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いびつな関係


俺はずっとリーダーやホワイトさん、そして仲間達とお互い支え合いながら生きてきた。


歯車が狂ったのは何時からだろうか...。


やはり、抗争が激化した頃だろうな。


多くの仲間達が死に、リーダーの人相が変わっていった。




~ノンスタンスのメンバー、アゲハラ~









「デイは君達を捨てた。つまり、抗争において戦力にならないメンバーを放っておく感じになった。そういう認識でいいかな? 」。


「だいたいそんな感じだったと思いますよ。ホワイトさんも言ってましたがリーダーは戦力補強なのかは分かりませんが、もうその頃には戦闘組と共に色々と動き回っていたらしいのでそこまで気が回らなかったんじゃないですかね。色々とこっちに丸投げでしたし、戦力にならない人間は自分達で何とかしろって感じでしたね」。


そう答えるアゲハラの証言をジューンは頷きながら手帳に記録していた。


「ふむ、それでこの間も話を聞いたんだけど、デイが率いていたその戦闘組とホワイト君やアゲハラ君はポンズ王国へ侵攻した。そして、ユズポン市内の時計塔周辺を占領したノンスタンスは王国に対して交渉を要求した。デイは数人の側近達と共に時計塔で王国との交渉を望む姿勢を演説で明らかにした後、付近の教会でしばらく籠城しつつ王国と通信魔法を通じて交渉を続けていた。しかし、王国軍と緊急招集された傭兵部隊の強襲により交渉は断念、君達は辛うじて国外へ逃亡した。そして、ソイ=ソース国に潜伏していた残りの仲間達も兵士に追われ、全員はパルメザンチーズ山脈で合流した。その後は組織の今後の方向性をめぐり、別行動をする事となった...と」。


ジューンはノンスタンスメンバー達の証言をまとめながら、更に話を続けた。


「さて、ここからはノンスタンスはグループに分かれてホワイト君達は子供達を連れてチェダチーズ山へ下っていった。そして、この洞穴で身を潜めていたわけなんだけど、これもこの間に話を聞いた事ではあるんだけどね。抗争的なデイや戦闘組とは共に活動できないという事で、君達はデイ達と決別をする事となった。ホワイト君は魔獣や山賊が生息している山脈から避難させて、一人では生きていく事が難しい子供達を何とかしたかったと話してたけど...。この先のプランとかはあったのかな? 」。


ジューンがそう問いかけると、ホワイトは自身の頬を人差し指で掻いて考える素振りを見せた。


「もう、自分達としては腹を括ってたんですわ。戦力の無い自分達がこんな危険地帯にいたら死ぬだけだし、だったら隣国の兵士に捕まえてもらおうと...」。


「全員の生命の保護を優先したわけだ」。


ジューンがそう言うと、ホワイトは小さく頷いて更に話を続けた。


「僕とアゲハラはデイとは関係の深い人間だったんで、最悪死罪になるかもしれないですが...。もう、それでもよかったんです。この子達と同い年の子達は食糧難で餓死したり、抗争に巻き込まれてしまったりで...。この組織に振り回されてきた子供達には罪はありませんし、この子達さえ救われればそれで良かったんです。でも、周辺国のソイ=ソースを目指している時に複数の魔獣に襲われて、なかなか全員で山中を移動できない状態が続いて今に至るわけです...」。


ホワイトは話を終えると、疲れた表情を浮かべながら深い溜息をついた。


「そんな中で我等の太陽っ!! ハリガネ=ポップ勇士が降臨されたじゃないですかぁ~!! 」。


今までメンバーの証言を黙って聞いていた一人の青年メンバーが急に立ち上がって声を張り上げた。


「い、いきなりなんだよっ! ロー! 」。


オシイチがばつ悪い顔で隣に座っていたローを見つめた。


「偉大なる闘神ハリボテ=ポップの実子が、敵対していた我々ノンスタンスのメンバーに手を差し伸べて下さったわけじゃないですかぁ~!! あの方がいらっしゃらなければ我々はとっくに死んでいましたよぉ~!! まさにハリガネ=ポップ勇士は我々ノンスタンスの救世主でありますっ!! 万歳ッ!! 万歳ッ!! 」。


色白で彫りの深い顔立ちをしている痩せ型のローは、その場で万歳三唱を行いハリガネに対して敬意を示した。


「フンッ! 出しゃばりやがって…。この間、『生き地獄だぁぁぁぁああああああああああああああああああああッッッ!!! もう一層のこと殺してくれぇぇぇぇえええええええええええええええええええええッッッ!!! 』って号泣してたのは何処のどいつだよ? そもそもお前は魔法も使えねーし、何もしてねーじゃねーか。それに、元々お前は別の賊団から勝手に移ってきたんだろ? それも、パルメザンチーズ山脈で全員合流してゴタゴタしてた時にスッと入ってきやがって...。お前も含めて戦闘組の輩なんか仲間だと思った事なんて一片もねーよ」。


万歳三唱を繰り返すローの後方で、アゲハラはそう毒づきながらそのローの背中を睨んでいた。


「そのゴタゴタしていた時の話も気になるな。山脈に避難して一カ月くらい経つだろうけど、その時のノンスタンスってどんな状況だった? 」。


「自分達ノンスタンスは諸国の兵士に追われる形でパルメザンチーズ山脈へ逃げ込みましたわ。山脈には凶暴な魔獣がいるから諸国の軍は簡単に突入はできないはずですからね。しかし、諸国の軍が介入できないから山脈は無法地帯なわけで、複数の賊団が潜伏しているわけなんですわ。もうノンスタンスは瀕死の状態なんで、それでデイが現地の賊団と交渉してたんですわ。でも、失敗して結局その場で抗争も起きてしまい、僕達はこのまま共にしていたら危ないという事でデイから離れていったというわけなんです」。


(なるほど...。ソイ=ソース国の隊長が言ってた“アルマンダイト”討伐のために居座ってる賊団と手を組もうとしてたのか。だが、奴等は山脈を陣取っている猛者の集まりだ。団結力も高いだろうし、そんな逃げてきた新参者達と易々と手を組むはずがない。逆に襲われるのは目に見えていた事であろうに、デイはよっぽど余裕が無い状態なんだな)。


ゴリラ隊員はジューンやホワイト達の話を黙って聞きながら、自身でそう考察していた。


「なるほどね~。現地での交渉っていうのも組織の武装強化が目的だったのかな? 」。


ジューンはホワイトの証言を手帳に記録しつつ、更に問いかけた。


「まずは組織を現地の賊団に保護してもらう事を考えていたらしいんです。その後、交渉した賊団や反逆集団を内部から吸収しようと思っていたんでしょうけど...。どうも山脈付近を陣取っていた賊団は、ノンスタンスがポンズ王国から逃亡してきた事を知っていたらしいんです。それで組織の戦力が弱まっていた事を悟られた賊団との交渉も上手くいかず、結局追われて逃げ隠れする羽目になってしまって...。リーダーも目先の事とか考えてなかったんでしょうけど、もう信頼はありませんでしたよ。自分達を戦力の駒としか考えていない。使えない人間は別に消えてもよかったんでしょう」。


「あ、アゲハラっ!! お、お前言い過ぎ...」。


オシイチが慌てた様子でアゲハラをなだめようとした時...。


「いい加減にしてよっ!! アンタ達っ!! 」。


仏頂面でしばらく一言も発さずに黙って聞いていたワンムーンが、突如立ち上がって憤った様子を見せた。


「さっきから黙って聞いていればアンタ達何様よっ!! どんだけデイ様がノンスタンスの為に奔走してたと思ってんのよっ!! デイ様だって危険を顧みずに国へ侵入して食糧や水を調達してたのよっ!? それも、ほとんど飲まず食わずでっ!! 」。


「そして、その物資も戦闘組の連中にそのまま渡して、後方に控えていた俺達の方にはその物資が行き届かなかったと...。あの人は何でもかんでもやりっぱなしなんだよなぁ~。正直、こんな目に遭うんだったら早いうちにノンスタンスから出ていけばよかったぜ...」。


アゲハラはそう言って肩をすくめると、ホワイトや椅子に腰かけていたメンバーは暗い表情を浮かべて溜息をついた。


そんなどんよりとした空気の中で椅子から勢い良く立ち上がり、怒りを露わにしたワンムーンを指差す男が一人。


「お前こそいい加減にしろやぁぁぁぁああああああああああああああああああああああッッッ!!! このアバズレがぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


「なっ...!? 」。


怯んだワンムーンに対し、ローはさらに畳み掛けた。


「確かに俺はノンスタンスに加入して一ヶ月もねぇよぉッ!! お前等との出会いも山脈だから関係もそんなに深くねぇッ!! おまけに魔法も使えねぇッ!! だけどなッ!! 俺は俺なりに戦闘組へは下手に出て怒りや腹いせの矛先がメンバー達に向かないように、間を取り繕ろう緩衝材になってたんだぞッ!! 」。


「だから何よっ!? 私、アンタがデイ様や取り巻きに媚び売ってて、他の連中にはデカい面してるところしか見たことないんだけどぉっ!! 本当にご都合主義よねっ!! アンタっ!! 」。


「デカい面だとぉッ!? 空気を和ませてるところが、何でデカい面してる事になるんだよぉッ!! 」。


「空気が読めないって言ってんのよっ!! 」。


「んだとぉッ!? コラァ!! 自分達だって女っていう事を利用して戦闘組をたぶらかしてたみたいじゃねぇかッ!! それで戦闘組からおこぼれ貰ってたんだろぉッ!? 」。


「...っっ!! 」。


ローの言葉が効いてしまったのかワンムーンは急に黙り込んでしまい、皆に表情を見せぬ様にうつむいて小さな身体をガタガタと震わせ始めた。


「わ...私達だって生きるためにっっ...!! す、好きでやってたわけじゃないもんっっ...!! だ、だから男は大っっ嫌いっっ...!! 」。


ワンムーンは感傷の情を露わにし、大粒の涙を流しながら両手で顔を覆った。


「ワンムーンちゃん、大丈夫よっ...! 大丈夫だからねっ...! 」。


キュンは嗚咽を漏らすワンムーンを抱き寄せ、彼女の頭を優しく撫でながらローを睨み付けた。


「...」。


悲観的な表情を浮かべるアネックスとマーシュは瞳に涙を溜めてうつむいていた。


「分かった、ロー君。もういいよ」。


険しい表情のジューンは厳かな口調でエキサイトするローを制止した。


「ところで、パルスさん」。


話題を半ば強引に変えたジューンは、椅子から立ち上がりキッチンの方向へ足を運ばせた。


「この換気扇代わりの魔法陣は…。確か見張り場所に繋がっているんだよね~? 」。


ジューンは顎髭を撫でながら、青白く光る魔法陣をまじまじと興味深し気に見つめていた。



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