デイと“ルベライト”
あ、そういえば、“変異”について少し本編で話をしたと思うんだけどね~。
そもそも魔力を持つ獣が魔獣として生まれたきっかけっていうのが、魔力を秘めた鉱石や野草を体内に取り込んだという事が要因とされているね。
その魔獣や野草等を人間が食したり、魔獣との直接的な繁殖活動によって混血が生まれたんだ。
その混血の存在によって、血を受け継いだ魔力を操る人間...。
その魔力に適性のある者達がポンズ王国の大陸上で広まっていったといわれているよ。
そして、我が王国の専門機関は幾度と実験や研究を繰り返してきた。
つまり、魔力を放出しない人間の体内に魔力の成分を直接体内に注入したという事だ。
しかし、人工的に適性の無い人間が魔力を操れるようになったのは数件のみ。
しかも、魔力を放出する事に成功した者達も、日が経つと魔力を出す事ができなくなっていた。
“醒覚”も分からない事だらけだけど、“変異”という現象も解明できていない事だらけなんだ。
~討伐部隊“勇者”パルス=イン八世隊員~
肉眼では周囲を確認できない程、真っ暗な世界が広がる真夜中のチェダチーズ山。
そして、何処からともなく響き渡る魔獣の唸り声。
そんな境遇の中、ハリガネ達はノンスタンスの残党が身を潜めていた洞穴の中で一夜を過ごしていた。
洞穴内は白い輝きを放つ魔法陣が天井に張り付いており、辺りを明るく照らしていた。
ハリガネ達は熟睡している子供達から離れた席に腰かけ、神妙な面持ちでテーブルを囲み話をしていた。
「なるほどね~、それで君達はリーダーのデイとパルメザンチーズ山脈内で揉めちゃって別行動という事なんだね~」。
「は、はい...」。
ジューンがそう言うとホワイトは神妙な面持ちのまま、うつむき気味に小さく頷いて力なくそう答えた。
ホワイトの横に座っている二十代の青年達も暗い表情で何も言わずに下を向いていた。
「ここは色々と隠された真実が浮き彫りになっていく場面だぞ...。ちゃんと撮っておけよ」。
「うっす」。
チャールズは小声で声をかけると、フユカワは頷きながら両手で魔法陣を浮かび上がらせて収録を続けていた。
「ふむ...。それで、ホワイト君達は自身やここにいる子供達を命を考えて山脈から離れていったと。そして、デイ達はパルメザンチーズ山脈に今も潜伏している可能性が高い...と。」。
「は、はぁ...。多分、“アルマンダイト”を討伐するためにまだ山脈にいると思いますわ...」。
ホワイトが力なくそう答えると、ジューンは両腕を組み天井を見上げて考える素振りを見せた。
「うーん、そうなるとデイは討伐した“アルマンダイト”の肉や血液を自身の体内に取り込み、己が魔獣として受け継いだ血を“変異”によって強化させようとしているのかもね~」。
「ふ~ん、デイが率いている残党の居場所を突き止めるよう王国に頼まれたのか」。
ハリガネは頬杖をつき、メモを取りながらホワイト達に事情聴取をしているジューンにそう声をかけた。
「うん! ちょうど捜査中に勇者君達を見つけたからついてきちゃった~! ついでに勇者君達の動向も王国に伝えて報酬上乗せしてもらおうかな~? 」。
「...ケッ!! そいつは都合が良いこった! ...ところで、ちょっと聞きたいんだけどさ」。
「ん? 何? 」。
「さっき“醒覚”とか言ってたけど、その“醒覚”は変異と意味合いが違うわけ? 」。
「...へ?? 」。
ジューンはハリガネの問いかけに目を丸くし、素っ頓狂な声を上げた。
「おい、自分で言った事忘れてんじゃねぇよ。さっきまであそこの壁に寄りかかってカッコつけてたじゃねぇか」。
「え?? あっ...。ああっ!! はいはいっ!! 言ったぁ!! 言ったねっ!! 確かにっ!! 」。
ジューンが何度か手を叩いて思い出した様な素振りを見せた。
(やっぱり忘れてやがったな、このオッサン)。
その反応を見たハリガネはうんざりした様子で溜息をついた。
「ここに座っているデイの側近ホワイトが“ルベライト”の一族として目覚めていない力が解放されれば“アルマンダイト”を討伐できると言っていたが、それと“醒覚”とやらが関係あるという事なのか? 」。
ゴリラ隊員にそう問いかけられたジューンはグラスに入っていた酒を口の中へ流し込み、味わう様にゆっくりと転がした。
「うーん、“変異”っていうのは魔獣の一部や特殊な物質によって自分の能力が引き出される事...って言えばいいのかな~? それで...“醒覚”っていうのは元々魔法は使えるし魔力があるんだけど気づいてないというか...。コツが掴めてないから出せないというか...何というか...」。
しどろもどろに答えて天井を見上げるジューンにハリガネは一層顔をしかめた。
「何だよ、その曖昧な説明は」。
「いやぁ~! “醒覚”に関しては分からないことだらけで、上手く説明出来ないんだよ~! 」。
「何だよ、それ」。
「あ、“醒覚”ってなんか聞いた事がありま~す! 」。
そう言ったパルスは険しい表情を浮かべ、“醒覚”に関して思い出そうと目を泳がせていた。
「え...と、秘めたる力を開放する事に関しては“変異”と同じだけど“醒覚”は儀式や物質を吸収するような意図的な開放ではなく、突発的に力が開放されると言われていますね~」。
「突発的に...ですか? 」。
ハリガネは首を傾げてパルスに視線を向けた。
「う~ん、“醒覚”に関しては科学的に立証されていないから本当に説明が難しいんだよな~。端的に言えば何も特別な事はしていないけど元々魔法が使える適性が体内に存在してて、いつの間にか使えるようになってた...みたいな」。
パルスは眉間にしわを寄せた険しい表情のまま腕組みをしてそう答えると、ジューンは頷きながらゆっくりと口を開いた。
「その“醒覚”であろう実例の中には魔力の適性が無い血筋の人間が、突如魔力を操れるようになっていたというね。ただ、その人の血液からは魔力の存在が確認はできなくて、魔法自体も上手く操れるわけではなかったみたいだしね。結局、その人もしばらくしたら魔法が使えなくなってしまっていたらしいんだ。そんなこんなで“醒覚”という存在も未だに分からずじまいだし、情報が少な過ぎて謎な事だらけなんだ」。
「都市伝説みたいな話...って事か」。
「まぁ、ミステリーな話だよ。ただ、君達の話の中でデイがルベライトの種族であるという事が本当だとなると...。ちょっとタチが悪いんだよね~。まぁ、今回はデイが自身をルベライトと人間の混血だと証言していたという事だけでも収穫はあったかな~」。
ジューンはハリガネにそう言葉を返し再びグラスの酒を一口喉に流し込むと、ハリガネは溜息をついて小首を傾げた。
「何か腑に落ちないけど...。デイが頭ごなしに“アルマンダイトを討伐しようとしている事は分かったわ。まぁ、俺達としても良かったな。これで奴等を殺す手間が省け...オ、オイっっ!! 」。
「さぁ~て、ご飯も食べたし酒も飲んだし。しばらくここで泊まらせてもらうよ~ん」。
ジューンは欠伸をしながら完成したばかりのベッドに横たわった。
「ちょっっ!! 何フザけた事言ってんだ!! 王国に帰れよっ!! 」。
「勇者君、そんな冷たい事を言わないでよ~。もう夜は遅いし、魔獣に襲われちゃうよ~」。
「そんなの自分の魔法で...お、オイっっ!!」。
ジューンはベットに横たわるなり、即行で寝息を立てた。
「も、もう寝やがった...。こんな山脈付近の危険地域でなんて無防備な奴だ...。コイツ、本当に強いのか? 」。
ゴリラ隊員は怪訝な面持ちでジューンとハリガネを交互に見ながらそう問いかけた。
「...だと、思うんですけど」。
ハリガネは他の者達と共に困惑した表情を浮かべ、ポリポリと自身の頬を人差し指で掻きながら熟睡するジューンをただ見つめる事しかできなかった。




