遊び人へのインタビュー
私は人や魔獣を傷つけるのは嫌いなので、攻撃系の魔法は使えない...というより習得していないんです。
魔法としては、防御系とか回復系がほとんどです。
私を含めたノンスタンスのほとんどは魔獣との混色や、魔力に適性がある人で構成されているから魔法を使えるメンバーが多いんですよ~。
少し前の時代のノンスタンスはそうじゃなかったらしいんだけど。
はぁ...。
でも、ノンスタンスはもう壊滅状態だし、家族のように接してた仲間達も死んじゃって...。
なんだか私、疲れてきちゃった...。
~ノンスタンスのメンバー、キュン~
ゴリラ隊員達は地下から地上へ戻るため、再び通路を歩いていた。
「いやぁ~! 朝からずっと収録してましてね~! 普段は立ち入る事とのできないパルメザンチーズ山脈付近のチェダーチーズ山で、まさか地下にあんな秘境があったとは~! 良い絵が撮れましたよぉ~! 」。
「...それより、チャールズさん」。
パルスは上機嫌なチャールズの耳元でそっとささやいた。
「...僕が王国を出てここにいるという事は、しばらく伏せておいてくださいね」。
「了解ですっ! それにもう、ここまで来てしまったからには我々も王国に帰れませんからね~! でも、このドキュメンタリー映像を作品にしたら全てチャラっ! むしろ、大成功間違え無しですよっ! もちろんパルス長...さんのストーリーも上手く編集しておきますよ~! 貴族や上級階級による汚職や不祥事に嫌気が差し、身分を顧みず王国に忠誠を誓った兵士としての誇りを胸に大義を成し遂げるべく有志と共に戦うッ!! こんな感じのストーリーなら、腐敗化して民衆から批判を浴び続けている貴族のイメージは大分回復されるかもしれませんね~! 」。
「へっへっへ~! ありがとうございや~す! 」。
(結局、長官は身分がバレて誤魔化しが効かなくなったのか...)。
ゴリラ隊員は満面の笑みを浮かべているパルス達を後方から冷ややかな目で見ていた。
「あっ! そういえば、チャールズさんとフユカワさんも夕食まだですよね~? テーブル席が空いたら我々も食事にしましょうか~! 」。
「ありがとうございま~す! それじゃあ、食事しながらパルスさんのインタビューを...おおっっ!? 」。
地上へ戻ったチャールズの視界には、テーブル席で食事を続けている彼女達の姿が入ってきた。
「フユカワッ!! 」。
「へいっ!! 」。
チャールズとフユカワは彼女達を見るなり、急いでテーブル席の方まで駆け寄った。
「こ、この可愛い子達はっ!! ど、どうしたんですかっ!? 隣国から基地内に夜のお相手役を呼んだんですかっ!? 」。
「んなわけねーだろ。コイツが勝手に連れてきたんだよ」。
ゴリラ隊員がチャールズにそう答えながら、椅子に腰かけているジューンを自身の顎で差した。
「やぁ~! 」。
彼女達と食事や酒を楽しみすっかり上機嫌になっていたジューンは、満面の笑みを浮かべてゴリラ隊員達に手を振っていた。
「ジューンさんっ!! これは一体...」。
チャールズがそう問うと、ジューンはよくぞと聞いてくれたと言わんばかりに両足を組んで雰囲気を取り繕った。
「フフフ...。“アルマンダイト”という魔獣を知っていますかな...? 」。
ジューンはそう言うとチャールズは大きく頷いた。
「はいっ! もちろんっ! ハリガネ隊長やゴリラ隊員達が討伐ターゲットにしている凶悪な竜族魔獣じゃないですか~! 我々はその“アルマンダイト”を討伐する瞬間を映像に残しておくために同行してますからね〜! 」。
チャールズが自信満々にそう答えると、ジューンは自身の両指を組みながら両肘をテーブルに立てて、“更に”ムーディーな雰囲気を醸し出し始めた。
(何だ、コイツ。いきなり勿体振りやがって気持ち悪い)。
ゴリラ隊員は平常心を装いながらも心の中で、チャールズのインタビューに応じているジューンを毒づいた。
「実はですねぇ...。今朝、この部隊の隊長と周囲の地理調査でブルーチーズ川の方へ向かったのですが、その奥のモッツァレラチーズ渓谷と湖の方まで行ってみようという話になったのですよ。 それで、渓谷のところまで辿り着くと彼女達が賊団に襲われていたんで救済したら、山脈から下りてきた“アルマンダイト”に遭遇してしまったんですね」。
「え? そんな展開になってたんですか?? 絶体絶命じゃないですかぁ~!! 」。
チャールズが驚きを隠せず目を丸くしてそう問うと、ジューンは“露骨”に悔しそうな表情を浮かべた。
「まぁ、二人じゃさすがに無理かと思って退避しようかと思ったのですが...。彼女達の怯えて潤んだ瞳が僕の視界に入ってきてねぇ...。ですから、彼女達が自分に秘めたる力を引き出させてくれたっていうか...。それで、僕と隊長は彼女達を護るべくアルマンダイトと戦い、追い詰めたのですが…逃げられてしまって...。あれは仕留めたかったなぁ...。もう少しだったので…悔しかったです」。
(本当かよ? アイツは全速力で『ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ...ッッッ!!! 』って叫びながらここまで退避してきたぞ? )。
ゴリラ隊長は片眉を吊り上げて冷ややかな視線をジューンに送っていた。
「おぉ~!! それはすごい話だぁ~!! いやぁ~!! 隊長さんとジューンさんがブルーチーズ川へ下見に出かけたという事は知っていましたが、まさかその足で湖の方まで向かっていたんですかぁ~!! それでジューンさん、どうしてブルーチーズ湖へ向かわれたんですかぁ~? 」。
「いやぁ~、チャールズさんにも何度かお話してますけど、私はフリーの探偵業で生計を立ててますからね。それで、ちょっと王国から湖の調査を頼まれてまして...。結局、“アルマンダイト”の件があったので湖の方までは向かえなかったのですがね...。それに...」。
ジューンは神妙な表情を浮かべて言葉を詰まらせた。
そして、深い溜息をつき間を置いた後にゆっくりと口を開いて話を続けた。
「彼女達を連れて、これ以上危険な所へ行くわけにはいかないのでね...」。
ジューンはチャールズにそう答えると、自身の金髪をかき上げながら彼女達に白い歯を見せた。
(何が『彼女達を連れて、これ以上危険な所へ行くわけにはいかないのでね...』、だ。わざとらしく間を開けた後、あからさまに渋い声作ってカッコつけやがって。紳士を意識しているようだが、ただダル絡みしてくるウザいナルシスト野郎じゃねぇか)。
ゴリラ隊員はジューンに心底から呆れていた。
そのジューンに微笑みを受けた彼女達は、黙り込んだまま困惑した様子で愛想笑いを返した。
「...」。
そんな中、ジューンの隣に座っていたワンムーンだけは、他の彼女達とは異なり軽蔑した視線を送っていた。
そのジューンを蔑んでいたワンムーンの表情は何処か寂しげであった。




