ハリボテ=ポップの提言
むっ!?
俺の趣味だとっ!?
そんな事を聞いて何だというのだッ!!
...まぁ、仕方がないから教えてやろう。
喫煙と魔獣狩り、あとは休日に子供達と竜族魔獣でドライブだな。
よく色んな所へ連れて行ったものだ!
...はぁ。
~討伐部隊“勇者”ゴリラ隊員~
「由緒ある戦士族、ポップ家の名士ハリボテ=ポップ...。ノンスタンスの君達に支援を行い、組織に大きな影響を及ぼしたポンズ王国の戦史にも名を刻む伝説的戦士...。そして、千人以上の大部隊を束ねるポンズ軍の指揮官にして中佐でありながら、前線に上がった歩兵部隊と共に敵地へ切り込み諸国の軍隊を崩壊させてきた名将...。凶悪な魔獣、魔法を操る魔術師や魔法使い相手に怖気づく事なく徹底的に命を刈り取る冷酷で残忍な戦士像は“恐戦士”と諸国に恐れられた。そのハリボテ=ポップは宿敵である凶悪な竜族魔獣“アルマンダイト”を討伐すべく、パルメザンチーズ山脈に向かいその後消息を絶った。ハリボテ=ポップ...彼は一体何処にいるのであろうか...? 」。
「アンタ、いきなり立ち上がって何してんだよ? 」。
急に椅子から立ち上がり、両腕を組んでうつむき気味に物思いに耽るジューンにハリガネは冷たい視線を送っていた。
「はぁ~い!! カットォ~!! 」。
「...っ!? 」。
ハリガネが声のする方向に視線を向けると、チャールズとフユカワがジューンを見上げる位置で収録を行っていた。
「う~ん! いいですねぇ~! 王国に仕えていた兵士と敵対関係にあるノンスタンスッ! そして、その裏では兵士の父親である伝説的戦士が暗躍していたッ! これは視聴率九十パーセント以上間違えなしですよぉ~! 」。
「ハッハッハ~! そうですかなぁ~? もし王国で放映される時はこっちの方もお願いしますよ~? 」。
ジューンが高笑いをしながらそう言って、自身の人差し指と親指で小さな輪を作った。
「もちろんですよ~! いやぁ~! この先が楽しみだなぁ~! 」。
(真剣に人が話してる時に、コイツはよくそんなにふざけてられるな。遊び人ってこんな奴等ばっかなのか?? )。
ハリガネは有頂天のジューンを見て溜息をついた。
「ハッハッ...おっとっ! ゴメンゴメンっ! 話が逸れてしまったね~。それで、アゲハラ君はハリボテ=ポップの提言だって言ってたけど...」。
(お前のスイッチの切り替えが早過ぎて誰もついていけてねーよ。人を振り回すのも大概にしやがれ)。
ハリガネは再び腰を下ろしてクールダウンするジューンを無言で睨み付けた。
「...」。
ノンスタンスのメンバー達は困惑した様子で勝手に話を進めるジューンを見つめていた。
そんな皆を余所に、ジューンは更に話を続けた。
「詳しくは聞いてなかったんだけど、ハリボテ氏がノンスタンスに接触したのが十四年程前と元ノンスタンスメンバーが証言していた。これは事実という事でいいのかな? 」。
ジューンがそう問いかけると、ホワイトは小さく頷いた。
「はい...。だいたいそのくらいだったと思います...」。
「当時、ハリボテ氏に出会った場面って覚えてる? 」。
「え...と」。
ジューンが続けてそう問うと、ホワイトは思い出そうと険しい表情で天井を見上げた。
「確か...ポンズ王国近くの国境でしたかね...。当時のノンスタンスは抗争する戦力も無くて、普通に現地労働してみんなで生計立ててました。その時は物資運搬の仕事だったかな...? その時、王国兵士に賊団と間違われてちょっと小競り合いのトラブルになっていたんですわ。その時、ハリボテ様が介入してくださって...。それがハリボテ様と初めて出会った時だったと思いますわ」。
ホワイトがそう答えると、ジューンはうつむき気味に両腕を組んで険しい表情を浮かべた。
「ん~、なるほどね。それでその後の交流に繋がっていくというわけだね」。
「そうですね...。その後ちょくちょく僕達のアジトに会いに来てくださるようになりました」。
「ふむ...。出会って間もない時、ハリボテ氏は君達にどんな感じで接していたのかな? 」。
ジューンがそう問うと今度はホワイトがうつむき気味に両腕を組み、険しい表情を浮かべて考え込んだ。
「最近どうだ...とか、主に組織の事情のヒアリングだったりとか個別相談とか親身に接していただきました」。
「当時から何か支援してもらったりとかしてた? 」。
「はい...。食糧とか衣服とか日用品をいただいてました...」。
「金銭や宝石とかの高級品は貰ってた? 」。
ジューンがそう問いかけると、ホワイトは慌てた様子で首を大きく横に振って否定した。
「いえいえっ!! そんな物はいただいておりませんっ!! 特に金銭に関してはハリボテ様が労働で対価を得る大切さを若いうちから身をもって知るべきだという教えを説かれていましたので、金銭を僕達に渡す事は一切ありませんでした。...あ、でも高価な物だと古い武具とかをいただいてました」。
「ふむふむ...。そういえば、ハリボテ氏は君達に戦闘訓練をさせて戦力の向上に貢献したという事も聞いているけど、それはどういう意図なんだろう? 」。
「ハリボテ様に出会う前からノンスタンスは賊団達に狙われる事が多かったんです。当時は戦術の心得とかもない生活困窮者の集団でしたからね。せっかくみんなが働いて稼いだお金も賊団に強奪されたりして、日々生活していくのにも苦労してたんです。それで、デイと僕がハリボテ様にその事を相談したら、組織強化の協力に快諾してくださったんです。自分の身は自分で護り、己の領域を侵す者を決して許すな...と。僕達ノンスタンスはハリボテ様に現実から逃げずに戦う事の大切さも学びました。そして、仲間達と助け合いながら生き続けるという事を常に心得よ、と説かれました」。
ホワイトがそう答えると、手帳に証言を記録するジューンは依然として険しい表情のまま小首を傾げた。
「仲間達と助け合いながら生き続けるという事を常に心得よ...か。う~ん、今のノンスタンスの状況を考えるとなんか...悲しい感じがするけどね~。今となってはどうにもならない事なんだけど、何とかならなかったのかな~? そもそも何でノンスタンスは過激派反逆集団としてこんなボロボロになるまで争い続けたんだろう? デイの暴走? それとも、それもハリボテ氏の提言? 」。
ジューンがそう問うと、ホワイトは神妙な面持ちでゆっくりと首を振った。
「いえ...。それは...」。
ホワイトは口ごもりながらアネックスの背中を擦っているキュンに視線を向けると、他のメンバー達もホワイトにつられるように彼女に視線を移した。
「...っ! 」。
皆の視線に感づいたキュンは、動揺を隠せぬ様子でうつむき身体を震わせた。




