醒覚SEIKAKU
僕はノンスタンスのアジトで生まれたよ。
パパもママもノンスタンスのメンバーだよ。
でも、兵隊さんから逃げてる時に二人共死んじゃったってデイ様が言ってた。
~ノンスタンスのメンバー、ダマエ~
「デイの奴が何で“アルマンダイト”を討伐すんだよ? 」。
ハリガネは怪訝な面持ちで男に問いかけた。
「いや、もともとデイ様に“アルマンダイト”の討伐はお考えになかったのですよ」。
「何だよ。どういうこったよ? 」。
「潜伏していた地域から追われた成り行きとはいえ、最初は兵士から逃れるためにパルメザンチーズ山脈で身を隠す話になっていたはずだったんです...」。
「さっきソイ=ソース国の兵士にばったり会って聞いてたんだが、お前等はソイ=ソース国に潜伏してたんだってな」。
ゴリラ隊員がそう言うと、男は頷いて話を続けた。
「ええ…。ですが、兵士からアジトの場所がバレてやむを得ずパルメザンチーズ山脈へ逃げたんです。それで、デイ様やホワイトさんとは山脈で再会する事ができたのですが...その...」。
「...ん? 」。
男は声を詰まらせ、怖ず怖ずとホワイトの方に視線を向けた。
その視線に勘づいたホワイトは気落ちした様子で溜息をつき、重い口をゆっくりと開いた。
「...ポンズ王国へお邪魔した後、僕やデイも辛うじて山脈の方へ逃げ込みましたわ...」。
(何がお邪魔した、だ。ゲリラ仕掛けてきやがったくせして、今になって何オブラートに包んでやがんだ)。
ハリガネは表情には出さなかったものの、心の中でホワイトの発言にツッコミを入れていた。
「しばらくはデイやソイ=ソースのアジトから逃げてきた仲間達と山脈で隠れ続けていたんですが...。ほら、山脈って凶暴な魔獣うじゃうじゃいるじゃないですか。魔獣や兵士にも追われて僕らはボロボロだったわけですわ。そんな中、デイが“アルマンダイト”を狩るなんて言いよって...」。
「だからと言って、せっかく山脈へ着いたんだから“アルマンダイト”一狩りしに行こうぜとはならんだろ。デイの奴、遂に気が狂ったのか? 」。
ハリガネが眉をひそめてそう言うと、ホワイトはうつむき気味になって話を続けた。
「デイが混血なのは知ってまっか? 」。
ホワイトがそう言うと、ハリガネは小さく頷いた。
「ああ、母方が異民族だという情報は得ていたが...」。
「えと...その...。デイは...自身が“ルベライト”の種族だ...と。人間と魔獣の血を引き継いだ混血である...と」。
ホワイトがたどたどしくそう言うと、周りにいた隊員達は怪訝な面持ちで首を傾げた。
「まぁ...あれだな」。
ハリガネは溜息をつき、やれやれといった様子で首を横に振りながら肩をすくめた。
「あの...あれだろ? お前が王国の図書館で変な魔法かけたから、デイの奴がおかしくなっちまったままなんだろ? だからそんな妄言を言ってるんだろう? 」。
ハリガネがそう言うとホワイトは顔をしかめ、頬に手を添えて考える素振りを見せた。
「デイの証言のみなので何とも言えないですが...。魔獣の子の自分が“アルマンダイト”の血や肉体の一部を取り込めば身体は進化し、より魔力が強化される...。自分が強くなれば僕達も救える...と」。
ホワイトの言葉を聞いたハリガネは、険しい表情で両腕を組んだ。
「魔獣にもそんな性質が...? 」。
「“変異”ってやつですね~。魔獣も喰うか喰われるか弱肉強食の世界っすからね~。魔力のある植物や動物を食して今までにはなかった力を手に入れる事もあるんすよ~。時折は人間を喰らったり襲ったりして人型の魔獣も誕生し、その魔獣は自我と知識も手に入れた。その魔獣の一族が“ルベライト”という事っすな~」。
パルスがそう補足すると、ハリガネは納得した様に頷いた。
「なるほど~、それでデイはその変異の為に“アルマンダイト”を食べようっての? 逆に喰われんじゃないの? 国家の軍隊レベルでもやっとこさなのに…。それじゃあ、ただの自殺行為だろ? 」。
「それが...その...。デイが言うには、自身“ルベライト”の一族であるから目覚めてない秘めたる力があるに違いない...と。“ルベライト”の魔力が十分に解放されれば“アルマンダイト”にも通用する...と」。
神妙な面持ちでそう言うホワイトを見ながら、ハリガネが呆れた表情を浮かべて溜息をついた。
「...まぁ、どうでもいいけどさ。とりあえず、デイがそのまま死んでくれるのなら、この先がやりやすく...」。
「醒覚っていう事も...考えられるね」。
「...ッッッ!!! 」。
(な、何ッ!? 居場所がバレただとッ!? 全然気配感じなかったぞッ!? だ、誰だッ!? 賊人かッ!? ノンスタンスの残党かッ!? )。
ハリガネ達が声のする方向に顔を向けると、岩で塞いだ入口の側で一人の男が両腕を組んで洞穴の壁に寄りかかっていた。
声の主はセンター分けセミロングの金髪、無精髭で長身の男であった。
「...あっ! 」。
ハリガネは茶のスーツシャツをラフに着こなした男に見覚えがあった。
「ぬっ? 知っているのか? 」。
ゴリラ隊員がそう問うと、ハリガネは頷きながら男を指差した。
「あの時のオッサ...」。
ハリガネがそう言いかけた時、男はすかさず掌をハリガネの方に向け...。
ドガァァァァアアアアアアアアアンッッ!!
その掌から放たれた黄色い光線がハリガネの顔の真横を高速で通過し、洞穴の壁を破壊した。
「次、オッサンって呼んだら、判決が下る前に俺が刑を執行するって軍事刑務所で言ったよね? 」。
その時、洞穴の壁の一部を破壊した男の口元は笑っていたが、完全に目は据わっていたようにハリガネは思った。




