時”からだったのかな? 」。
ジューンがそう問うと、ホワイトは小さく頷いた。
「間違いないと思います...。教団との抗争でノンスタンスが生まれたんです...」。
ホワイトはうつむきながら力なくジューンにそう答えた。




