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番組制作会社“株式会社セイイタイショウグン”


フンッ!


元部下が自分の上官になっても、何とも思わんッ!


自身の地位なんか今となってはどうでもよいッ!


俺達に今後命の保障が無い身分であるからこそ、その自覚を持たなければならないッ!


これからは、より過酷な出来事が待ち受けているであろうッ!


そして、生き続けるためには魔獣“アルマンダイト”を倒すしかないッ!


そのために俺は隊員として、その任務を果たすまでだッ!


だ、だから俺は別に今の境遇に不満なんか全く無いのだッ!


べ、別に元部下が上官になっても気にする必要なんか無いのだッ!




~討伐部隊“勇者”ゴリラ隊員~





ハリガネ率いる部隊“勇者”が荒野を移動中、再びポンズ王国方面から飛行物がハリガネ達に向かって接近してくる。


「...ッッ!? 後方から飛行絨毯が接近中ッッ!! 」。


そう叫んだゴリラ隊員が飛行物の方向にライフルを構え、同じくハリガネ達も銃口で向かってくるターゲットに照準を合わせた。


「敵襲ッッ!! 飛行絨毯上には男性二名ッッ!! 止まれぇぇぇぇえええええええええええええッッッ!!! 」。


ハリガネは接近してくる男達に銃を向けながらそう叫んだ。


「すいませぇ~んっ!! 僕達は敵じゃありませぇ~んっ!! 」。


接近してくる二人の男はハリガネ達に対して両手を挙げ、敵意が無い事を示していた。


男達は同じく飛行絨毯でやって来たパルスやシアターの時とは異なり、鎧や兜といった防具を装備していなかった。


一人は黒髪ドレッドヘアーの大柄な男で黒縁のメガネをかけている。


もう一人は白髪交じりにオールバックヘアーの男でありドレッドヘアーの男と同様、眉間にはしわが深く刻み込まれた厳つい顔立ちをしており銀縁の黒いサングラスをかけている。


軽装である二人の容姿を見ると、どうやら軍人ではなさそうだ。


「絨毯から降りろッ!! 両手を頭の後ろに組んだまま動くなッ!! 」。


ハリガネが銃を向けたままそう命令すると、男達は両手を頭の後ろに組んで指示に従った。


「何処から来たッ!? お前等は何者だッ!? 」。


ゴリラ隊員も男達に銃を突き付け、厳かな口調でそう問いかけた。


「わ、私達はポンズ王国にある民間会社で番組制作をしているメディア関係者ですっ! この度、皆さんが魔物討伐をされるという情報を耳にしましてっ! 撮影のため同行させていただきたく参りましたっ! 」。


「撮影だと...? 」。


ゴリラ隊員は片眉を吊り上げて男達を睨んだ。


「あの、名刺お渡ししてもよろしいでしょうか? 」。


ドレッドヘアーの男がそう問いかけると、ゴリラ隊員は鋭い視線をヤマナカに移した。


ゴリラ隊員の様子を察したヤマナカは、銃を下ろしてドレッドヘアーの男の正面に立った。


ヤマナカはその男から名刺を受け取り、男達を警戒しながらその名刺をゴリラ隊員に渡した。


「...は? 番組制作会社“株式会社セイイタイショウグン”? 」。


ゴリラ隊員はその名刺を確認した後、険しい表情を保ったまま男達の顔を凝視しながらそう言った。


「はい、先程も申し上げましたが私達は民間会社で番組制作をしています。私はその会社の代表取締役をしております。チャールズ=マッコイと申します」。


チャールズというドレッドヘアーの男はそう自己紹介した後、ハリガネ達に一礼した。


「隣の男はアシスタントと撮影を担当しているフユカワです」。


「フユカワと申します! よろしくお願いいたします! 」。


チャールズに紹介されたフユカワも、そう挨拶してハリガネ達に一礼した。


「それで...。さっき同行って言ってたけど、それは何のために...? 」。


チャールズとフユカワから名刺を受け取ったハリガネは、怪訝な表情を浮かべながらそう問いかけた。


「実は弊社の方でドキュメンタリー番組の制作を考えてましてね~。是非とも我々も同行させていただきたいのです。王国で聞いたところによると、皆さんは“炎の守護神”と呼ばれている凶悪魔獣のアルマンダイト=ガーネットを討伐されるみたいじゃないですか~」。


ゴリラ隊員はチャールズの言葉を聞いて表情を曇らせた。


「おい、これは企画とかそんな半端なものじゃないんだぞ? これは殺し合いだ。そこへ辿り着く前に、賊人等の蛮族に囲まれて生命の危機に瀕する事もあり得るのだ。今からでも遅くはない。日が沈まないうちに引き返せ」。


「勿論、そのリスクは承知しております。皆さんの行動を邪魔する事はしませんから。そこを何とかお願いしますよぉ~」。


チャールズがそう懇願すると、ゴリラ隊員は一層表情を険しくして詰め寄った。


「良いわけねぇだろ。周りでチョロチョロされると気が散るし、何よりもそんな飛行絨毯でウロウロされると敵に勘付かれるだろうが」。


「それも大丈夫です。ヤバくなったら避難しますから、我々に構わず戦闘してください」。


「ふざけんなッ! 邪魔になるからとっとと帰りやがれッッ!! 」。


「まあまあ! 」。


ハリガネは即座に、血相を変えて怒鳴るゴリラ隊員とチャールズの間に割って入った。


「まぁ、邪魔にならない範囲からの撮影だったら別にいいんだけどさぁ~。そもそも、俺達なんか撮ってどんな番組を作るつもりなのさ~? 」。


二人の仲裁に入ったハリガネはチャールズにそう問いかけた。


「ポンズ王国で起こった“ガレージの乱”により、王国兵士のゴリラさんと元王国兵士のハリガネさんは逮捕されるという憂き目に遭われたことは存じ上げております。そして、御二方はそのまま軍法会議にもかけられ、反逆者というレッテルを貼られてしまった事も承知しております。そして、様々なやり取りを経て、魔獣討伐へ旅立たれた事も勿論承知しております」。


「あっ! そういえば、彼等に一週間前インタビューを受けておりましたっ! 」。


ヤマナカがそう言うと、チャールズは小さく頷いて笑みを浮かべた。


「おっ! その声はヤマナカさんでしたかっ! 兜で顔が見えなくて全然気がつきませんでしたよ~! そうでしたか~! ヤマナカさんも討伐に参加しているんですね~! 」。


「インタビュー...? 」。


ハリガネはヤマナカに視線を移しながらそう聞き返した。


「はい、実は以前からハリガネさんやゴリラさんの関係者の方に取材をさせていただいてましてね~。本当は御二方にもインタビューしたかったのですが、面会が不可能な状態だったので断念したんですよね~」。


ハリガネはチャールズの言葉を聞くと、しかめっ面で不快感を露わにした。


「ふんっ! 要は追放された反逆者のドキュメンタリーって事かよっ! 」。


ハリガネが機嫌を損ねた様子でぶっきらぼうにそう言うと、チャールズは慌てて自身の首を横に振った。


「あっ! いやっ! 勿論、最初はその形で制作するつもりでしたよっ! でもっ! ほらっ! 事情が変わったじゃないですかぁ~! 本来であれば処刑を免れない事案であったのにもかかわらずっ! 御二方は死刑を免れ今回の件に至ったわけですっ! しかもっ! 本来は王国兵士でも立ち寄れないパルメザンチーズ山脈へ魔獣討伐に向かわれるという急展開っ! 」。


チャールズが嬉々とした様子で声を弾ませてそう語る姿に、ハリガネはうんざりした表情を浮かべた。


「...んだよ、急展開って。それで、俺等の後を追ってきたっていうわけ? でも、どうやってここまで来たんだよ? 俺達はバルサミコス市の門扉から出ていったが(まぁ、ヤマナカは違うルートから追ってきたけどさ)、通常は出入りができないはずだぞ? 別の検問所から回って来たのか? 」。


「いえいえ、私達もバルサミコス市の検問所から出ました。これは...あんまり言ってはいけない事なんですが...。まぁ、ここまで来たら...もういいかなぁ~? 」。


「...? どういうこったよ? 」。


苦虫を嚙み潰したような面持ちのチャールズに、ハリガネは眉をひそめて問いかけた。


「実は数時間前に、貴族の軍人ゼナイレ伯爵パルス=イン八世対魔獣危機管理局長官とその側近が失踪したという事件が発生しましてね~。我々はメディア側の人間なので伯爵の捜索に協力するという理由を利用して、特例でバルサミコスの検問所からの出国が許可されたのですよ~。まぁ、王国周辺()()の捜索が条件だったんですけど、それも破った上でここまで来てしまったので我々も引き下がれないんですよね~」。


チャールズの話を聞いたハリガネ達は、困惑しながら隊員同士顔をその場で見合わせた。


「は、伯爵が失踪した事は...。結構...国内で騒ぎになってる感じなの? 」。


ハリガネの問いかけにチャールズは大きく頷いた。


「勿論ですよ~! 貴族出身にして現役の高官軍人が失踪したんですから~! それも“ガレージの乱”で逃れていたノンスタンスの残党が、そのまま王国内に潜伏していてゼナイレ卿を拉致したんじゃないかという噂が広まってますからね~。報道ではその事件のことで持ち切りでしたし政府や軍どころか王国全体が気が気じゃないって感じで、もう混乱状態でしたよ~! 一体、伯爵は何処にいるのやら...。まぁ、我々はそのおかげで国外へすんなり出れたわけなんですけどね~」。


チャールズはそう言って肩をすくめた。


「...」。


ハリガネ達は黙ったまま、仏頂面でパルスに冷たい視線を向けた。


「さ、さぁ~て! 勇者隊長殿ぉ~! 日が暮れてしまいますぞぉ~! 先を急ぎましょうぞぉ~! 」。


その視線を感じたパルスは冷や汗を首筋に滴らせ、皆から背を向けて逃げるように歩き出した。


「...」。


ハリガネ達はパルスの背中を視線で突き刺す様に睨み続けていた。



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