表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/104

ゴーダチーズ丘にて


ん~? 王国軍の対魔獣危機管理局ってどんな機関なのかって?


まぁ~、凶暴な魔獣ともなると王国への危害も及ぶかもしれないからね~。


それで、名前の通り魔獣の捕獲や撃退のため日々分析や研究等をしている機関さ~。


ん? “アルマンダイト”??


う~ん、あの怪物に関してはあまりデータが収集できてなくてね~。


ああいう凶暴な魔獣に関する討伐遠征も、もう基本的に認められなくなっちゃてね~。


いや、危ないからね~。


だから、今回はチャンスだと思ったんだよね~!



~討伐部隊“勇者”パルス=イン八世隊員~





夕暮れ時となり、辺り一面はすっかりオレンジ色に染まっていた。


ハリガネ達は平坦な荒野とは異なり、傾斜が緩やかな地を歩いていた。


「地図の通りだったら、あれがチェダーチーズ山だな」。


ゴリラ隊員は遠方に見える山奥を指差した。


「もう日が沈んでしまいますし、やっぱりこのゴーダチーズ丘で一晩過ごすしかないですね~」。


ハリガネはそう言って辿り着いた丘を見渡した。


枯れ木や岩の他に目立った物が無かった荒野とは違い、ゴーダチーズ丘には所々に緑色の植物が生えていた。


「ふむ...。ゴーダチーズ丘は巨大な岩があるから、それを防壁代わりにして近くにテントを張る事にしよう。そこで今日は一夜を過ごした方が良さそうだな」。


「そうですね...ん? 」。


「隊長っ! このくらいの大きさの岩は至る所にありますっ! この岩でテントと荷車を囲んで拠点を作りましょうっ! 」。


ゴォオンッッ!!


ヤマナカは高さ三メートル程の巨大な岩を背負い、荷車の周りにそれらを置いていた。


「お、おいおいっ! やめろっ! 怪我するぞっ!? ただでさえ傾いてる不安定な丘にいるんだからっ! 」。


「何のこれしきっ! 大した事ないでありますっ! 」。


ドゴォオンッッ!!


ヤマナカはハリガネにそう答えると、巨大な岩を軽やかに持ち上げてテンポ良く荷車の周りに置いていった。


「“筋肉”、あまり気負い過ぎるなよ? ここから先が長いんだからな。あまりここで体力を使うな」。


ゴリラ隊員は両腕を組みながら、せっせと岩を運んでいくヤマナカを静観しつつそう声をかけた。


ちなみに、皆は忘れているかもしれないが“筋肉”とは、王国兵士時代にヤマナカが同僚達から呼ばれていたニックネームである。


「いえっ!! ご心配なくっ!! 私っ!! ヤマナカの精神と身体は疲れを感じるどころか燃え上がっておりますっ!! これからどんな試練が我々を待ち受けているのでしょうかっ!? うぉぉぉぉおおおおおおおッッッ!!! 身体中が燃えたぎるぅぅぅぅううううううううううううううッッッ!!! 覚悟しろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッッッ!!! “アルマンダイト”ォォォォオオオオオオオオオオオッッッ!!! 」。


ヤマナカは荒野の中を全速力で荷車を牽きながら駆け出した時と同様、ダイナミックに巨大な岩を周りに並べ始めた。


「コイツは軍を抜けても相変わらずだな...。ん? そういえば、長官は何処だ? 」。


「あれ? さっきまで近くにいたはず...あっ! 」。


ハリガネが辺りを見回していた時、パルスとシアターは野草の生えている場所にしゃがみこんでいた。


「長...パルスさん。何してるんですか? 」。


「え? ああ、ほら。ここに傷を癒す効力のある“サンポ”があるじゃないっすか~」。


パルスは緑色で渦巻きの形をした野草を指差した。


「あ、本当だ。こんなところに薬草がたくさん生えてますね~」。


「でしょ? あと、これは疲労回復に役立つ“カゼノトオリミチ”だね~。この辺はパルメザンチーズ山脈方向だから基本的に人が立ち寄らないし草食系魔獣もここにはあまり立ち寄らないみたいだから、ここら辺は薬草がそのまま生えっぱなしになってるみたいだね~。これを序盤から採取できるのはかなり大きいな~」。


パルスはそう言いながらシアターと野草を摘み始めた。


「ほう~、薬草採集ですか~。これだけ生えていると傷の治療にも役立ちますな~」。


ゴリラ隊員は近くに生えている野草を摘み、それを眺めながら頷いていた。


「でしょ? これだけあれば薬を調合する分はしっかり確保できますしね~」。


「え? パルスさんは薬の調合もされるんですか? 」。


ハリガネがそう問いかけると、パルスは怪訝な表情を浮かべた。


「まぁ、俺は調合できるよ。てか、隊長達は薬の調合しないの? 」。


「ええ、戦時中には携帯していた医療薬とか周囲に衛生兵もいたので、基本的に自分で薬を調合する事はなかったですね~。まぁ、自分もある程度は植物の知識があると思っていますけど、調合とか専門的なところまではしないですね~。それに戦闘中でそんな調合する余裕が無いし...」。


「自分達の場合は薬草が生えていたらむしり取って、食べるなり傷口に擦りつけるなりして利用してるよな~」。


「そうですよね~。本当に応急処置みたいな感じで」。


ハリガネとゴリラ隊員がそんな言葉を交わしていると、パルスは困惑した様子で二人を見ていた。


「えぇっ...!? ってことは、生のまま使ってるのぉ!? 」。


「ええ、まぁ...」。


ハリガネがそう答えると、パルスは呆れた表情を浮かべながら肩をすくめた。


「何だ~い! そりゃあ~! 通じゃないなぁ~! 」。


「つ、通...? 」。


「生のままでも効力はあるけどさぁ~。薬草に他の物質と組み合わせてちゃんと調合した方がより効果が発揮されるんですよ~? 薬品は調達してるかもしれないけど、長期戦になる事を考えて薬草があるうちは薬の調合をしてストックしておかないと~」。


「は、はぁ...。すいません...」。


「まぁ、いいや。これで自分がやるべき事が明確になったな~。よぉ~し、まずは薬草の調合からだな~」。


「長...パルスさん、ありがとうございま...」。


ピキィィィィイイイイイイイイン...ッッ!!


「...ッッ!? 」。


気配を察したハリガネは、とっさに背中に掛けていた長剣を鞘から抜いて丘の上を睨んだ。


丘の上には全高一メートル程の牙を持つ四足歩行の茶色い魔獣複数が、地面に鼻をつけながら周囲をさまよっていた。


「丘の上にいる猪族魔獣の“アンデシン”三匹が接近中ッッッ!!! 方角はチェダーチーズ山方向ッッッ!!! 」。


ハリガネが丘を下ろうとしている“アンデシン”達に刃を向けてそう叫ぶと、ゴリラ隊員とヤマナカも武具を構えて戦闘態勢に入った。


「弾は限りがあるッッ!! 対人以外はなるべく銃撃を控えろッッ!! “アンデシン”を刺激するなッッ!! しばらく警戒...」。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「な、な...っっ!? 」。


ゴリラ隊員が警告していたにもかかわらず、ヤマナカは雄叫びを上げながら“アンデシン”に向かって突進していった。


「ば、馬鹿ッッ!! お前が突っ込んでどうすんだッッ!! “アンデシン”を刺激すんなッッ!! あっちが突進してきたらどうす...」。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


ハリガネが必死に呼びかけるも聞く耳を持たないヤマナカは握っている長剣を高々と持ち上げ、“アンデシン”目掛けて勢い良く振り落とした。


「のりやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


“アンデシン”は襲いかかってくるヤマナカに気づくと、足で地面を蹴り上げて同じく突進で対抗してきた。


ザァァスッッ!!!


ヤマナカは突進してきた“アンデシン”の身体に叩きつけるよう長剣を振り落とした。


ブギィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!


“アンデシン”はヤマナカに斬りつけられ、赤い血飛沫を出しながら悲痛な鳴き声を上げて転倒した。


「あの野郎っ!! 相変わらずの馬鹿力だなっ!! 突進してくる“アンデシン”を力ずくで斬り倒しやがったっ!! 」。


ハリガネも長剣を構えてヤマナカの後に続き、“アンデシン”の下へ攻め込んでいった。


「フンッッ!! 」。


ザァァスッッッ!!!


ヤマナカは倒れてジタバタする“アンデシン”の腹部に剣を突き刺し...。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃぁぁぁああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


立て続けに襲いかかってきた他二匹“アンデシン”に対し、ヤマナカは一匹を剣に突き刺したままフルスイングして強引になぎ倒した。


ブギィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!


「...ッッ!! 次の突進が来るぞッッッ!!! 」。


ハリガネがそう叫ぶと一匹“アンデシン”はよろめきながら起き上がり、前足を掻いて再びヤマナカに襲いかかろうとしていた。


「ったくッ!! 頭ごなしに突っ込みやがってッ…!! 」。


ザァッッ!!!


ハリガネはそのまま“アンデシン”に接近して長剣を振り上げ...。


ズヴァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!


ヤマナカに突進して襲いかかろうとする“アンデシン”を横から斬り倒した。


ハリガネの斬撃を受けた“アンデシン”の胴体は真っ二つになり、そのまま地面に転がった。


「フンッッ!! 」。


ザァスッッッ!!!


そして、残った一匹もヤマナカが追撃で仕留めた。


「丘の越えた先の安全は確保したッ!! 魔獣や人間の存在は無しッ!! 」。


ゴリラ隊員は身を伏せたまま丘の上からライフルを構えて辺りを警戒していた。


ザワ...ッッ!!


「...ッッ!? 後方から気配がするぞッッ!? 」。


ハリガネは辺りを見回して警戒しながら隊員にそう呼びかけた。


「隊長ぉっ!! 逆方面の空から“タンザナイト”がぁっ!! 」。


「何ッ!? 」。


パルスは握っている剣の刃先を、空から姿を現した二匹の“タンザナイト”に向けていた。


ギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


青色の羽毛に覆われた鳥族魔獣の“タンザナイト”が、甲高い鳴き声を上げながらハリガネ達に急接近してきた。


「...ッッ!! チッ...!! 随分と速く距離詰めてくるじゃねぇかッ!! チキンのクセによぉッ!? おぉッ!? 」。


ギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


“タンザナイト”は金色の瞳をギラつかせ、急降下しながら鋭い爪とくちばしをハリガネとヤマナカに向けて襲いかかってきた。


「オラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。


ズサァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!


ハリガネは一匹の“タンザナイト”を地面に叩きつけるように斬り倒し...。


「オリャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」


ズァァアアアアクッッ!!


すかさず喉元を突いてトドメを刺した。


「まだ一匹飛んでるぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 注意しろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。


「任せろッッッ!!! 」。


ゴリラ隊員はハリガネにそう答えてライフル銃を構え...。


ダァァアンッッ!!


ギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


空中で逃げ惑う“タンザナイト”一匹の頭部を撃ち抜いた。


「ナイスショットォオオオオオッッ!! 」。


ハリガネはそう言ってゴリラ隊員に親指を立てた。


「フンッ!! 当たり前だッ!! しかし、コイツ等が何でこんなところに歩いてたんだ? コイツ等の生息地はチェダーチーズの山奥だろ? 」。


ゴリラ隊員は仕留めた“タンザナイト”を身に着けていた槍で突き刺し、それを持ち上げながら首をかしげていた。


「さぁ~? 群れから離れちゃったんじゃないですか~? しかし、まさかここでこの魔獣達に遭遇するとはね~。 お~い!! ヤマナカぁ~!! 大丈夫かぁ~? 」。


「心配ありませんっ!! 食料も確保できてよかったですねっ!! 」。


ヤマナカはそう答えながら仕留めた“アンデシン”二匹を軽々と両肩に背負い、意気揚々とハリガネ達の下へ戻ってきた。


「隊長達カッケー!! 俺が鞘抜いて間もないうちに魔獣をとっとと片付けちまったよ~!! いいなぁ~!! やっぱり前線部隊の戦士っていいよなぁ~!! 」。


パルスは目を爛々とさせながら、自身もシアターと共に“アンデシン”を運ぶのを手伝っていた。


「あ、パルスさん。僕達がやりますよ」。


「いいっすよぉ~、俺達何もやってないから運ぶ事くらいさせてくださいな~」。


「は、はぁ...」。


「うぇぇええええ...。ま、魔獣の死体を持ち運ぶなんて...」。


「ウダウダ言ってんじゃねぇっ! 丘に放置するぞっ! 」。


「わ、分かりましたよぉ~! 」。


「...」。


ゴリラ隊員は“アンデシン”を運んでいくパルスとシアターのやり取りを見ていた時、不意に地面を見下ろして考え事を始めた。


(ゴーダチーズ丘には野草があるくらいで魔獣の餌になる物なんてほとんどない...。奴等は何故わざわざ山から移動してきた...? もしかして、山脈に蛮族か狩猟士ハンターが潜入しているのか...? もしや、ノンスタンスの連中がパルメザンチーズ山脈に潜伏しているというのか...? )。


「どうしました~? 早く拠点地へ運んで捌いちゃいましょう! いやぁ~!! 久々の新鮮な肉だぁ~!! アハハッ!! 野戦にはこういう楽しみがあるんだよなぁ~!! 」。


「む...? あ、ああ...」。


有頂天になっているハリガネに声をかけられ我に返ったゴリラ隊員は、丘から見える遥か彼方のチェダチーズ山を一瞥して拠点地の方へと戻っていった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ