忍び寄る魔の手
何か順序的に、私が忘れられていたらしいわね。
まぁ、別にいいんだけど。
私は攻撃魔法より防御魔法専門ね。
あと、お酒が大好き。
~ノンスタンスのメンバー、アネックス~
「ノンスタンスのリーダーであるデイは、あの争乱以降で山脈に潜む賊団や王国を追われた反社集団からも狙われる身となった。この事は二週間前にソイ=ソース国に潜入した賊人を別件で追跡してて、その時に聞いた賊人同士の会話の内容から得た情報なんだ。デイの首に賞金を懸けたのもそのソイ=ソース国の人間らしいんだけど定かな情報...というか、情報自体が少なすぎて何とも言えないんだけど...」。
ジューンがそう言葉を濁すと、ハリガネは腑に落ちない様子で表情を曇らせた。
「賊人の口コミか...。それが渓谷で遭遇した賊人の言葉に繋がってくると。しかし、情報内容があるのに発信元が分からないなんて何か随分とふわふわしてるなぁ~」。
「しばらくソイ=ソース国に留まって調査したんだけど有力な情報がなかなか手に入らなくてね~。情報の出所も掴めなかったから、その件の情報収集は途中であきらめたんだけどね~」。
「...酒は調達してくるのにな」。
「ところで、勇者君はちょっと妙だとは思わない? 」。
(...またコイツ俺の言った事を無視したよ。ご都合主義にも程があんだろ)。
話の腰を折られてしまい、ハリガネは不快な様子でジューンを睨んだ。
「ほらぁ~、デイはもともと国際指名手配犯じゃないか~」。
「ん...? あぁ~、確かにそうだな~。俺はともかくデイは以前から諸国に懸賞金出てるもんな。あれじゃね? 王国に侵入して軍との抗争引き起こしたから、牽制も含めてソイ=ソース国が懸賞金引き上げたんじゃね? 」。
ハリガネがそう言うと、ジューンは小さく首を横に振った。
「確かにデイの首が改めて懸けられたとされるのは、あの抗争以降らしいね。しかしながら、俺も現地で確認したけどソイ=ソース国でデイの懸賞金を増額した事実はなかった」。
ジューンがそう答えると、ハリガネは更に納得のいかない様子で再び首をかしげた。
「...ん? 国家は懸賞金を引き上げてない? でも、デイの首はソイ=ソース国の人間によって賞金が懸けられてる?? 一体、どういうこったよ?? 」。
「ゴメン、話がややこしかったね。端的に言うとソイ=ソース国出身の何者かが反社集団に接触し諸国が設定している懸賞金よりも格段に高い金額を提示して、ハンターや賊団みたいな賞金稼ぎを刺激して君やデイの首を狙うように仕向けているみたいだね。まぁ、それもどういう意図か分かっていないんだけど...」。
「そして、俺に賞金首を懸けている理由も分からない...か。でも、渓谷で遭遇した賊人の言葉を聞いてしまった以上、俺の首も賊団に狙われている事は確かみたいだな」。
ハリガネが呟く様にそう言うと、ジューンは小さく頷いた。
「そこら辺はまだまだ調査が必要なんだけどね。そもそもポンズ王国と諸国の兵士は領域に侵入しない限り、国外追放された君を殺す事や関与する事はできないよ。王様が君の刑を執行した後に諸国へ声明を出して警告したからね。そうなると、軍や国家が賊人や山脈に潜伏している人間を利用して君を襲撃させる事も難しいだろうし、そもそも君を殺して諸国にそこまでのメリットがあるとも考えにくいしね」。
ジューンがそう言うと、ハリガネは怪訝な表情を浮かべた。
「ん...? でも、アンタはさっき敵国同士だったその延長でソイ=ソース国軍の関係者が俺に賞金懸けて殺すよう反社集団をけしかけてたみたいな事言ってなかった? 」。
ハリガネがそう言うと、ジューンは顎髭を撫でながら考える仕草をした。
「確かに言ったが、諸国がそんな事をすればポンズ王国への宣戦布告になるからまず国家や軍はあり得ない。ただ、俺は軍の関係者と推測できるとも言った。つまり、その個人がその賊人等と水面下で取引をしていることは十分に考えられる」。
「なるほど、ソイ=ソース国の兵士かは分からんがその人間が裏で山脈に潜伏、あるいは王国から逃亡してきた反社集団と繋がっていて間接的に俺やデイの首を狙っているという事か」。
「賊人の口コミだし信用性の無い情報だったんだけど、渓谷での賊人のあの一言があったからね~。これから山脈に潜伏している賊人含めた反社集団は、懸賞金目当てで君を狙ってくる可能性は高いだろうね~。まぁ、さっき長々と話をしたけど勇者君の首を狙っている賊団と、その賊団があのパブの場所に潜入していたのと何か関係があるのかもしれないね。どう? この話を聞いて、それでも自分にとっては関係の無い話だと思えるかい? 」。
ジューンが面白そうに含み笑いしながらハリガネを見つめると、その当人はばつが悪い顔をして舌打ちをした。
「チ...ッッ!! マジ面倒クセ―事になっちまったな。それじゃあ、迂闊に基地から外へ出れないじゃねぇか。ただでさえ、山脈の方に同じく“アルマンダイト”を狙っている賊団がいるっつーのに、俺自身も狙われんのかよ~。全く、冗談じゃねぇよ~」。
「ははっ! ご愁傷様~! 」。
ジューンが楽しそうに笑っている様子を見たハリガネは一層不快感を露わにした。
「フンッッ!! 他人事だと思って...ん? そういえば、アンタが魔法かけて動きを封じた賊人達はどうなったんだ? ...今更だけど」。
ハリガネがそう問いかけると、ジューンは苦笑しながら肩をすくめた。
「十分間は動けないから、俺がその場から立ち去って間もなく“アルマンダイト”の餌食になっただろうね~」。
「あらま」。
ハリガネとジューンがそんなやり取りをしていると、木の下に設置した通路式魔法陣が再び青白く輝き出した。
「隊長っ! 交代ですっ! 」。
魔法陣の中からヤマナカが現れた。
「ヤマナカ、いいのか? てか、お前ずっと寝てないんじゃないのか? 俺の事は気にしないで仮眠取っておけよ」。
「いえっ! 私は大丈夫ですっ! それよりも隊長はまだ食事をされていないのでは? 」。
「いや、俺はさっき携帯食...」。
「そうだよっ! 勇者君っ! ご飯食べないと身体に毒だよっ! さぁ! 基地に戻って食事にしようっ! 」。
「いや、だから...」。
ジューンはうつ伏せになって草むらに身を潜めていたハリガネの身体を半ば強引に起こした。
「さぁ! さぁ! それに見せたい場所もあるんだ~! 」。
「見せたい場所? あっ! おいっ! 押すなよっ! 」。
急かすジューンはハリガネの背中を押しながら魔法陣の上に立ち、二人はそのまま魔法陣の中へ消えていった。




