反社の巣窟
俺はもともと魔法も使えませんし、混血じゃないんですがね~!
ただのしょぼいコソ泥だったんですがねぇ~!
ビッグな賊団のボスになりたくて賊人になったんですよ!
ただ、前の賊団はボスがクソだったんでノンスタンスに入ったんですよね!
俺は特に能力があるわけじゃないですが、こんな人間にも一つくらい誰にも負けない取り柄があるんすよ~!
それは、立場の強い人間によいしょしたり、顔色をうかがって上手く世を渡っていく事が得意なんすね~!
でも、組織ってそういうポジションの人間は必要じゃないっすか?
~ノンスタンスのメンバー、ロー~
「そっ! 勇者君に言っておいた方がいいかなぁ~って思ってねっ! でも、勇者君が先に話を切り出してくれたから先に聞いてきてもいいよ~! 」。
「何だよ、その上から目線の変な譲り方は」。
「それで何を聞きたいんだぁ~い? 」。
「...(いちいちムカつくな、コイツ)」。
ハリガネは鼻歌を口ずさんでいるジューンを睨みつつ、呆れ気味に溜息をついた。
「え~と、何を聞こうとしてたんだっけ? お前が変なテンションでいちいち口はさんでくるから何を言いたかったか忘れちまったじゃねーか。え~と...」。
ハリガネは何とか思い出そうと、腕を組みながら苦悶の表情を浮かべた。
「うぅ~ん...あっ! 思い出したっ! ブルーチーズ湖へ向かっていた中途のモッツァレラチーズ渓谷で、賊団に遭遇したじゃない? 」。
「うんうん」。
「その時に賊人の一人が俺に向かって言った事がちょっと気になっていたんだけど...」。
「勇者君に言った事...? 」。
ジューンは怪訝な面持ちで首を傾げ、ハリガネを見つめた。
『知らないだろうが、ハンターや俺達みたいな賊の界隈ではお前の首に賞金が懸かってんだよ! 』。
何故、ハリガネは狩猟士や賊人に狙われなければいけないのか。
賊人が発したその言葉がハリガネの頭にずっと引っかかっていた。
ハリガネは賊人が発したその言葉を思い出し、その旨を伝えるとジューンは小さく頷きながら話を切り出した。
「その件に関しては、まさに俺が君に話しておきたかった事に繋がってくるなぁ~」。
「そうなの? 」。
ハリガネがそう相槌を打つと、ジューンは再び頷いた。
「そそっ! 俺がモッツァレラチーズ渓谷で、君の仕事先だったお店“PUBオニヤンマ=キャロルズ”の関係者がノンスタンスと関りがあったって話をしたじゃない? 」。
「うん」。
「まぁ、ノンスタンスとお店の関係者が関り合ったという事実は後々の調査で判明した事だけどね。それで、その時の君は今の自分には関係無いって答えていたけど、その“PUBオニヤンマ=キャロルズ”は表面上オープンしたばかりのお店。そして、裏側では賊団や国家反逆集団の経済や、その他の支援をしている反社会的勢力団体の巣窟みたいになっていたんだ」。
ジューンの話を聞いていたハリガネは顔をしかめて小首をかしげた。
「あのパブは当日オープンしたばっかの店だったよな? たしか、パブになる前のその建物は魔獣操縦士の労働組合事務所だったわけで、そこの代表が国際指名手配されてた賊団との親交が王国にバレて摘発されちゃったんだよな。それ以降はしばらく改築工事で...あっ! 」。
ハリガネは何かに気がついた様子で目を大きく見開いた。
「そう、当時摘発された建物は改築されるために工事現場となっていた。現場は仮囲いで仕切られていてえ中は見えないし、関係者以外は立ち入り禁止だから反社集団が接触するには絶好の場所だったんだ。ちょっとした反社のコミュニティセンターみたいな感じになっていたみたいだよ。しかも、その業者も反社集団と繋がっていたようで国外から国内へ侵入した人達のお世話もしていたらしいね」。
「いくら仮囲いされていた工事現場だって言っても、都市ユズポンのあんな目立つ場所で反社同士が接触してて怪しまれないのか? そもそも、賊団とか反社の連中は検問所を通ったって事か? それともクロズで発見されたっていう通路式魔法陣が描かれた石板とかを使ってか? 」。
ジューンはハリガネにそう問われると、自身の懐から手帳を取り出してページをパラパラとめくった。
「うーん、いや...。身分証明書を偽造して入国していたらしいが、ノンスタンスのメンバーはさっき勇者君が言った通りで石板を利用して侵入した。それに関しては前に話したよね」。
ジューンがそう言うと、ハリガネは小さく頷いた。
「ああ...。でも、それはあのパブがオープンするまでの経緯だろ? その話がどうやって俺の首が賊人やハンターに狙われている事に繋がるのさ? 」。
ハリガネがそう問いかけると、ジューンはまあまあといった感じでなだめるように両手を突き出した。
「まぁ、落ち着いて。話はここからなんだよ。今年に入ってノンスタンスがその業者と国外で接触するようになった。その流れでノンスタンスも国内に潜入し、その反社とのコミュニティに参加したという事らしい。そこで王国に侵入する際に通り抜けできる石板を活用したという事らしい。ノンスタンスを含めた反社集団は王国内で入手困難な物資を流通させる事で軍資金を手に入れ、組織強化に繋げていたようだ。その最中、パブ“PUBオニヤンマ=キャロルズ”がオープンした。オーナーだけでなく従業員も反社集団との繋がりがあるその店の売り上げも、決められた割合で関連組織が着手する予定だったらしい」。
「予定...?」。
ハリガネが怪訝な面持ちでそう言うと、ジューンはクスクスと苦笑いをした。
「ははっ...! もう忘れたのかい? その日はパブのオープンした日。つまり、デイ率いるノンスタンスの戦闘組が王国の時計塔を中心に都市ユズポンを占領した日だよ。そして、君やゴリラ隊員達が王国の指示に背いてユズポンへ突撃した日でもあるわけだが、その反社集団の巣窟になっていたパブはノンスタンスが騒動を起こした翌日に摘発され関係者も逮捕された。潜入していた反社集団の関係者も逮捕されるか国外へ逃亡した。しかも、そのパブは摘発された後に取り壊され、今は更地となり王国が保護のために管理している状態だ。つまり、反社集団が接触する場であったそのパブが消滅した事で、反社集団は貴重な収入源だけでなく王国内に通じる“パイプ”も失った」。
「...」。
ハリガネはジューンの話に黙々と耳を傾けていた。
「あれ以降、王国だけでなく隣国も国境周辺を軍の部隊が厳重に巡回するようになり、国外へ逃亡した反社集団も諸国に拘束されるか殺されるか、あるいはノンスタンスと同様に諸国の管轄ではないパルメザンチーズ山脈へ潜伏していると考えられる」。
「...つまり、俺達がノンスタンスと抗争した事で反社の稼ぎ口でもあるパブに、反逆者扱いされた俺の働き先だった事で王国によるメスが入った。まぁ、そこの潜伏捜査してたのはアンタだったみたいだけど...。それで、そこが潰れて王国へ潜伏していた賊団のヘッドがその腹いせで俺の首を懸けたって事か...」。
ハリガネがそう考察すると、それを聞いていたジューンは腕を組んで含み笑いを浮かべながら立木に寄りかかった。
「う~ん、賞金首を懸けたのは賊団や反社じゃない」。
「...」。
神妙な面持ちのハリガネは鋭い目付きでジューンを見つめた。
「...ソイ=ソース国の人間らしい。はっきりした事はまだ明らかになっていないが、もともと敵国同士であったポンズ王国との戦歴を振り返れば軍の関係者と推測はできるけどね。それと...」。
「それと...? 」。
「...」。
ジューンは不意に夜空に浮かぶ月を見上げ、口を摘んで少し間を取った。
「首を狙われているのは君だけじゃない...」。
神妙な面持ちのジューンは怪訝な表情を浮かべるハリガネに視線を戻し、ゆっくりと口を開いた。
「ノンスタンスのデイも狙われているようだ...」。
「え...? 」。
ハリガネは眉をひそめてジューンを見つめた。




