隊長の資質
やぁ! みんな!
また僕の出番みたいだね~!
今日は何を話そうかな~?
あ、そうだ!
前作読んだ人は知っている人はいるかもしれないけど、僕は王国から追い出されたハリガネの代わりに実家を管理しているよ!
でもハリガネの家って、戦士一族なだけあって武具とか魔獣を狩る道具だらけなんだけど...。
この前、ハリガネの部屋の本棚から“魔力を持たなくても使いこなせる魔法”とか“この魔法でホームレスから年収十億ゴールドの魔法使いへ!! ”っていう本を見つけたんだ~!
アイツ、軍を除隊してフリーターだったから本気で戦士から魔法使いに転向しようと思ってたのかもしれないね~!
今となっては王国から追放された罪人なんだけどね~!
さて、これからもちょくちょく顔を出していくよ~!
あと、とっってもくどいようだけど僕の詳細はシリーズⅠとⅡを見てね~!
~某道具屋の従業員~
晴天だったチェダーチーズ山も時間を経て夜がやって来た。
すっかり基地と化した洞穴の中では、パルスを中心に数人が調理を始めていた。
「煙たくないでしょ~? キッチンの傍にあるこの魔法陣は外に通じるようにしたんすよ~! これが換気扇や通気口代わりになってメチャクチャ便利なんすよぉ~! 魔法陣は見張りをしている場所に敷きましたから基地が侵入される可能性は少なくなるでしょうし、敵に襲われるリスクも大分減りますね~! 」。
パルスは声を弾ませてそう言いながら、シアターや手伝っているノンスタンスのメンバー達と共に料理を載せた皿をテーブル席へ運んできた。
「さぁ~て、食事が出来ましたよ~! “アンデシン”のステーキとシチューで~す! こっちは“ツァボライト”と“ラリマー”のカルパッチョで~す! 」。
「わぁ~!! 美味しそうっっ!! 」。
「もう何日もまともな食事してなかったもんね~!! 」。
椅子に腰かけた彼女達は目を輝かせ、湯気が立ち込める出来立ての食事を食い入るように見つめていた。
「ち、ちょっとっ!! みんなっ!! そんな不用意に口に入れたらダメよっ!! 毒が入ってるかも...ってマーシュちゃんっ!? アネックスちゃんっ!?」。
用心を促した小柄な女性を余所に、マーシュとアネックスは即行で食事に手を付けていた。
「美味し~いっっ!! これ、凄く美味しいよぉ~!!」。
紫色のロングヘアーに狸顔で気だるそうな雰囲気を醸し出しているアネックスだが、食事を堪能している彼女の表情はとても嬉しそうだった。
「ふぁんふ~んはんほふんはんほはへほ~ほ~! (ワンムーンちゃんとキュンちゃんも食べようよ~! )」。
栗色のポニーテールに大きな丸い目が特徴的なマーシュは、ステーキを口の中へ強引に放り込んでいた。
「はっはっは~!! そりゃあ無理矢理ここに連れてこられたら警戒するよな~!! しかも、ここはノンスタンスと敵対してる王国軍関係者のテリトリーだもんなぁ~!! でも、心配ないよ~ん!! ほ~らっ!! 」。
ジューンはそう言いながら自身でカットした一口サイズのステーキを放り込み、彼女達に二カッと歯を見せて笑ってみせた。
「ワンムーンちゃん、大丈夫みたいだよっ! だ、だから食べよっ? ...ねっ? 」。
黒髪のセミロングで大人びた容姿のキュンは戸惑いつつも、苦笑交じりにその三日月目でワンムーンの様子をうかがっていた。
「~~っっ!! 」。
茶髪でセミロングに小柄なワンムーンは、しかめっ面でぷくっと頬を膨らませて黙り込んでしまった。
無警戒な二人に対し、ワンムーンはすっかりヘソを曲げてしまったようだ。
「しっかし、流石は我が部隊の隊長殿~!! たった一人でブルーチーズ川から水を調達するだけでなく、こんなにたくさんの魚族や野草を手に入れてくるとはっ!! しかも、その帰路で魔獣数頭を狩ってくるというオマケつきっ!! やっぱり戦士だよなぁ~!! スゲーよぉ~!! 」。
興奮気味なパルスは入口付近に置いてある荷車に視線を送った。
荷車の中にはハリガネが狩ったであろう数頭の鳥族魔獣と、水の入った寸胴鍋とポリタンクが十数個程積まれていた。
「ヤマナカさん! 木箱に入ってる魚族魔獣はアイスボックスに全部入れちゃいやしょう! 」。
「はいっ! 」。
ヤマナカはパルスの指示の通りに荷車から大量に魚族魔獣が積まれた木箱を取り出し、それを運んでアイスボックスに入れ始めた。
「そういえばゴリラさん、勇者君は朝からずっとご飯食べてないんじゃないですか? 良いんですか? ブルーチーズ川から戻ってきてから、そのまま外の監視なんかさせちゃって」。
ジューンがそう問いかけるとゴリラ隊員は厳かな表情のまま、何の問題も無いと言わんばかりにフンッと鼻を鳴らした。
「愚問だな、寝ず食わず飲まずでへこたれるようでは王国の前線歩兵はやっていけん! 」。
ゴリラ隊員がそう答えると、ヤマナカは当然といったような様子で大きく頷いた。
「やっぱり戦時中の兵士は違いますねぇ~」。
ジューンは苦笑しながら酒の入ったグラスを口に運んだ。
「かっけえなぁ~!! やっぱ前線部隊は違うよなぁ~!! 」。
パルスは目を輝かせながらそう言うと、ゴリラ隊員は苦虫を嚙み潰したような表情で首を小さく横に振った。
「いや、“警笛”の携帯を忘れたり隊長としての自覚も足りないし、アイツにはペナルティを科して一回頭を冷やさせないといかん! 」。
「たはぁ~!! 厳しいねぇ~!! 一人で荷車持たせてまたブルーチーズ川へ向かわせるなんてね~!! まぁ、遭遇した“アルマンダイト”がここまで下ってきてなくてよかったですけどねぇ~!! しかし、元上官は鬼だねぇ~!! 」。
ジューンがそう言って再び苦笑しながら彼女達や隊員,子供達と食事を楽しんでいる一方、彼等とは離れた洞穴の入口に立っているゴリラ隊員。
「...」。
厳かな表情を変えず、岩に塞がれている入口をずっと睨んでいた。
「...俺が『もう一度ブルーチーズ川へ行って水を汲んでこいッ!! ついでに、その水で頭冷やしてこいッ!! 』って言った時の勇者の行動を覚えてるか? 」。
ゴリラ隊員がボソッと呟く様に問いかけると、近くにいるヤマナカは小さく頷いて同じく塞がれた入口に視線を移した。
「はいっ! 地面に落ちた“警笛”を拾い上げ、そのまま荷車を牽引して現場へ向かわれましたっ! 私も同行する旨を伝えたのですが、その必要は無いと...」。
「どんな意図があると思う? 」。
ゴリラ隊員が続けてそう問いかけると、ヤマナカは険しい表情で地面を見下ろした。
「...隊長の表情を察するに、おそらく地形や周囲の環境をもう一度確認したかったのかと。隊長は“アルマンダイト”と遭遇したとの事ですから、その時のシチュエーションも考えているのではないでしょうか? 」。
「ふむ...」。
ヤマナカの答えを聞いたゴリラ隊員は、納得した様に小さく頷いて天井を見上げた。
「現時点の総力でターゲットの討伐は圧倒的に不可ではない...という事か。さて、隊長はどう出るかな...」。
ゴリラ隊員は表情を崩さずにボソッと続けてそう呟くと、ヤマナカは安堵を含んだ笑みを浮かべて小さく頷いた。
「...」。
ジューンは彼女達にちょっかいを出しながら食事を楽しみつつ、二人のその様子を遠くから眺めて微笑を浮かべていた。




