充実した基地生活
フフフ、ようやく俺の出番が来たようだな...。
そう、俺はさすらいの遊び人ジューン!
現在、独身!
趣味は酒と尾行!
彼女いません!
募集中で~す!
...。
~さすらいの遊び人、ジューン~
「ほう...。当時お前の仕事先であったパブで知り合って、その後に軍の依頼でお前に接触したという事か」。
「ええ、先程も言いましたがそのパブでちょっと一悶着ありまして、その際に使っていた魔法も特殊だったので只者ではないと思...お前何してんのっ!? 」。
ハリガネはゴリラ隊員に事情を説明している時、ヤマナカが岩で製作した椅子でくつろいでいるジューンを二度見した。
「ん~? 終わった? 勇者君の話が長いからさ~! 立ってるのも疲れるからね~」。
「はいは~い、料理が完成しましたよ~! 」。
パルスとシアターが調理した魔獣の肉を載せた皿を運んできた。
「なっ...!? 俺がずっと話をしてるうちにテーブルとか椅子が置いてあるっ!? 何かベットや家具っぽい置物まであるしっ!! 」。
「洞穴から大岩をたくさん運んで作ってみましたっ! こういう遊び心も大事ですよねっ! 」。
ヤマナカは食器の運搬を手伝いながらハリガネにそう答えた。
「最早、遊び心ってレベルじゃねぇよ。しかし、なんか本格的な基地になってきたな...。あっ!! 誰だよっ!! 捕虜の縄解いたのっ!! 」。
ハリガネの視線の先には捕虜であるノンスタンスのメンバー達が広いテーブルを占領し、パルスの料理にがっついていた。
「まぁまぁ、いいじゃ~ん! こんな危険な区域内では助け合わないと~! ささっ! 勇者君達もこっちへおいでよ~! 」。
ジューンはノンスタンスのメンバー達が陣取っているテーブルから少し離れた隅のテーブル席に腰かけていた。
非常にリラックスした様子でそのテーブル席に置かれている椅子を指差し、ハリガネとゴリラ隊員に向かって手招きをしている。
「何だッ!! アイツはッ!! 自分の家じゃないんだぞッ!? パルメザンチーズ山脈が目の前なのによくリラックスしていられるなッ!! 」。
ゴリラ隊員は顔をしかめつつ腰に両手を当てた。
「ここまで武装もせずに一人だけでやって来たわけですし、やはり只者ではないことは確かです。王国軍の施設に潜入できるぐらいですし」。
「そこも気になるところだ。軍の依頼ならわざわざ潜り込む事なんぞせんでよかろう。まぁ、奴の言い分は聞いてやろう。どうせ、今となっては俺もお前も王国の兵士ではないのだからな」。
「そうっすね」。
ハリガネとゴリラ隊員は少し言葉を交わし、ジューンのいるテーブル席へ歩み寄った。
「ささっ! 座って! 座って! 」。
ジューンはそう言いながら白い革の袋から小洒落た酒瓶を取り出した。
「おい、何で酒なんか持ち歩いてんだよ」。
「やだなぁ~! 勇者君~! 戦場にも楽しみは必要でしょう~? 俺はお酒が大好きでね~! これがあるから俺は生きてるようなもんだよ~! 」。
「...アンタの第一印象、タチの悪い酔っ払いの客だったからな」。
睨みを利かすハリガネとゴリラ隊員を余所に、ジューンは嬉しそうな様子でテーブルに酒瓶を置いた。
「そんな事よりも質問に答えろッ!! 何故お前がここにいるんだッ!? 王国からの要請で監視を任されたのかッ!? 」。
「う~ん、どこから話そうかねぇ~? 」。
ジューンはゴリラ隊員にそう答えながら革袋から銀のグラスを数個取り出し、鼻歌を歌いながらそれ等をテーブル上に置いた。
「店で放った魔法といい、一人スーツの軽装でここまでやって来た事といい...。色々考えても普通の遊び人ではないだろうが」。
「まぁ、勇者君の言っている事も、思っている事もだいたい分かるよ~。ただ、これだけは言えるんだけど、本当に俺は王国軍にも法人にも属していないフリーの遊び人なんだよね~。ちなみに主な収入源は潜入捜査や調査等を経て手に入れた情報の取引だよ~」。
「なるほど、探偵とかそっち系の遊び人か」。
「そそっ! 特に軍が関与すると面倒臭い捜査は、俺達みたいな死んでも困らない遊び人に仕事を任せる時があるのさ~。まぁ、俺はこれで二十年以上食べてるけどね~」。
ジューンはハリガネにそう答え、グラスに酒を注ぎ始めた。
「それで、お前が俺達に接触するように命じたのも王国からの要請なんだな? 他国の領域内に俺達を侵入させないために監視を任されたんだろ? 」。
ゴリラ隊員がそう問うと、ジューンは酒の入ったグラスを回しながら眉間にしわを寄せて考える素振りを見せた。
「う~ん、王国の依頼でここまで来たのは確かなんだけど...。今回はちょっと...君達の件じゃないんだよな~」。
「は? どういうこったよ?? 」。
「う~ん...」。
ハリガネの問いにジューンが険しい表情を浮かべつつ両腕を組んで返答に困っていると、パルスとホワイトが料理を運んできた。
「まぁまぁ、隊長~! 酒のおつまみに“アンデシン”のホルモン焼きでもどうぞぉ~! 」。
「おぉっ!! 美味そうっ!! 」。
テーブルの上に料理が置かれると、ジューンは目を爛々とさせた。
「ぱ、パルスさん...! そんな...。こんな事までしなくても...」。
「いえいえ! 自分は隊員の中でも下っ端っすからね~! このぐらいはしないと~! 」。
「い、いや...。でも...」。
「ロック用の氷もありまっせ~! それとも水割りしますか~? 」。
ホワイトは氷塊が入ったアイスペールをテーブルの上に置きながらそう問いかけた。
「お前も捕虜なのに何溶け込んでんだよっ! 」。
「いやぁ~! 美味しい料理でしたわぁ~! 何か今までは諸国の兵士に追われて気も休まりませんでしたし、飲まず食わずでしたから助かりましたわぁ~! 本当にありがとうございますぅ~! 今日は子供達もグッスリ眠れますわぁ~! 」。
そのノンスタンスの子供達は洞窟の隅に設置された石製のベッド上で既に寝息を立てていた。
「い、いつの間に魔獣の毛皮を剥いだんだ...? それを布団や枕代わりにするとは...。き、器用だな...」。
「裁縫セットも持参してたんすよ~! シアターが裁縫とか得意なんでやってもらって、皮剥ぎはヤマナカさんに頼みました~! 椅子も石製だから硬いんでカバーとかマットレスを作ってもらってます! 」。
「ははは...。僕はこれくらいしか役に立てないですから~」。
シアターはそう言いながら手際よく針や糸でモノ作りをしており、起きているノンスタンスの少女達も裁縫を手伝っていた。
「つーか、ヤマナカ。お前さっきから何してんの? てか、そのデカい氷の塊どうしたんだよ? 」。
ハリガネが指差した先には、手刀と拳のみで巨大な氷を四角形に形成しているヤマナカの姿があった。
「パルスさんに魔法で氷塊を召喚していただきましてっ! それで食料や薬品を保存するためのアイスボックスを作ってますっ! 」。
「洞穴の中は比較的に涼しいんでね~! 氷塊は簡単に溶けないと思いやしてね~! 」。
「そうか、氷はパルスさんが出したのか...。なんか充実した基地生活がこれから送れそうだな...。逆に戦時中に構えていた部隊の基地よりも快適なんじゃないか? 」。
ハリガネはそう言いながら基地内を見回していた。
「まぁまぁ、お酒でも飲んでリラックスしましょうや~! あ、これブランデーだけどストレートがいい? それともロック? 」。
ジューンはそう言って二人の前にグラスを差し出した。
「フンッ!! こんな危険な場所で酒なんか飲めるかッ!! しかも、お前みたいな怪しい奴の酒なんぞッ!! 」。
「えぇ~?? 」。
ゴリラ隊員に拒絶されたジューンはつまんなそうに口を尖らせた。
「...ったく、さっきからはぐらかしやがって。それで、俺達に用が無いんなら何でここにいるんだよ? 単なる冷やかしか? 」。
「う~ん。用があるのはね~、君達にだよ~」。
ジューンは傍でお酒を注いでいるホワイトの肩を叩いた。
「へ?? 僕?? 」。
ホワイトはキョトンとした表情で自身の顔を指差した。
「うん、君達ノンスタンスのリーダーである“赤髪のデイ”について...なんだけどね」。
ジューンは微笑を浮かべながらホワイトにそう答えた。




