絶望の中で得た居場所
え?? 恋愛??
あぁ~! 僕は独身だけど、父上がよく見合いさせたがってたなぁ~!
御見合い相手は企業の令嬢や同じ女性貴族とか色々紹介されたもんだよ~。
まぁ、バックレたんだけどね~!
~討伐部隊“勇者”パルス=イン八世隊員~
基地内では皆がホワイトの話に耳を傾けており、周囲にピリピリとした緊張感が漂っていた。
「デイが施設長さんや数人の修道士を殺した...。それは、施設での厳しい生活と修道院の人間との衝突で、デイの中に積み重なっていた憎悪が一気に爆発してしまったという事なのかな? 」。
ジューンがそう言うと、ホワイトは小さく頷いて話を続けた。
「はい...。そうだと思います。施設にいる修道士も修道女も厳しかったんですが、特に問題を起こしていた僕等への風当たりが強かったですからね。だから、僕等と施設の職員との関係は最悪でしたね。...まぁ、今思えば冷たい感じの態度で接されても当たり前だと思うんですけど...。先程ジューンさんがおっしゃっておりましたが、原則は二十代未満の未成年者は成年になるまで施設を退所する事は出来ません。ですが、就職した後に住み込み労働や寮等で住居を自身で確保する事が可能であれば、それは自立したとみなされて二十歳未満でも施設を出る事ができます。あと、養子縁組によって親子関係が成立すれば退所が可能ですし...。ですから、僕等も早く自立して施設から出たかったのですがねぇ...」。
「それで問題を起こし過ぎて養子はおろか、就職先も見つからなかったって事か...」。
ジューンが腕組みをしながら呟く様にそう言った。
「はい...。だからもう、修道院で修道士として従事という道しか無いのですが...。ただでさえ、修道院の人間との関係は最悪なのにそんな環境下で生活はしていきたくなかったんですよね。修道士になっても成人になれば院を出ていける機会があるので、その時まで我慢しようって一緒に問題を起こしてきた仲間達と話してたんですが...」。
ホワイトは話の途中で口をつぐみ溜息をついた。
「話の流れからして、デイが納得しなかったって事かな? しかし、そんなに修道士達からの評判が悪いんじゃあ、修道院の方もお断りされそうなんだけど...」。
ジューンが手帳で証言を記録しながらそう言うと、ホワイトは再び溜息をついてうなだれた。
「もちろん、ほとんどの修道士達や修道女達が僕等の入道を反対していました。まぁ、僕等も入る気は全くなかったわけで、そのまま院から追い出してくれるかなと思ったのですが...。それはポンズ神の教えや規律に反するという事と、追い出された僕等が犯罪を起こして修道院や教団が王国から問題視される事を恐れもあったという事で僕等を更生させるためには入道させた方が良いと施設側が判断したんでしょう。最終的に、僕等は修道院へ入道する事がほぼ決まってました。そして、ジューンさんもおっしゃった通り、デイがその事を受け入れませんでした。僕等もデイを説得したのですが結局折れませんでした。そして、入道が一週間前に差し掛かった日の夜...」。
話を続けるホワイトの表情が更に曇っていった。
「僕やデイ、一緒に問題を起こしていた仲間三人と施設長室に呼ばれました。話の内容は修道士として従事していくための契約手続きでした。僕や他の仲間達は渋々受けましたが、デイはずっと抵抗していました。最初は説得のような感じだったんですけど、次第に口論みたいになってしまって...。それで、傍にいた修道士がデイを罰を受けるための部屋へ連れて行こうとした時、懐から拳銃を取り出して施設長に向けて発砲したんです。その後、僕や仲間達も衝動的にデイを取り押さえようとした修道士を妨害して、デイも室内にいる修道士を続けて射撃してしまったんですよ。その後、僕等は窓から施設を逃げ出したみたいなんですけど...。もうそこからはパニックになってるし、記憶が飛んじゃってほとんど覚えてません。気付いたら王国兵士に捕まってましたわ...」。
「デイが拳銃を...? もしかして、施設を脱走して既に反社との関りがあったわけ? 」。
ジューンがそう問うと、ホワイトは何度か首を小さく横に振った。
「いえ...。これは後々にデイから聞いたんですが、その日デイは施設長室へ呼ばれる前に外の庭にいたらしいんですよ。その時、たまたま庭に通りかかった来客らしき人物からもらったと言っていました。これも後々分かった事なんですが拳銃はソイ=ソース国製の物だったらしく、王国の人間ではなく異邦人からもらったのではないかと考えられますけど...。確かな事は分かっていません...。本人もその事をあまり話したくないみたいで、僕がその事に関して知っているのはこれだけです...」。
ホワイトがそう答えると、ジューンは顎鬚を撫でながら唸り声を上げて考え込んだ。
「ふむ...。その人がどうしてデイに拳銃を渡したのか気になるけど、真相は謎のままか...。俺もノンスタンス関連の事だから君達が起こした事件もちょっと調べさせてもらったよ。その後、施設から逃亡したデイやホワイト君達は緊急出動した特殊治安部隊の王国兵士に身柄を拘束され、後に少年刑務所へ収監される事となった。裁判中、ホワイト君や仲間達は修道士になる事を拒んだ上で施設を脱走するための組織的な犯行であり、集団で施設長やその場に居合わせていた職員を殺害したと供述してデイを擁護した。結局、集団的犯行とみなされて君達には無期懲役の判決が下ったが、後に国王の恩赦で二年の懲役に減刑された...と。それで、その後はデイや仲間達と一緒に釈放されるわけだけど、その時の身元引受人は施設の関係者じゃなかったんだよね? 」。
ジューンが手帳を見返しながらそう問うと、ホワイトは何度か小さく頷いた。
「はい、服役中に刑務作業があるじゃないですか。自分達は施設にいた時とは違って刑務所では大人しく真面目に作業とかしてたんで、刑務作業のために来ていた業者さんから見て僕等は好印象だったんですよね。それで、そこの業者の下で働いていた施設出身の仲間達が面会にも来てくれていたんです、そういった縁も重なってその仲間達が僕等の身元引受人になってくれたんです」。
「ふむ...。それで経緯はともかく、君達は施設から自立したという事になるね。でも、刑務所へ収監されてからの流れだとデイや君達は良い感じで更生に向かっている気がするんだけど...。それで、君達は金属加工の事業を営んでいる会社に就職するという事だね? 」。
「はい...。僕とデイは釈放された仲間達と共に職場の空き部屋を借りて共同生活を始めながら、そこの職場で働いていました。もう、施設にいる時なんかよりも断然居心地が良かったですね」。
嬉々としてそう話すホワイトを、ジューンは冷静な表情で見つめていた。
「なるほどね...。それで、そこからどういった流れでノンスタンスが生まれていくのかな? 」。
「...」。
ホワイトは明るい表情から一変し、神妙な面持ちでゆっくりと口を開いた。




